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獣人族最後の生き残りですが、同族が全員食べ過ぎで滅びました  作者: 雪だるま


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4

 夕暮れだった。


 砂漠の空は赤く燃え、巨大な王都アズ・ラハムは黄金色に染まっている。


 その中心。


 白亜宮殿。


 女王サフィールは玉座に座りながら書類を読んでいた。


「北部交易税、増収……ふぅん」


 長い黒髪。

 宝石だらけの腕。

 蛇のように細い目。


 恐ろしく美しい。


 だが、それ以上に“支配階級の女”だった。


 誰かに守られる側ではない。


 命令する側。


 金を吸い上げ。

 人を動かし。

 必要なら甘い顔をし。

 邪魔なら潰す。


 砂漠最大国家の女王。


 それがサフィールである。


 そして。


 その女王が今、内心かなり機嫌が良かった。


 理由。


「……遅いわね」


 レイがまだ帰ってこない。


 数日前。


 南方遺跡群に“ねっけつ香辛料魔人”なる怪物が現れた。


 意味不明な名前だが、本当にそう呼ばれている。


 灼熱の身体。

 唐辛子みたいな赤い肌。

 意味不明な熱量。

 そして無駄にテンションが高い。


 古代文明の暴走魔導兵器ではないかと言われていた。


 実際強かった。


 王国軍先遣隊は全滅。


 傭兵団も壊滅。


 しかも遺跡内部が熱すぎて近づけない。


 普通なら国家級案件である。


 だが。


「レイ、行ってきなさい」


「のだぁ?ご飯あるのだぁ?」


「終わったらラクダ十頭分のお肉」


「行くのだっ♡」


 数秒で出発した。


 単純である。


 もっとも。


 女王は別に心配していなかった。


 死ぬわけがないからだ。


 あの怪物はおそらく大陸最強。


 いや。


 “おそらく”ですらない。


 間違いなく最強だった。


 サフィールはワインを口に含みながら思い出す。


 初めて会った時。


 門を吹き飛ばし。

 騎士団を蹴散らし。

 王宮半壊。


 なのに。


「返せなのだぁあああ!!」


 って泣いていた。


 意味が分からなかった。


 だが今では理解している。


 レイは“生物として強過ぎる”だけで、中身は大型犬みたいなものなのだ。


 しかも。


 めちゃくちゃ懐く。


 特に。


 撫でる。

 褒める。

 キスする。

 肉を与える。


 この辺りで機嫌が爆発的に良くなる。


 ちょろい。


 信じられないほど。


 だから今では。


 砂漠最強国家の女王が、世界最強生物を飼い慣らしていた。


 色仕掛けで。


 その時だった。


 ズドォォォォォォン!!!


 王宮の外から轟音。


 兵士たちの悲鳴。


「き、来たぞぉおおお!!」


「また壁がぁあああ!!」


 女王はため息をついた。


「帰ってきたわね……」


 数秒後。


 玉座の間の巨大扉が勢いよく開いた。


「のだっ♡」


 レイだった。


 全身すすだらけ。


 服は半分燃えている。


 髪も焦げていた。


 だが本人は超元気だった。


 しかも。


 肩に何か担いでいる。


 巨大な赤い塊。


 よく見ると。


 ねっけつ香辛料魔人の死体だった。


 兵士たちが青ざめる。


「ま、魔人……」


「本当に倒したのか……」


「しかも担いでる……」


 レイはご機嫌だった。


「のだっ♡討伐したのだっ♡」


 どさぁっ!!


 玉座の前に魔人を投げ捨てる。


 床が割れた。


 女王はこめかみを押さえた。


「……床」


「のだぁ?」


「あとで修理費請求するわ」


「のだぁあああ!?」


 兵士たちは慣れてきていた。


 世界最強の怪物が女王にだけ弱い。


 本当に弱い。


 レイは慌てて女王へ近づいた。


「で、でも頑張ったのだぁ!」


「知ってるわ」


「いっぱい戦ったのだぁ!」


「偉い偉い」


 女王が軽く頭を撫でる。


 瞬間。


「のだっ♡」


 レイの尻尾が超高速で振られ始めた。


 兵士たちは遠い目をした。


 何を見せられているのだろう。


 ちなみに数時間前。


 レイは遺跡で大暴れしていた。


「のだぁあああ!!熱いのだぁあああ!!」


 灼熱遺跡。


 溶岩。


 火柱。


 蒸気爆発。


 その中央で。


 ねっけつ香辛料魔人が叫んでいた。


『情熱こそ最強ぉおおおおお!!!』


「のだぁあああ!?うるさいのだぁあああ!!」


 完全に相性が悪かった。


 熱血魔人は暑苦しい。


 レイは昼寝を邪魔されるのが嫌い。


 結果。


 遺跡が半壊した。


 最後には。


『俺の香辛料魂は永遠だぁああ!!』


「のだぁ!!黙るのだぁ!!」


 ドゴォォォォォン!!!


 魔人、天井へめり込んで死亡。


 終わりである。


 なおレイは遺跡内で香辛料を大量に見つけたため、途中からかなり機嫌が良かった。


「のだぁ♡これ肉にかけると美味しいのだぁ♡」


 現在。


 女王はそんなレイを見上げていた。


 汗まみれ。

 すすだらけ。

 筋肉の塊。


 どう見ても怪物。


 だが。


 自分の前では妙に素直だ。


 女王はゆっくり立ち上がる。


 そしてレイの頬へ触れた。


「……頑張ったわね」


「のだっ♡」


「ちゃんと帰ってきた」


「のだっ♡」


「偉い子」


「のだぁあああ♡」


 ちょろかった。


 信じられないほど。


 レイは完全に機嫌が良くなっていた。


 兵士たちは震えていた。


(女王陛下……)


(完全に手懐けてる……)


(あの災害を……)


 実際そうだった。


 女王サフィールは理解している。


 力だけではレイは支配できない。


 鎖も牢獄も意味がない。


 だから。


 甘やかす。


 褒める。


 撫でる。


 時々キスする。


 すると勝手に働く。


 最高だった。


 女王はレイの顔を引き寄せる。


「……ご褒美いる?」


「のだっ♡」


「何が欲しいの?」


「お肉なのだっ♡」


「他には?」


「お昼寝なのだっ♡」


「他」


 レイは少し考えた。


 そして。


「……陛下とイチャイチャなのだっ♡」


 兵士たちが一斉に顔を逸らした。


 女王は少し笑った。


「しょうがないわねぇ」


 そして。


 世界最強の怪物は。


 その晩も結局、超美人で性格の悪い砂漠の女王に抱き込まれながら、完全に飼い慣らされていたのである。


「のだぁ〜〜♡」

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