8
王都アズ・ラハム。
白亜宮殿前広場。
そこには数千人の貴族と兵士が集められていた。
真昼。
灼熱。
乾いた風。
そして。
処刑台。
高く組まれた木造台の上で、数人の反逆貴族が縄に繋がれていた。
顔面蒼白である。
一方。
玉座型の豪奢な椅子へ座る女王サフィールは、非常に退屈そうだった。
「……始めなさい」
冷たい声。
兵士たちが震えながら頭を下げる。
「はっ」
処刑人が前へ出る。
広場は静まり返っていた。
貴族たちは皆、表情を固めている。
なぜなら。
これは“見せしめ”だからだ。
女王サフィールは昔からこうだった。
反逆者を許さない。
しかも。
ただ殺すだけでは終わらない。
必ず貴族たちを呼びつける。
逃げることは許されない。
全員、見ろ。
逆らった者がどうなるか。
それを理解しろ。
そういう女だった。
昔のサフィールは、この時間が割と好きだった。
人間の恐怖を見るのが面白かったのである。
強気な貴族。
傲慢な将軍。
野心家の王族。
そういう連中が、自分の前で青ざめる。
それが快感だった。
実際。
広場に並ぶ貴族たちは今も震えていた。
「……っ」
「女王陛下……」
「恐ろしい……」
誰も逆らえない。
サフィールは絶対権力者だった。
少なくとも。
以前までは。
「…………」
女王は頬杖をついていた。
つまらない。
非常につまらない。
処刑人が罪状を読み上げる。
「反逆罪!横領!王家への侮辱!」
歓声なし。
悲鳴あり。
いつも通り。
なのに。
(……退屈ねぇ)
刺激が足りない。
昔ならもっと楽しかった。
だが。
最近のサフィールには、どうしても比較対象が出来てしまった。
レイ。
世界最強の怪物。
あれを知ってしまうと、人間同士の権力劇が妙に小さく見える。
例えば。
この処刑台。
レイなら蹴り一発で吹き飛ぶ。
兵士数千人?
意味がない。
王国?
気分次第で壊せる。
なのに。
「のだっ♡」
普段は肉食って寝ている。
意味が分からない。
女王は小さくため息を吐いた。
その時。
処刑人が斧を振り上げた。
広場が息を呑む。
次の瞬間。
ズバンッ!!
首が落ちる。
血が飛ぶ。
悲鳴。
貴族たちが顔を青くした。
以前なら。
サフィールはここで笑っていた。
だが今は。
「……ふぅん」
反応が薄い。
慣れた。
あるいは。
もっと異常なものを知ってしまった。
一方その頃。
「のだぁああああ!!」
遠く離れた南部砂漠遺跡。
レイは巨大なカレー色の怪物と戦っていた。
『オドレェエエエエエ!!!』
おどるカレーまじん。
古代遺跡に封印されていた意味不明な魔物である。
巨大鍋を背負い。
全身から香辛料を撒き散らし。
踊りながら襲ってくる。
しかも強い。
熱波。
爆炎。
香辛料嵐。
普通の兵士なら数秒で死ぬ。
だが。
「のだぁあああ!!辛いのだぁあああ!!」
レイは別方向で苦戦していた。
目が痛いのである。
『オドレェエエエエ!!』
「うるさいのだぁ!!」
ドゴォォォォォン!!!
遺跡半壊。
おどるカレーまじん、壁へ激突。
しかし立ち上がる。
『スパイスこそ情熱ぅううう!!』
「意味分からないのだぁ!!」
レイは泣きそうだった。
暑い。
辛い。
うるさい。
最悪である。
なお。
女王サフィールは今朝こう言っていた。
「レイ、南部遺跡の怪物倒してきて」
「のだぁ?何もらえるのだぁ?」
「帰ったら羊丸焼き二十頭分」
「行くのだっ♡」
即出発。
単純だった。
現在。
王都では処刑。
南部ではレイが怪物と殴り合い。
同じ国家とは思えない。
広場では二人目の首が落ちた。
貴族たちは震えている。
女王はそれを眺めていた。
昔と変わらぬ光景。
なのに。
どこか物足りない。
(……刺激が弱いのよねぇ)
その時だった。
兵士が駆け込んできた。
「へ、陛下ぁ!!」
「何」
「南部遺跡が半壊しました!!」
「そう」
「おどるカレーまじんは討伐確認!!」
「でしょうね」
「あと砂嵐が王都方面へ!!」
「……は?」
数秒後。
ゴォォォォォォッ!!!
王都へ熱風が吹き込んだ。
香辛料。
超香辛料。
目が痛い。
「ぎゃああああ!!」
「辛いぃぃぃ!!」
「水ぅぅぅ!!」
広場大混乱。
貴族たち涙目。
処刑人も咳き込む。
そして。
遠くから。
「のだぁあああああ!!辛いのだぁああああ!!」
レイの叫び声が聞こえてきた。
女王は数秒沈黙した。
そして。
ふっ。
少しだけ笑った。
「……ほんと、退屈しないわねぇ」
久しぶりだった。
処刑より面白いと思ったのは。




