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獣人族最後の生き残りですが、同族が全員食べ過ぎで滅びました  作者: 雪だるま


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18 聖王国アルディア

 聖王国アルディア。


 大陸西部最大の宗教国家。


 白い大聖堂群と無数の尖塔に覆われたその国は、千年以上に渡って“神聖”を支配してきた。


 王ではない。


 皇帝でもない。


 “聖王”。


 神の代行者として君臨するその存在こそ、この国家の絶対的権威だった。


 そして今。


 その聖王ベネディクト八世は、珍しく表情を崩していた。


「……もう一度言え」


 低い声。


 玉座の間は静まり返っていた。


 跪く密偵は汗を流している。


「はっ……確認は複数。誤報の可能性は低いかと」


「……ユニコーンが、ザルハディア王国にいると?」


「はっ」


 空気が重くなる。


 周囲の枢機卿たちも顔色を変えていた。


 理由は単純だ。


 ユニコーンは“神聖”そのものだからである。


 少なくともアルディア教圏では。


 古代神話。

 宗教画。

 聖典。


 ユニコーンは常に“神に祝福された純潔と王権”の象徴として描かれてきた。


 そして。


 その象徴を最も独占的に扱ってきたのが聖王国だった。


 実際。


 アルディア教では長年こう教えている。


『ユニコーンは神に選ばれた存在の前にしか現れない』


 だからこそ。


 ザルハディア王国にユニコーンがいる。


 この事実は極めて危険だった。


 しかも。


 より最悪なのは。


「……女王サフィール、か」


 聖王は静かに呟いた。


 砂漠の悪女。


 冷酷な粛清者。


 忠臣すら平然と処刑する暴君。


 西方諸国では既にそう認識されている。


 なのに。


 その女のもとへユニコーンが現れた。


 宗教的整合性が崩れる。


 非常に。


 さらに。


「例の獣人は?」


 聖王の問いに、別の密偵が答えた。


「……やはり本物かと」


「……そうか」


 沈黙。


 世界最強の獣人。


 レイ。


 近年、大陸全土で急速に名前が広まり始めている存在。


 最初は噂扱いだった。


 山を砕く。

 竜を殴る。

 国家級魔獣を単独討伐。


 馬鹿馬鹿しい与太話だと思われていた。


 だが。


 最近は違う。


 各国の情報が一致し始めた。


 存在する。


 本当に。


 そしてその怪物が。


 ユニコーンを捕獲した。


 しかも。


 女王への献上品として。


 ここが最悪だった。


 聖王はゆっくり椅子へ背を預けた。


「……民衆の反応は」


 枢機卿の一人が慎重に答える。


「既に一部地域で、“神に愛された砂漠の女王”という噂が」


「馬鹿な」


「ですが……ユニコーンの存在は強過ぎます」


 そう。


 強過ぎるのだ。


 宗教において、象徴は理屈を超える。


 特に民衆はそうだ。


 飢え。

 戦乱。

 疫病。


 そういう現実の中で、人々は“分かりやすい神秘”へ飛びつく。


 そして今。


 豊かな砂漠国家。

 圧倒的繁栄。

 世界最強の獣人。

 さらにユニコーン。


 あまりにも神話的だった。


 しかも。


 聖王には理解できていた。


 これが単なる幻獣捕獲なら、まだ良かった。


 問題は。


 ザルハディア王国そのものが繁栄していることだ。


 宗教国家は知っている。


 民衆は“結果”を見る。


 どれだけ正統性を語ろうと。


 どれだけ教義を積み上げようと。


 飢えている国より、豊かな国を“神に祝福されている”と思い始める。


 これは歴史上、何度も起きた。


 そして。


 今のザルハディアは危険過ぎる。


 金がある。


 食料がある。


 魔物被害が少ない。


 交易も活発。


 民衆は笑っている。


 さらに。


 ユニコーン。


 聖王は小さく息を吐いた。


「……最悪だな」


 その一言に、誰も反論できなかった。


 枢機卿たちも理解している。


 今の問題は軍事だけではない。


 信仰だ。


 権威だ。


 世界観そのものだ。


 もし民衆が本気で思い始めたらどうなる。


『神は聖王国ではなく、ザルハディアを祝福しているのでは?』


 それだけで危うい。


 宗教国家にとって、“疑念”は毒だ。


 しかも。


 ザルハディア側が意図していないのがさらに厄介だった。


 聖王は机を指で叩く。


「……女王サフィールは、宗教に興味がない」


「はっ」


「だからこそ厄介だ」


 意図的な異端者なら対処しやすい。


 だが。


 サフィールは違う。


 おそらく。


 純粋に権力しか見ていない。


 つまり。


 宗教的影響を“偶然”拡大している。


 それが恐ろしい。


 さらに。


 例の獣人。


 あれはもっと厄介だ。


 もし本当に。


 もし本当に、あの怪物が“神に愛されているように見えてしまった”ら。


 民衆は簡単に揺らぐ。


 聖王は静かに立ち上がった。


 老齢。


 だが眼光は鋭い。


「……監視を強化しろ」


「はっ」


「ザルハディア国内の宗教動向を全て調べろ」


「はっ」


「あと」


 聖王は少し間を置いた。


「……ユニコーンの件、絶対に“奇跡”という言葉で広めさせるな」


 それがどれほど難しいか。


 ここにいる全員が理解していた。


 既に遅い可能性すらある。


 なにせ。


 人々は“物語”を好む。


 砂漠の女王。

 世界最強の獣人。

 神聖幻獣。


 あまりにも出来過ぎている。


 聖王は窓の外を見た。


 白い大聖堂。


 祈る民衆。


 千年積み上げてきた権威。


 だが今。


 遠い砂漠の国で、その土台を揺るがしかねない何かが生まれ始めていた。

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