27
その晩、白亜宮殿では聖女エレノア歓迎のための大晩餐会が開かれていた。
そして。
ザルハディア王国は本気だった。
いや、正確には。
女王サフィールが本気だった。
「もっと金箔を使いなさい」
「はっ」
「肉料理を増やして」
「ですが既に三十七品ほど――」
「足りないわ」
「……はっ」
厨房は戦場だった。
料理人たちは死にそうな顔で巨大鍋を振り続け、菓子職人は泣きながら砂糖細工を作り、給仕長は発狂寸前で走り回っている。
理由。
女王の見栄。
非常に単純だった。
聖王国アルディア。
大陸最大宗教国家。
つまり。
“格式”で負けたくない。
特に相手が聖女エレノアともなれば尚更だった。
しかもサフィールは理解している。
今この場には各国の視線が集まっている。
だから。
絶対に“砂漠国家は田舎臭い”と思われたくなかった。
「徹底的にやるわよ」
その結果。
晩餐会は完全に狂っていた。
巨大な黄金皿。
香辛料まみれの超高級肉料理。
竜肉の炙り焼き。
幻獣の乳から作った濃厚スープ。
神代蜂蜜の菓子。
さらには。
レイが以前討伐した巨大海魔獣の珍味まで並んでいる。
もはや国家予算の暴力だった。
聖王国側の使節たちですら、若干引いていた。
「……凄まじいな」
「これ全部一晩か?」
「いや待て、あの銀皿だけで小国の年税収級だぞ……」
一方。
サフィールは満足そうだった。
豪奢な黒金のドレスを纏い、長い脚を組みながら聖女エレノアを見ている。
「口に合うかしら?」
微笑み。
完璧な女王の顔。
エレノアもまた微笑み返す。
「ええ、とても」
こちらも完璧。
だが。
二人とも分かっている。
これは半分戦争だ。
女の。
権威の。
そして国家の。
その時だった。
「のだぁあああああ!!!」
空気が全部壊れた。
レイである。
超巨大な焼き肉皿を抱えながら、完全に目を輝かせていた。
「全部吾輩のなのだぁああああ!!」
最低だった。
しかも。
手で食っている。
豪快に。
超高級料理を。
ぐしゃぐしゃにしながら。
「うまぁぁぁぁいのだぁぁぁ!!」
周囲の貴族たちは遠い目をした。
「……世界最強」
「うん」
「品位って概念ないのか?」
「ない」
レイは完全に幸せそうだった。
巨大な骨付き肉を片手で掴み、口いっぱいに頬張り、時々サフィールへ笑顔を向ける。
「陛下ぁ♡すごいのだっ♡」
「そう」
「肉いっぱいなのだっ♡」
「良かったわね」
サフィールは平然としていた。
もう慣れている。
というか。
レイはこれでもかなり大人しい方だった。
本気で自由にさせると、テーブルごと持ち上げて食べ始める。
一方。
聖王国側はかなり困惑していた。
特に聖騎士隊。
「……あれが」
「世界最強」
「信じたくない」
だが。
理解もしていた。
レイ。
確かに馬鹿っぽい。
しかし。
怖い。
異様に。
なにせ。
食事中ですら周囲へ圧迫感を撒き散らしている。
しかも。
女王サフィールへ異常に懐いている。
そこが一番厄介だった。
エレノアは静かにレイを観察していた。
レイは料理へ夢中だ。
だが。
時々、聖騎士隊を見る。
しかも目が怖い。
エレノアは気づいていた。
(……警戒されてる)
しかもかなり。
理由も何となく察していた。
嫉妬。
独占欲。
完全にそれである。
エレノアは少し意外だった。
もっと野性的な怪物を想像していた。
だが実際は。
女王へべったり。
しかも感情が分かりやすすぎる。
その時。
聖騎士アルフレッドが礼儀正しくサフィールへ話しかけた。
「女王陛下、本日の歓迎、感謝いたします」
その瞬間。
レイの耳がぴくっと動いた。
「のだぁ?」
怖い。
非常に。
しかも。
レイの視線。
完全にアルフレッドを“敵”認定し始めている。
周囲のザルハディア兵たちは冷や汗を流した。
「まずい」
「また始まった」
「イケメン嫌い発動してるぞ」
レイは肉を咀嚼しながら考えていた。
(やはり殺すべきなのだぁ?)
結論が危険過ぎる。
サフィールは即座に気づいた。
なので。
自然な動きでレイの口元についたソースを指で拭う。
「ちゃんと食べなさい」
「のだっ♡」
即機嫌回復。
ちょろい。
聖王国側は完全に沈黙していた。
何だこれは。
世界最強の怪物。
なのに。
女王に撫でられるだけで大型犬化する。
意味が分からない。
一方。
サフィールは内心で少し笑っていた。
(ほんと単純)
だが同時に理解している。
だからこそ危険なのだ。
この怪物は。
自分以外へ本気で執着し始めたら、国家規模で面倒なことになる。
だから。
サフィールはわざとレイの髪を撫でた。
「今日は特別だから好きなだけ食べなさい」
「のだぁああああっ♡」
レイ、超幸せ。
そして。
聖王国側だけが、静かに理解し始めていた。
これは単なる愛人関係ではない。
もっと厄介で。
もっと危険な何かだと。




