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獣人族最後の生き残りですが、同族が全員食べ過ぎで滅びました  作者: 雪だるま


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5

 深夜。


 砂漠の王都アズ・ラハムは静まり返っていた。


 昼間は喧騒に満ちる巨大都市も、夜になれば風と砂の音しか聞こえない。


 白亜宮殿最上階。


 女王サフィールの私室だけが、ぼんやりと灯りを残していた。


「……退屈ね」


 サフィールは寝台に背を預けながら、赤い葡萄酒をゆっくり傾けた。


 その横では。


「ぐごぉ……のだぁ……肉追加なのだぁ……」


 レイが爆睡していた。


 でかい。


 とにかくでかい。


 筋肉の塊みたいな男が、無防備に腹を出して寝ている。


 しかも抱き枕代わりに女王の高級毛布を抱えていた。


 サフィールはじっとその姿を見た。


「……本当に怪物なのよねぇ、あなた」


 返事はない。


 レイは熟睡していた。


 この男。


 寝る時だけは妙に静かだった。


 起きている間は。


「のだっ♡」


「肉なのだっ♡」


「キスなのだっ♡」


 うるさい。


 非常にうるさい。


 しかも無駄に懐く。


 最初は面白かった。


 世界最強を飼い慣らす。


 それ自体が刺激だった。


 だが。


 問題が起きた。


 簡単すぎるのである。


 あまりにも。


 例えば。


 以前のサフィールは忙しかった。


 敵対貴族の弱みを握り。

 税収を誤魔化す商人を脅し。

 他国へ密偵を送り込み。

 王族同士を対立させ。

 愛人を使って将軍を籠絡し。

 ついでに不要な親族を毒殺する。


 刺激的だった。


 常に駆け引き。


 裏切り。


 権力闘争。


 欲望。


 血。


 それこそが人生だった。


 だが。


 今。


「……ほんと馬鹿みたい」


 女王はため息を吐いた。


 なにせ。


 金が無限に入ってくる。


 レイがいるから。


 伝説級魔物討伐。


 古代遺跡探索。


 超危険地域制圧。


 普通なら国家予算レベルの案件を、レイが数時間で終わらせる。


 しかも。


「のだっ♡陛下にプレゼントなのだっ♡」


 とか言って素材を全部持って帰ってくる。


 その価値。


 国家一つ分。


 もはや意味が分からない。


 先週だけでも。


 火山竜の心臓。

 神代金属。

 深海魔獣の牙。

 古代宝石。

 超高純度魔力結晶。


 これらが王宮倉庫へ雑に積まれていた。


 財務大臣が震えていた。


「へ、陛下……国家予算が……」


「増えたわね」


「三十倍です……」


「ふぅん」


 終わりである。


 努力も陰謀もいらない。


 レイが暴れるだけで全部終わる。


 サフィールは最初こそ笑っていた。


 だが。


 最近は違った。


 退屈なのだ。


 誰かを罠にはめる必要もない。


 交渉も不要。


 脅迫も不要。


 なにせ。


「レイ、北部山脈の盗賊国家潰して」


「のだっ♡」


 終わり。


 数時間後。


 国家消滅。


 話にならない。


 しかも。


 レイは権力欲が薄い。


 非常に薄い。


「王になりたい?」


「のだぁ?面倒なのだぁ」


「金欲しい?」


「肉買えるくらいでいいのだぁ」


「美女いっぱい欲しい?」


「陛下いるからいいのだっ♡」


 意味不明だった。


 サフィールは長年、人間を見てきた。


 欲望は制御できる。


 金。

 権力。

 女。

 名誉。


 そこを握れば操れる。


 だが。


 レイはそこが壊れている。


 世界最強なのに。


 欲望が大型犬レベルなのである。


「……変なの」


 女王はレイの寝顔を見た。


 平和そうだった。


 数日前。


 この男は巨大魔獣を素手で解体していた。


 なのに今は。


「むにゃ……のだぁ……」


 ほっぺを緩めて寝ている。


 サフィールは少し笑った。


 そして。


 急につまらなくなった。


 退屈だった。


 刺激がない。


 自分でも驚くほど。


 昔なら。


 こんな状況でも何か企む。


 誰かを蹴落とす。


 もっと大きな権力を狙う。


 そういう女だった。


 実際。


 先週。


 王位継承権を持つ優秀な王族に毒を盛っていた。


 ついでに別の王族へ暗殺者も送った。


 理由。


「なんか邪魔そうだったから」


 である。


 だが今。


 その件すらどうでもよかった。


「ああ、そういえば死んだかしら」


 完全に記憶の外だった。


 レイのせいで。


 この怪物。


 人生を簡単にし過ぎる。


 人間同士の権力争いが急に小さく見えるのだ。


 例えば。


 必死に兵を増やす将軍。


 金で貴族を操る商人。


 陰謀を巡らせる王族。


 全部。


 レイなら殴れば終わる。


 実際終わる。


 しかも本人は。


「のだぁ?」


 くらいの感覚でやる。


 サフィールはワインを飲み干した。


 そしてぼそっと呟く。


「……刺激が欲しいわねぇ」


 その瞬間だった。


 もぞっ。


 レイが寝返りした。


 次の瞬間。


「のだっ♡」


 ぎゅうううう。


 サフィールはレイに抱き込まれた。


「ちょっ……暑い……」


「むにゃ……陛下ぁ……」


 完全に寝ぼけている。


 だが離さない。


 怪力なので逃げられない。


 サフィールは呆れた。


「ほんと大型犬ね……」


 レイは幸せそうだった。


 女王に抱きつきながら寝る。


 ただそれだけで満足そうである。


 世界最強。


 国家破壊級戦力。


 なのに。


 こんな顔で寝る。


「……馬鹿」


 サフィールは小さく笑った。


 そして。


 少しだけ考える。


 刺激が欲しい。


 退屈だ。


 なら。


 どうする?


 戦争?


 もう簡単すぎる。


 暗殺?


 飽きた。


 権力闘争?


 面倒。


 そこでふと。


 女王はレイを見た。


 世界最強。


 超単純。


 そして自分に懐き切っている怪物。


 サフィールの口元がゆっくり歪む。


「……もっと面白い遊び、出来そうねぇ」


 その笑みは。


 久しぶりに。


 昔の悪辣な女王の顔だった。

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