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獣人族最後の生き残りですが、同族が全員食べ過ぎで滅びました  作者: 雪だるま


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 王都アズ・ラハムは、かつてない熱狂に包まれていた。


 白い石造りの街路には花びらが撒かれ、香が焚かれ、巨大な旗が風にはためいている。各地から集まった商人、兵士、貴族、農民たちが、王都中央大通りを埋め尽くしていた。


「女王陛下万歳!!」


「レイ様ぁぁぁ!!」


「ユニコーンだ!!本物だぞ!!」


 歓声は地鳴りのようだった。


 そして、その中心。


 純白のユニコーンがゆっくりと歩いていた。


 長く美しい鬣は陽光を受けて銀色に輝き、神話のような神聖さを放っている。だが、その背に乗っている二人のせいで、荘厳さはかなり破壊されていた。


「のだっ♡」


 レイである。


 銀髪を風になびかせながら、満面の笑みで民衆へ手を振っていた。しかも片腕では女王サフィールを抱き寄せている。


 女王もまた、豪奢な黒金の衣装をまとい、堂々と民衆を見下ろしていた。


 その姿は完璧だった。


 美貌。


 権威。


 そして神話級幻獣。


 誰が見ても、“支配者”の光景だった。


 実際、沿道の貴族たちは顔を引き攣らせていた。


「……これはまずいな」


「完全に神話画だぞ」


「民衆人気がさらに爆発する……」


 しかも最悪なのは、レイが本気で嬉しそうなことだった。


「陛下ぁ♡すごいのだっ♡みんな手振ってるのだっ♡」


「そうね」


「吾輩、頑張ったのだっ♡」


「ええ、知ってるわ」


 サフィールは静かに微笑みながら答えた。


 周囲への演出としても完璧だった。


 女王は理解している。


 今必要なのは、“世界最強の獣人は完全に王家側である”と見せ続けることだ。


 だからこそ、わざわざ自分からレイへ身体を寄せていた。


 そして。


 それを見た民衆は、極めて分かりやすく安心していた。


「あぁ……」


「今日も平和だ……」


「女王陛下がちゃんと押さえてる……」


 完全に猛獣使い扱いである。


 実際、半分くらいその通りだった。


 レイは女王が隣にいるだけで異様に大人しい。


 普段なら市場で肉を見つけて飛び込むし、気になった建物があると普通に壁を壊して中を覗こうとする。


 だが今日は違った。


「のだっ♡」


 ずっと機嫌良く女王へ擦り寄っている。


 巨大な猛獣である。


 一方、ユニコーンは死んだ目をしていた。


『…………』


 帰りたい。


 本当に。


 だが、逃げる気配を見せると即座に後ろから。


「のだぁ?」


 という声が飛んでくる。


 怖い。


 非常に。


 そのため現在、ユニコーンは極めて大人しく歩いていた。


 周囲の神官たちはその姿に感動していた。


「見ろ……」


「完全に従っている……」


「やはりレイ様は神代の王……」


 違う。


 恐怖である。


 だが誰も気づかなかった。


 王都中央広場へ近づくにつれ、歓声はさらに大きくなった。上空では色布が舞い、楽団が演奏を始める。


 サフィールはその音を聞きながら、ちらりと横を見た。


 レイ。


 超笑顔。


 民衆へ手を振りながら、時々こちらを見て嬉しそうに尻尾を振っている。


「のだっ♡陛下、綺麗なのだっ♡」


「今それ言う?」


「本当なのだっ♡」


 周囲の貴族たちは遠い目をした。


 世界最強の怪物。


 なのに中身は大型犬。


 だが。


 その単純さが逆に恐ろしかった。


 なにせ、この怪物は“女王が喜ぶ”という理由だけでユニコーンを捕獲してきたのである。


 しかも北方大陸を半壊させながら。


 意味が分からない。


 やがて、ユニコーンは中央広場へ到着した。


 そこには巨大な白階段と、王家専用の高台が用意されている。


 民衆の歓声が止まらない。


「女王陛下万歳!!」


「レイ様ぁぁぁ!!」


「神獣だ!!」


 サフィールはゆっくり立ち上がった。


 そして。


 わざとレイの腕へ手を添えた。


 その瞬間。


 広場の空気が変わる。


 兵士たち。

 貴族たち。

 神官たち。


 全員が理解した。


 これは演出だ。


 政治だ。


 宣言だ。


 “この怪物は女王のもの”。


 それを、サフィールは大陸全体へ見せつけていた。


 レイ本人だけが何も分かっていなかった。


「のだぁ?」


 きょとんとしている。


 だが、女王に触れられているので超幸せそうだった。


「のだっ♡」


 尻尾が高速で振られる。


 民衆はその光景に笑い、兵士たちは安堵し、臣下たちは胃を痛めていた。


 そして遠く離れた諸外国では。


 この凱旋式の報告を受けた王侯たちが、本気で頭を抱え始めていたのである。

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