13 ユニコーン探し
レイがいなくなって、一ヶ月が経っていた。
王都アズ・ラハム。
巨大市場は相変わらず賑わっている。
交易も続いている。
税収も高い。
だが。
王宮だけは空気が違った。
「……次」
女王サフィールは死んだ目で言った。
「北方連盟の婚姻提案書です」
「却下」
「次」
「東方属国の軍事同盟案」
「条件修正」
「次」
「西部商業国家より、レイ様との面会申請」
「却下」
「次」
「南方王族が陛下への謁見を――」
「帰しなさい」
官僚たちは泣きそうだった。
なぜなら。
最近の女王。
機嫌が悪い。
非常に。
原因。
レイがいない。
世界最強の獣人。
現在。
遥か北方山脈地帯をうろついていた。
「のだぁああああ!!」
雪山。
吹雪。
絶壁。
そんな場所を、銀髪の怪物が猛スピードで駆け回っている。
「絶対見つけるのだぁあああ!!」
目的。
ユニコーン。
しかも理由が酷い。
女王サフィールの誕生日プレゼント。
それだけである。
一ヶ月前。
「陛下ぁ♡誕生日何欲しいのだぁ?」
「別に何も」
「ダメなのだぁ!」
「そうねぇ……」
サフィールは適当に答えた。
「ユニコーンでも捕まえてきたら?」
冗談だった。
ユニコーン。
伝説級幻獣。
滅多に見つからない。
しかも超警戒心が強い。
普通の人間なら、一生かけても遭遇できない。
だから。
適当に言った。
しかし。
「のだっ♡わかったのだっ♡」
レイは本気にした。
翌朝には消えていた。
しかも置き手紙。
『絶対捕まえるのだっ♡』
現在に至る。
サフィールは頭を抱えた。
「……馬鹿」
問題はそこではない。
レイがいない。
それが大問題だった。
今まで。
外交。
軍事。
圧力。
全部。
レイの存在感で雑に解決していた。
だが。
いなくなった瞬間。
周辺国家が急に活発化した。
「レイ様は本当に不在なのか?」
「今なら交渉可能では?」
「女王単独なら揺さぶれる」
結果。
使節激増。
陰謀増加。
婚姻提案乱舞。
ついでに。
反乱予備軍まで動き始める。
官僚たちは地獄だった。
「南部貴族派が接触中!!」
「西方商人連盟が裏工作を!!」
「属国側が独自軍拡を始めています!!」
「うるさいわねぇ……」
サフィールは不機嫌そうにワインを飲んだ。
正直。
面倒だった。
今までは。
「レイがいる」
これだけで黙っていた連中が、急に元気になっている。
しかも。
女王自身も気づいていた。
(……やっぱり便利だったのよねぇ)
あの怪物。
存在するだけで抑止力。
しかも。
レイ本人は何も考えていない。
そこがさらに酷い。
一方その頃。
「のだぁあああ!!」
レイ。
雪山で雪崩に突っ込んでいた。
ユニコーン探索中である。
「獣人族の鼻を舐めるなのだぁ!!」
自信満々だった。
実際。
獣人族の嗅覚は異常。
しかもレイは世界最強。
普通の猛吹雪など意味がない。
レイは雪を嗅いでいた。
「のだぁ……」
くんくん。
「……草の匂いなのだぁ」
くんくん。
「……鹿なのだぁ」
くんくん。
「……おっぱい大きい女の匂いなのだぁ」
完全に無駄情報も拾う。
だが。
本人は真剣だった。
「ユニコーン絶対いるのだぁ!」
なお。
途中で何度か別の幻獣を捕まえている。
雪竜。
氷狼王。
古代白熊。
全部ユニコーンじゃないので放流した。
周辺国家が泣いた。
その頃。
王宮。
「陛下」
「何」
「北方王族が“レイ様不在中の軍事演習”を提案しております」
「脅しね」
「はい」
「却下」
サフィールはイライラしていた。
昔なら。
こういう駆け引きも楽しめた。
だが最近は。
(……レイなら山ごと潰して終わりなのよねぇ)
脳が雑になっていた。
非常に良くない。
しかも。
夜。
寝台が広い。
「…………」
サフィールは少し沈黙した。
いつもなら。
「のだっ♡」
って大型犬みたいなのが抱きついてくる。
暑苦しい。
うるさい。
でも。
今はいない。
静かだった。
静か過ぎる。
女王は不機嫌そうに寝返りした。
「……ほんと馬鹿」
その時。
侍女が慌てて飛び込んできた。
「へ、陛下!!」
「何」
「北方より報告です!!」
「……まさか」
「レイ様が氷山を粉砕しながら“ユニコーンぉおおお!!”と叫んでいるとのことです!!」
サフィールは顔を覆った。
「……あの馬鹿」
しかし。
少しだけ笑っていた。
一方。
レイ。
「のだぁあああ!!」
雪原を爆走中。
目がキラキラしていた。
「陛下、絶対喜ぶのだっ♡」
本気だった。
世界最強の怪物は。
ただ女王を喜ばせたくて、今日も大陸北部を半壊させながらユニコーンを探していたのである。




