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獣人族最後の生き残りですが、同族が全員食べ過ぎで滅びました  作者: 雪だるま


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 その晩、白亜宮殿では聖女エレノア歓迎のための大晩餐会が開かれていた。


 そして。


 ザルハディア王国は本気だった。


 いや、正確には。


 女王サフィールが本気だった。


「もっと金箔を使いなさい」


「はっ」


「肉料理を増やして」


「ですが既に三十七品ほど――」


「足りないわ」


「……はっ」


 厨房は戦場だった。


 料理人たちは死にそうな顔で巨大鍋を振り続け、菓子職人は泣きながら砂糖細工を作り、給仕長は発狂寸前で走り回っている。


 理由。


 女王の見栄。


 非常に単純だった。


 聖王国アルディア。


 大陸最大宗教国家。


 つまり。


 “格式”で負けたくない。


 特に相手が聖女エレノアともなれば尚更だった。


 しかもサフィールは理解している。


 今この場には各国の視線が集まっている。


 だから。


 絶対に“砂漠国家は田舎臭い”と思われたくなかった。


「徹底的にやるわよ」


 その結果。


 晩餐会は完全に狂っていた。


 巨大な黄金皿。

 香辛料まみれの超高級肉料理。

 竜肉の炙り焼き。

 幻獣の乳から作った濃厚スープ。

 神代蜂蜜の菓子。


 さらには。


 レイが以前討伐した巨大海魔獣の珍味まで並んでいる。


 もはや国家予算の暴力だった。


 聖王国側の使節たちですら、若干引いていた。


「……凄まじいな」


「これ全部一晩か?」


「いや待て、あの銀皿だけで小国の年税収級だぞ……」


 一方。


 サフィールは満足そうだった。


 豪奢な黒金のドレスを纏い、長い脚を組みながら聖女エレノアを見ている。


「口に合うかしら?」


 微笑み。


 完璧な女王の顔。


 エレノアもまた微笑み返す。


「ええ、とても」


 こちらも完璧。


 だが。


 二人とも分かっている。


 これは半分戦争だ。


 女の。


 権威の。


 そして国家の。


 その時だった。


「のだぁあああああ!!!」


 空気が全部壊れた。


 レイである。


 超巨大な焼き肉皿を抱えながら、完全に目を輝かせていた。


「全部吾輩のなのだぁああああ!!」


 最低だった。


 しかも。


 手で食っている。


 豪快に。


 超高級料理を。


 ぐしゃぐしゃにしながら。


「うまぁぁぁぁいのだぁぁぁ!!」


 周囲の貴族たちは遠い目をした。


「……世界最強」


「うん」


「品位って概念ないのか?」


「ない」


 レイは完全に幸せそうだった。


 巨大な骨付き肉を片手で掴み、口いっぱいに頬張り、時々サフィールへ笑顔を向ける。


「陛下ぁ♡すごいのだっ♡」


「そう」


「肉いっぱいなのだっ♡」


「良かったわね」


 サフィールは平然としていた。


 もう慣れている。


 というか。


 レイはこれでもかなり大人しい方だった。


 本気で自由にさせると、テーブルごと持ち上げて食べ始める。


 一方。


 聖王国側はかなり困惑していた。


 特に聖騎士隊。


「……あれが」


「世界最強」


「信じたくない」


 だが。


 理解もしていた。


 レイ。


 確かに馬鹿っぽい。


 しかし。


 怖い。


 異様に。


 なにせ。


 食事中ですら周囲へ圧迫感を撒き散らしている。


 しかも。


 女王サフィールへ異常に懐いている。


 そこが一番厄介だった。


 エレノアは静かにレイを観察していた。


 レイは料理へ夢中だ。


 だが。


 時々、聖騎士隊を見る。


 しかも目が怖い。


 エレノアは気づいていた。


(……警戒されてる)


 しかもかなり。


 理由も何となく察していた。


 嫉妬。


 独占欲。


 完全にそれである。


 エレノアは少し意外だった。


 もっと野性的な怪物を想像していた。


 だが実際は。


 女王へべったり。


 しかも感情が分かりやすすぎる。


 その時。


 聖騎士アルフレッドが礼儀正しくサフィールへ話しかけた。


「女王陛下、本日の歓迎、感謝いたします」


 その瞬間。


 レイの耳がぴくっと動いた。


「のだぁ?」


 怖い。


 非常に。


 しかも。


 レイの視線。


 完全にアルフレッドを“敵”認定し始めている。


 周囲のザルハディア兵たちは冷や汗を流した。


「まずい」


「また始まった」


「イケメン嫌い発動してるぞ」


 レイは肉を咀嚼しながら考えていた。


(やはり殺すべきなのだぁ?)


 結論が危険過ぎる。


 サフィールは即座に気づいた。


 なので。


 自然な動きでレイの口元についたソースを指で拭う。


「ちゃんと食べなさい」


「のだっ♡」


 即機嫌回復。


 ちょろい。


 聖王国側は完全に沈黙していた。


 何だこれは。


 世界最強の怪物。


 なのに。


 女王に撫でられるだけで大型犬化する。


 意味が分からない。


 一方。


 サフィールは内心で少し笑っていた。


(ほんと単純)


 だが同時に理解している。


 だからこそ危険なのだ。


 この怪物は。


 自分以外へ本気で執着し始めたら、国家規模で面倒なことになる。


 だから。


 サフィールはわざとレイの髪を撫でた。


「今日は特別だから好きなだけ食べなさい」


「のだぁああああっ♡」


 レイ、超幸せ。


 そして。


 聖王国側だけが、静かに理解し始めていた。


 これは単なる愛人関係ではない。


 もっと厄介で。


 もっと危険な何かだと。

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