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獣人族最後の生き残りですが、同族が全員食べ過ぎで滅びました  作者: 雪だるま


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 聖女エレノアは、半ば諦め始めていた。


 白亜宮殿西棟、来賓用庭園。


 昼下がり。


 白い東屋の下で紅茶を飲みながら、エレノアは静かに息を吐く。


「……難しいわね」


 その呟きに、側近の修道女が小さく頷いた。


「はい」


「想像以上です」


 実際その通りだった。


 レイ。


 世界最強の獣人。


 確かに単純。


 美女好き。


 感情豊か。


 だが。


 女王サフィールへの執着が強過ぎる。


 しかも。


 サフィール側も完全に囲い込みへ入っている。


 政治的にも。

 感情的にも。


 あそこまで互いへ慣れ切っているとは、エレノアも予想していなかった。


 特に厄介なのは。


 レイが“他人へ懐く”ことと、“女王から離れる”ことを別問題として認識している点だった。


 蜂蜜では確かに喜んだ。


 泣くほど。


 だが。


 だからといって。


 女王への執着が揺らいだわけではない。


 むしろ。


 最近は妙に警戒されている。


 特に。


 聖騎士隊を見る時。


「…………」


 エレノアは少し遠い目をした。


 正直、かなり怖い。


 レイは笑顔で。


「全員殺すのだぁ」


 とか言う。


 しかも本気。


 聖騎士隊の精神疲労は既に限界だった。


 その時だった。


 ズシン。


 ズシン。


 地面が揺れる。


 修道女たちの顔色が変わった。


「……来ました」


 エレノアも気づく。


 遠くから、もの凄い圧迫感が近づいてくる。


 数秒後。


「のだっ♡」


 レイだった。


 しかも。


 何かを担いでいる。


 いや。


 “何か”ではない。


 巨大過ぎる。


 黒紅色の鱗。

 折れた巨大角。

 異様な牙。


 それは明らかに。


 竜。


 しかも超大型。


 庭園へいた全員が凍りついた。


「…………」


「…………」


 レイは超笑顔だった。


「蜂蜜のお礼なのだぁ!」


 そして。


 ドゴォォォォン!!!


 竜の死体を庭へ置いた。


 庭石が砕ける。


 木が揺れる。


 修道女が一人気絶した。


「パパドラゴンなのだっ♡」


 レイは嬉しそうだった。


 エレノアは数秒、本気で思考停止した。


「…………え?」


 パパドラゴン。


 大陸北部危険指定区域の古代竜種。


 しかも。


 かなり上位。


 聖王国側の記録でも、“国家単位で討伐隊を編成する対象”として分類されている。


 つまり。


 国が滅びるレベルの怪物。


 それを。


 お礼感覚で持ってきた。


 意味が分からない。


「のだっ♡」


 レイは得意げだった。


「すごい強かったのだっ♡」


 周囲のザルハディア兵たちは遠い目をしていた。


「……またやった」


「最近レイ様、機嫌良いから狩りも派手なんだよな」


「いやこれ派手で済むか?」


 エレノアはようやく口を開く。


「……あの」


「のだぁ?」


「これは……?」


「お礼なのだっ♡」


 レイは即答した。


「蜂蜜くれたのだっ♡」


「だから吾輩もプレゼントなのだっ♡」


 獣人族的価値観だった。


 つまり。


 “凄い物を貰ったから、自分も凄い物を返す”。


 極めて単純。


 だが。


 スケールがおかしい。


 エレノアは巨大竜の死体を見る。


 黒紅の鱗だけで国家級財宝。


 牙も骨も魔法素材。


 内臓すら高値で取引される。


 つまり。


 とんでもない価値。


 しかも。


 古代竜討伐という実績そのものが恐ろしい。


 修道女たちは完全に青ざめていた。


「こ、これを一人で……?」


「怖過ぎます……」


 一方。


 レイ本人は完全に善意だった。


「のだっ♡」


「蜂蜜、嬉しかったのだっ♡」


 エレノアは静かにレイを見た。


 本気で感謝している。


 そこに政治はない。


 打算もない。


 だからこそ厄介だった。


 もし。


 もしこの怪物が本気で誰かへ懐いたら。


 本当に世界が変わる。


 エレノアは改めて理解した。


 サフィールがここまで神経質になる理由を。


 その時。


 後方から、静かな声。


「……何してるの?」


 女王サフィールだった。


 黒衣姿のまま、こちらを見ている。


 そして。


 庭の巨大ドラゴン死体を見て、一瞬だけ沈黙した。


「…………」


 レイは即振り向く。


「陛下ぁっ♡」


「……それ何」


「お礼なのだっ♡」


「……そう」


 サフィールは静かにため息を吐いた。


 だが。


 内心では少し理解していた。


 獣人族。


 あの滅びた馬鹿民族。


 彼らにとって“食べ物”や“共有した記憶”はかなり重い。


 だから。


 蜂蜜は効いた。


 そして。


 レイは本気で返そうとしている。


 ただし。


 加減が存在しない。


 女王は巨大竜を見上げながら、小さく呟いた。


「……ほんと、犬が獲物持ってくるみたい」


「のだっ♡」


 褒められたと思っている。


 尻尾ぶんぶん。


 エレノアはその光景を静かに見つめていた。


 そして。


 少しだけ笑う。


 なるほど。


 確かにこれは、簡単には奪えない。


 この怪物は。


 既に“帰る場所”を決めてしまっている。

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