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獣人族最後の生き残りですが、同族が全員食べ過ぎで滅びました  作者: 雪だるま


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 晩餐会は異様な熱気に包まれていた。


 黄金の燭台。

 香辛料の匂い。

 楽団の演奏。


 そして。


 山ほど積まれた料理を、レイが凄まじい勢いで食い荒らしている。


「のだぁあああ!!」


 巨大肉串を片手で掴みながら、レイは完全に幸せそうだった。


 周囲の貴族たちは半ば諦めた目でそれを眺めている。


「……もう誰も止めないんだな」


「止められるわけないだろ」


「テーブルごと食われないだけマシだ」


 実際その通りだった。


 一方。


 聖女エレノアは静かにレイを観察していた。


 彼女はここへ来る前、徹底的に調べている。


 ザルハディア王国。

 女王サフィール。

 そして。


 獣人族。


 既に滅びた種族。


 世界最強の身体能力を持ちながら、信じ難いほど愚かだった民族。


 古文書には様々な記録が残っていた。


『毒キノコを美味いと言って大量死』


『酒で川へ飛び込み集団溺死』


『詐欺師へ肉を全部渡し餓死』


『巨大魔物へ勝利後、食べ過ぎで腹破裂』


 アホしかいなかった。


 しかも。


 記録には妙な共通点がある。


 感情が極端。


 好き嫌いが激しい。


 そして。


 仲間意識が異常に強い。


 エレノアはそこへ注目していた。


 レイは強い。


 だが。


 精神構造そのものは、獣人族的なままなのではないか。


 だから。


 彼女は準備していた。


「レイ様」


「のだぁ?」


 レイが振り向く。


 口いっぱいに肉が入っている。


 エレノアは微笑みながら、小さな銀箱を差し出した。


「こちらを」


 周囲が少し静まる。


 レイは首を傾げた。


「なんなのだぁ?」


「古代文献を参考に、聖王国側で探させました」


「のだぁ?」


「“金羽蜜蜂”の蜂蜜です」


 その瞬間。


 レイの動きが止まった。


「…………え?」


 空気が変わる。


 エレノアは静かに続けた。


「獣人族が好んでいた特殊蜂蜜だそうですね。絶滅したと思われていましたが、北方修道院の山岳地帯に僅かに残っていました」


 レイは完全に固まっていた。


 手に持った肉がぽとりと落ちる。


 周囲のザルハディア側もざわついた。


「……まずい」


「レイ様の顔……」


「やばいぞ」


 サフィールも少しだけ目を細めた。


 エレノアは完璧だった。


 ただ美貌で迫るのではない。


 レイという存在そのものを調べ尽くしている。


 そして。


 “獣人族”へ触れた。


 そこはレイにとって特別だ。


 普段は馬鹿みたいに振る舞っていても、滅びた同族の話になると少し変わる。


 レイは震える手で銀箱を開けた。


 中には、琥珀色の蜂蜜。


 濃厚で、甘く、どこか野性的な香りが漂う。


「…………」


 レイは黙ったまま匂いを嗅ぐ。


 その瞬間。


 脳裏に、ぼんやりした記憶が蘇る。


 大きな焚火。


 笑い声。


 巨大な獣人たち。


 肉。


 酒。


 そして。


 蜂蜜。


『美味いのだぁ!!』


『もっと持ってくるのだぁ!!』


『お主、全部食うななのだぁ!!』


 馬鹿みたいな光景。


 もう誰もいない。


 全員死んだ。


 アホみたいな理由で。


 でも。


 家族だった。


 仲間だった。


「…………」


 レイの目が潤む。


 そして。


「のだぁあああああ!!」


 大号泣した。


「のだぁあああああ!!うぇええええん!!」


 会場が騒然となる。


 レイは泣きながら蜂蜜を抱えていた。


「うわあああああん!!」


 完全に子供みたいだった。


「懐かしいのだぁあああ!!」


「皆で食べたのだぁあああ!!」


「うぇええええん!!」


 周囲の貴族たちは完全に困惑していた。


「……えぇ」


「そんな泣く?」


「いや、でも滅んだ種族だし……」


 一方。


 エレノアは静かにレイを見ていた。


 計算通り。


 とは思わなかった。


 ここまで感情を爆発させるとは予想以上だった。


 レイは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら蜂蜜を舐めていた。


「のだぁぁぁ……」


「同じ味なのだぁぁぁ……」


 その姿は、世界最強の怪物には見えない。


 ただ。


 滅びた故郷を思い出して泣いている青年だった。


 その時。


 サフィールが静かに口を開いた。


「……随分熱心に調べたのね」


 声は穏やか。


 だが。


 少し冷たい。


 エレノアは微笑みを崩さない。


「レイ様のお話は聖王国でも有名でしたので


「そう」


 サフィールはレイを見た。


 泣いている。


 しかも。


 かなり本気で感動している。


 女王は少し黙った。


 そして。


 内心で理解する。


(……面倒ね)


 エレノア。


 ただの飾り聖女ではない。


 ちゃんとレイを研究してきている。


 そこが厄介だった。


 一方。


 レイ本人はそんな空気を一切理解していない。


「のだぁあああ!!」


 まだ泣いていた。


 しかも。


 感極まってエレノアへ抱きつこうとする。


 その瞬間。


 ザルハディア兵たちが青ざめた。


「まずい!!」


「女王陛下!!」


 だが。


 サフィールの方が早かった。


 女王は自然な動きでレイの腕を引き寄せる。


「はいはい、落ち着きなさい」


「のだぁぁぁ……」


 レイは半泣きのままサフィールへ寄りかかった。


 大型犬だった。


 エレノアはその光景を見ながら、静かに理解していた。


(……やっぱり)


 この怪物。


 簡単には奪えない。

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