20
ザルハディア王国の王都アズ・ラハムには、ここ数日で異様な数の外国使節団が到着していた。
属国の王。
小国家の大公。
砂漠商業都市の支配者。
さらには半独立状態だった辺境部族長まで、次々と王都へ集まっている。
理由は一つ。
ユニコーン。
それだけだった。
「本当にいるのか……」
「神話の存在だぞ……」
「しかも女王陛下の宮殿に……」
彼らは皆、半信半疑のまま王都へ来た。
だが。
実際に白亜宮殿の中庭でユニコーンを見た瞬間、全員沈黙した。
『…………』
純白の毛並み。
長く伸びた角。
神聖さすら感じさせる存在感。
間違いなく本物。
しかも。
その横ではレイが肉を食べていた。
「のだっ♡」
完全に日常風景である。
属国の王たちは頭を抱えたくなった。
神話級幻獣と世界最強の怪物が、女王の庭で飼われている。
もう国家規模の悪夢だった。
だが同時に。
彼らはすぐに理解していた。
これは巨大な“権威”になる。
非常に。
神話。
神獣。
神聖。
人間はこういうものに弱い。
特に民衆は。
だからこそ、各属国の王たちは焦っていた。
「何としてでも利用せねば……」
南部属国ハジャール王は、真顔でそう呟いた。
五十代。
太った男。
極めて現実的な支配者だった。
彼は理解している。
今この瞬間、大陸中の民衆はザルハディアを“神に祝福された国”として見始めている。
ならば。
属国側もそこへ乗るしかない。
切り捨てられないために。
「陛下」
側近が小声で囁く。
「献上品の準備は」
「抜かるな」
「はっ」
「あと、ユニコーンを背景に余の肖像画を描かせろ」
「……許可が下りればですが」
「下ろさせるのだ」
必死だった。
一方。
別の属国王も似たようなことを考えていた。
「ザルハディアとの友好をさらに強化する」
「軍事協定も必要かと」
「当然だ」
「民衆向けには“神獣の祝福を受けた同盟”として宣伝します」
「良い」
もう半分宗教である。
実際、王たちは気づいていた。
今後、“ユニコーンを見たことがある”というだけで権威になる。
ましてや。
女王サフィールと近しい関係を築ければ、その権威を自国へ持ち帰れる。
だから皆、必死だった。
その頃。
王宮大広間。
女王サフィールは玉座へ座り、属国王たちを眺めていた。
「……ふぅん」
内心では少し面白がっている。
目の前の連中。
全員、目がギラギラしている。
権威。
神話。
政治利用。
考えていることが非常に分かりやすい。
そして。
彼らがそこまで必死になる理由も理解していた。
権力者は“物語”を欲しがる。
特に、民衆を納得させるための物語を。
神に祝福された。
神獣が現れた。
聖なる同盟。
そういうものは雑に効く。
非常に。
だからこそ、今この場にいる属国王たちは、全員必死でザルハディアへ擦り寄っていた。
その時だった。
「のだっ♡」
場違いな声。
レイだった。
大広間へ肉串を持ったまま入ってくる。
しかも。
当然のようにユニコーンもついてきた。
『…………』
ユニコーンは疲れ切っていた。
最近ずっとレイに付きまとわれている。
逃げると追いつかれる。
怖い。
なので最近は諦め始めていた。
だが。
属国王たちはそんなこと知らない。
一斉に立ち上がる。
「おぉ……!」
「神獣だ……」
「本当に従っている……」
完全に勘違いしていた。
レイは何も考えていない。
「のだぁ?」
肉を食べながら首を傾げている。
だが。
その横を歩くユニコーン。
銀髪の獣人。
そして玉座の女王。
絵面が強過ぎた。
神話画そのものだった。
属国王たちは本能的に理解した。
逆らってはいけない。
絶対に。
その時、サフィールがゆっくり口を開いた。
「楽しんでる?」
「はっ、もちろんです陛下」
「素晴らしい神獣ですな」
「まさに奇跡……」
皆、必死に媚びる。
サフィールは小さく笑った。
そして。
隣へ来たレイの頬へ軽く触れる。
「ちゃんと挨拶は?」
「のだっ♡」
レイは超笑顔で属国王たちを見た。
「こんにちはなのだっ♡」
その瞬間。
数人の王が本気で青ざめた。
なぜなら。
世界最強の怪物が、自分たちを“友好的に見ている”ことが分かったからだ。
逆に怖い。
もし敵認定されたら終わる。
山ごと消える。
属国王たちは理解した。
この国の本当の恐ろしさは軍事力ではない。
女王サフィールが、この怪物を完全に自分側へ置いていることだ。
だから。
彼らはさらに深く頭を下げた。
「今後とも、我が国をよろしくお願いいたします」
その姿を見ながら。
レイ本人だけが、何も分かっていなかった。
「のだっ♡」
ただ女王の隣で嬉しそうに肉を食べていたのである。




