26 レイの殺意
聖女エレノアの行列が王宮前広場へ到着した瞬間、ザルハディア王国の貴族たちは一斉に息を呑んでいた。
緊張感が凄い。
女王サフィール。
聖女エレノア。
そして世界最強の獣人レイ。
大陸でも屈指の危険人物たちが、同じ場所へ集まっているのである。
しかも。
レイは現在、超笑顔だった。
「のだっ♡」
尻尾ぶんぶん。
民衆へ手を振りながら、上機嫌で女王の隣に立っている。
だが。
サフィールだけは気づいていた。
(……あら)
レイの目。
笑っている。
でも少し怖い。
女王は知っている。
レイは時々こういう顔をする。
特に。
“自分の縄張りを荒らされそう”と感じた時。
一方、レイ本人は内心かなり焦っていた。
(まずいのだぁ……)
視線の先。
聖騎士隊。
全員、超美形。
銀鎧。
高身長。
鍛えられた体。
整った顔。
完全に“女が好きそうな男”の集団だった。
レイは戦慄した。
(なんなのだぁ……)
(イケメン多過ぎなのだぁ……)
しかも。
女王サフィール。
超美人。
権力者。
つまり。
普通に愛人増やしそう。
レイの脳内では既に最悪の未来が始まっていた。
『陛下ぁ♡』
『サフィール様』
『レイ? もう用済みよ』
「のだぁああああ!!」
危うく叫びかけた。
サフィールがちらりとレイを見る。
「……何?」
「なんでもないのだっ♡」
超笑顔。
しかし。
目だけが真剣だった。
レイは聖騎士隊を見た。
やはりイケメン。
しかも。
なんか爽やか。
腹立つ。
レイは元々イケメンが嫌いだった。
理由。
女が取られそうだから。
非常にシンプルである。
特に最近は。
サフィールへの執着が強い。
つまり。
現在のレイ視点では。
『女王へ近づくイケメン集団』
にしか見えていなかった。
「…………」
レイは笑顔のまま考え込む。
(ふむ……)
数秒後。
(……全員殺そうかなのだぁ?)
結論が最悪だった。
しかも本気。
レイは普通に聖騎士隊皆殺しを検討し始めていた。
周囲の空気が微妙に変わる。
兵士たちがざわついた。
「……おい」
「レイ様の目、ちょっと怖くないか?」
「やばいぞあれ」
長年レイを見ているザルハディア兵たちは理解していた。
今のレイ。
かなり危険。
しかも。
本人は“正当防衛”くらいの感覚で考えている。
最悪だった。
一方、聖騎士隊側。
隊長格の青年騎士アルフレッドは、無言でレイを観察していた。
巨大。
異様。
そして。
圧迫感が凄まじい。
ただ立っているだけで、空気が重い。
アルフレッドは直感していた。
(……化け物だ)
しかも。
笑っている。
なのに怖い。
それが逆に危険だった。
その時。
エレノアが一歩前へ出る。
「女王陛下。本日はお招きいただき感謝を」
完璧な礼。
柔らかな声。
民衆がざわめく。
サフィールもまた優雅に微笑む。
「歓迎するわ、聖女エレノア」
完璧だった。
だが。
その横。
「のだぁ……」
レイだけが聖騎士隊を睨んでいた。
しかもかなり本気で。
(どいつもこいつも顔良過ぎなのだぁ……)
(絶対陛下に色目使うのだぁ……)
(やはり殺すしか……)
物騒極まりない。
その瞬間。
聖騎士の一人が何気なくサフィールを見た。
ただそれだけ。
だが。
レイの中で何かが切れかけた。
「のだぁ?」
空気が揺れる。
周囲の兵士たちが一斉に青ざめた。
「まずい」
「レイ様だ」
「止めろ誰か!!」
サフィールは即座に気づいた。
(あぁ……)
(嫉妬してるのね)
女王は内心ちょっと笑いそうになった。
この怪物。
本当に大型犬みたいである。
世界最強なのに。
しかも。
嫉妬の方向性が雑。
イケメン全部敵。
最低だった。
サフィールは自然な動きでレイの腕へ手を添えた。
「レイ」
「のだぁ?」
「ちゃんと大人しくしてなさい」
その声。
そして身体へ触れられた瞬間。
「のだっ♡」
レイ、即機嫌回復。
単純だった。
尻尾ぶんぶん。
さっきまでの殺意が消えている。
周囲の兵士たちは本気で安堵した。
「助かった……」
「今絶対殺る気だったぞ……」
「聖騎士隊全滅するところだった……」
一方。
聖女エレノアは、その一連の流れを静かに見ていた。
そして理解する。
(……なるほど)
噂以上。
レイは完全に女王へ執着している。
しかも。
女王側も扱いに慣れ切っている。
エレノアは微笑みを崩さなかった。
だが内心では、少しだけ警戒を強めていた。
(これは……想像より厄介ね)
一方レイは。
「のだっ♡」
完全復活。
そして。
まだちょっと聖騎士隊を睨んでいた。
殺意だけは消えていなかったのである。




