表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人族最後の生き残りですが、同族が全員食べ過ぎで滅びました  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/35

22

 生誕祭の喧騒がようやく静まり始めた頃、白亜宮殿の最上階だけはまだ熱を残していた。


 重い絹幕が夜風に揺れ、香油と花の甘い香りが寝室に満ちている。豪奢な寝台の上では、女王サフィールがゆったりと身体を預けていた。


 黒髪は乱れ、金細工の装飾は半分ほど外されている。


 だが、その姿はむしろ昼間より妖艶だった。


 権威を纏った女ではなく、男を惑わせるための美しさ。


 それを彼女は完全に理解している。


「……そんなに見つめて、どうしたの?」


 サフィールは微笑みながら問いかけた。


 その視線の先では、レイが完全に固まっていた。


「の、のだぁ……」


 耳ぴん。


 尻尾ぶわっ。


 分かりやす過ぎる。


 昼間はユニコーンに乗って堂々としていた世界最強の怪物も、今は女王を前に完全に骨抜きだった。


「陛下、綺麗なのだぁ……」


「知ってるわ」


 即答。


 自信に満ちていた。


 サフィールはそういう女だ。


 自分が美しいことを疑わない。


 そして、その美貌がどれほど強い武器かも理解している。


 ゆっくりと寝台へ身を乗り出し、レイの頬へ指先を滑らせる。


「今日は随分頑張ったわねぇ」


「のだっ♡」


「ユニコーンまで連れてきて」


「陛下が喜ぶと思ったのだっ♡」


 レイは本気だった。


 そこに駆け引きはない。


 だからこそ、サフィールには妙に心地良かった。


 王侯貴族たちは皆、腹に何かを抱えている。


 忠臣ですら“国家のため”を口にし始める。


 だが、この怪物だけは違う。


 単純で。

 真っ直ぐで。

 自分へ懐いている。


 それが、サフィールには少しだけ特別だった。


 女王はレイの首へ腕を回した。


「……ねぇ」


「のだぁ?」


「今日は皆、あなたを見てたわよ」


「のだっ♡」


「属国王たちも、神官も、民衆も」


「のだぁ?」


「世界最強の獣人が、私の隣に立ってるって」


 レイは数秒考えた。


 そして。


「吾輩、陛下の隣好きなのだっ♡」


 即答だった。


 サフィールは少し吹き出した。


「ほんと馬鹿」


 だが、その声は柔らかい。


 レイはそんな女王を見ながら、ぼんやり呟いた。


「陛下、いい匂いなのだぁ……」


「香油よ」


「好きなのだっ♡」


 サフィールはゆっくり微笑んだ。


 そして、わざとレイの耳元へ顔を寄せる。


「……そう」


 吐息混じりの声。


 レイの尻尾が一瞬で暴れ始めた。


「のだぁっ!?」


 単純だった。


 女王は楽しそうに目を細める。


 彼女は知っている。


 この怪物は、自分の前では驚くほど素直になる。


 だからこそ。


 少し意地悪したくなる。


「昼間、あんなに偉そうだったのに」


「のだぁ……」


「今は随分大人しいわねぇ?」


「陛下が綺麗だからなのだぁ……」


 真顔だった。


 サフィールは一瞬だけ黙った。


 こういうところがずるい。


 計算ではない。


 本気で言っている。


 だから変に心へ残る。


 女王はレイの髪へ指を通しながら、小さく笑った。


「……ほんと、大型犬みたい」


「のだっ♡」


 褒められたと思っている。


 サフィールはそのままレイを寝台へ引き寄せた。


 窓の外では、まだ遠くで祭りの音が続いていた。


 王都中が熱狂し、各国の使節たちが頭を抱え、臣下たちは胃を痛めている。


 だが。


 その中心にいる二人だけは、そんなことを気にしていなかった。


 少なくとも今夜だけは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ