表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人族最後の生き残りですが、同族が全員食べ過ぎで滅びました  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/35

2

 レイは激怒した。


「のだぁあああああああ!!」


 砂漠に絶叫が響いた。


 砂丘の鳥たちが一斉に飛び立ち、ラクダ商隊が「またか」と遠い目をした。


 世界最強の獣人、レイ。


 黒竜を殴り飛ばし、魔王を泣かせ、大陸西部連合軍を「うるさいから」で追い返した男。


 そんな怪物が今、怒りで尻尾を膨らませていた。


「吾輩の短剣なのだぁあああ!!返せなのだぁあああ!!」


 原因。


 短剣を盗まれた。


 ちなみにその短剣。


 別に伝説の武器でも何でもない。


 神話級の魔力もなければ、古代王の遺産でもない。


 ただの獣人族製の短剣だった。


 少し頑丈。


 ちょっと切れ味が良い。


 それだけである。


 だが。


 レイにとっては大問題だった。


 なぜなら。


「のだぁ……あれ、お気に入りだったのだぁ……」


 獣人族最後の遺品だからである。


 もっとも。


 別に泣きながら一族の誇りを語ったりはしない。


 レイはそこまで繊細ではない。


 単純に。


「肉切る時にちょうど良かったのだぁ」


 という理由が八割だった。


 残り二割は思い出である。


 その短剣を盗んだのが、“砂漠の女王”だった。


 南方最大国家・ザルハディア。


 無数のオアシス都市を支配する巨大王国。


 香辛料、黄金、奴隷、宝石。


 全てが集まる富の国家。


 そしてその頂点に君臨するのが、女王サフィール。


 美貌と悪辣さで有名な女だった。


 税は重い。


 敵には容赦しない。


 商人は搾る。


 気に入らない部族は砂漠送り。


 しかも本人はそれを悪いと思っていない。


「弱い者は利用されるために存在しますもの」


 と笑顔で言うタイプである。


 レイはそんなこと知らなかった。


 そもそも政治に興味がない。


 肉と昼寝とお嫁さんのことしか考えていない。


 ではなぜ女王と関わったのか。


 簡単である。


 飯。


 王都アズ・ラハム。


 世界最大級の市場。


 レイはそこで巨大串焼きを食べていた。


「のだぁ〜〜♡美味しいのだぁ〜〜♡」


 一本で牛一頭分くらいある串焼きを頬張りながら、幸せそうに尻尾を振るレイ。


 周囲の商人たちは震えていた。


「なんだあの化け物……」


「串を丸ごと食ってるぞ……」


「骨まで噛み砕いた……」


 そこへ。


 偶然、お忍び中の女王サフィールが通りかかった。


 金の装飾布。


 褐色の肌。


 宝石だらけの腕。


 そして蛇みたいな目。


 女王はすぐにレイへ興味を持った。


「……面白い男ね」


 護衛が慌てる。


「陛下、お近づきになるのは危険です」


「大丈夫よ。ほら、ああいう馬鹿は扱いやすいでしょう?」


 その予想は半分当たっていた。


 実際レイは馬鹿だった。


 しかし。


 強さまで計算に入っていなかった。


 女王は微笑みながら近づいた。


「あなた、旅人?」


「のだっ♡そうなのだっ♡」


「ふぅん。素敵な短剣ね」


「のだぁ?これかぁ?」


 レイは嬉しそうに短剣を見せた。


 ちょろかった。


 あまりにも。


 女王は心の中で笑った。


(犬みたいな男ね)


 そして。


 彼女は気づいた。


 短剣の材質が異常なことに。


 魔力伝導率。


 耐久性。


 古代獣人族特有の鍛造痕。


 今では失われた技術だった。


 女王の目が変わる。


(……売れば国宝級ね)


 その瞬間。


 欲しくなった。


 女王は他人の物を奪うのが好きだった。


 権力者だからである。


 そして。


 その日の夜。


 レイが宿で爆睡している間に、女王直属の盗賊団が短剣を盗んだ。


 なお。


 盗賊団は侵入直後、レイの寝返りで壁ごと吹き飛ばされ、三人死にかけた。


 それでも何とか盗み出した。


 命懸けである。


 翌朝。


「のだぁ?」


 レイは三秒固まった。


「……のだぁ?」


 荷物を漁る。


 ない。


 もう一回漁る。


 ない。


 ベッドをひっくり返す。


 ない。


「…………」


 沈黙。


 そして。


「のだぁあああああああああああああ!!!!!」


 宿屋が吹き飛んだ。


 衝撃波で市場の屋根が十数枚飛んだ。


 ラクダが失神した。


 レイは泣きそうな顔で叫んでいた。


「短剣ぃいいいいい!!吾輩の短剣なのだぁあああ!!」


 宿屋の主人が半泣きになる。


「し、知らねぇよぉ!!」


「返せなのだぁあああ!!」


「俺じゃねぇって!!」


 だが。


 レイは匂いを嗅いだ。


 獣人族の鼻は異常に良い。


「のだぁ……香水臭いのだぁ……」


 女王直属盗賊団の香油だった。


 追跡開始である。


 そこからは地獄だった。


 盗賊団のアジト壊滅。


 裏市場半壊。


 闇商人号泣。


 傭兵団三つ消滅。


 砂漠の巨大盗賊都市、一夜で崩壊。


 レイは泣きながら暴れていた。


「返せなのだぁあああ!!」


 しかも本人に悪気がない。


 本気で「落とし物探し」感覚なのである。


 最悪だった。


 数日後。


 ついにレイは王宮へ辿り着いた。


 巨大な白亜宮殿。


 千人の兵士。


 魔導結界。


 砂漠最大国家の権力の象徴。


 だが。


「のだぁああああ!!女王ぉおおおお!!」


 ドゴォォォォォン!!!


 門が吹き飛んだ。


 兵士たちが悲鳴を上げる。


「き、来たぁあああ!!」


「災害獣だぁ!!」


「止めろぉおおお!!」


 止まらなかった。


 槍が折れる。


 魔法が弾ける。


 騎士団長が壁に埋まる。


 レイは泣きそうな顔で進んでいた。


「吾輩の短剣返せなのだぁあああ!!」


 ついに玉座の間。


 女王サフィールは呆然としていた。


 想定外だった。


 ここまで来るとは思わなかった。


 いや普通来ない。


 王国軍で止まる。


 止まらなかった。


 レイは涙目で女王を指差した。


「お主なのだぁあああ!!」


「……たかが短剣でしょう?」


 その瞬間。


 空気が止まった。


 レイは固まった。


「……たかが?」


 女王は肩を竦めた。


「金なら払うわ。百万でも二百万でも」


「…………」


「それで満足でしょう?」


 レイはしばらく黙っていた。


 そして。


「のだぁ」


 静かに言った。


「あれ、肉切るのにちょうど良かったのだぁ」


 女王は頭を抱えそうになった。


 遺品とかじゃないのか。


 もっと感動的な理由はないのか。


 だが次の瞬間。


 レイは小さく続けた。


「……父ちゃんにもらったのだぁ」


 静寂。


 ほんの少しだけ。


 レイの耳が下がっていた。


「だから返せなのだぁ」


 女王は初めて理解した。


 この男。


 馬鹿だが。


 本気で怒っている。


 しかも。


 めちゃくちゃ強い。


 数秒後。


 女王は即座に短剣を返した。


「ご、ごめんなさい」


 世界最強の男を敵に回すほど、流石の悪辣女王も愚かではなかったのである。


 なお。


 レイは短剣を受け取ると即機嫌を直した。


「のだっ♡」


 単純だった。


 そしてその日の夜。


 女王は泣きながら、半壊した王宮の修理費を計算していた。


 一方レイは。


「のだぁ〜〜♡」


 王宮の厨房で巨大肉料理を食べながらご機嫌だった。


 平和である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ