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王宮は静まり返っていた。
重苦しい。
非常に重苦しい。
廊下を歩く侍女たちは顔を青くし、兵士たちは無言で視線を逸らしている。
理由。
女王サフィールが激怒していた。
しかも。
かなり本気で。
「……殺す」
玉座の間。
女王は笑顔だった。
逆に怖い。
周囲の大臣たちは完全に硬直していた。
原因。
レイ。
世界最強の怪物。
そして現在。
王宮の隅でガタガタ震えている。
「のだぁあああああ……」
尻尾ぺたん。
耳もしおれている。
完全に怯えていた。
数日前。
臣下たちは気づき始めていた。
女王サフィールは危険だ。
昔から危険だったが、最近さらに危険である。
気に入らない。
それだけで処刑。
有能過ぎる。
それだけで毒殺。
忠臣ですら安心できない。
しかも最近、国家財政が異常に豊かなので、女王の浪費や粛清を誰も止められない。
なにせ。
金が無限に増える。
レイがいるから。
つまり。
問題の根本。
世界最強の怪物を女王が独占していることだった。
なら。
どうする?
簡単である。
レイを味方に引き込めばいい。
そして臣下たちは理解していた。
レイの攻略法。
非常に簡単。
肉。
昼寝。
そして。
美女。
特に美女。
レイは美女に弱かった。
恐ろしく弱かった。
「のだぁ……♡」
綺麗な女を見るだけで目がハートになる。
しかも隠さない。
分かりやすい。
だから。
臣下たちはやった。
めちゃくちゃやった。
舞姫。
踊り子。
西方美人。
北方貴族令嬢。
黒髪美女。
金髪美女。
褐色美女。
大量投入。
しかも。
「これはレイ様への献上品です」
「のだっ♡」
「我らは常にレイ様の味方にございます」
「のだっ♡」
ちょろかった。
レイ。
超笑顔。
大臣たちは確信した。
(いける!!)
(この怪物を味方に出来れば!!)
だが。
問題があった。
女王サフィール。
この女。
権力欲が強い。
非常に強い。
そして。
独占欲も強かった。
レイが美女たちに囲まれている光景を見た瞬間。
「…………」
空気が凍った。
王宮全体が。
侍女たちは震えた。
「ま、まずい……」
「陛下が……」
「目が笑ってない……」
レイは気づいていなかった。
「のだっ♡」
美女たちに囲まれて超ご機嫌。
最低だった。
しかも。
「のだぁ♡綺麗なのだぁ♡」
普通にデレデレしていた。
女王のこめかみに青筋が浮かぶ。
さらに。
臣下の一人が調子に乗った。
「レイ様のような英雄には、女が何人いても足りませぬな!」
「のだっ♡」
「いずれは王配として――」
ドゴォォォォォン!!!
柱が吹き飛んだ。
全員凍りつく。
女王だった。
笑顔。
超笑顔。
「……誰が?」
臣下たちは即土下座した。
「も、申し訳ありません陛下!!」
だが。
サフィールはレイを見ていた。
じぃぃぃぃっと。
蛇みたいな目で。
レイはやっと気づいた。
「のだぁ?」
数秒後。
「…………」
女王、無言で立ち去る。
その晩。
レイは女王の私室へ向かった。
いつものように。
「のだっ♡陛下ぁ♡」
だが。
扉の前。
侍女が真っ青な顔で言った。
「……レイ様」
「のだぁ?」
「陛下より命令です」
「のだっ♡」
「“もう寝台へ入るな”とのことです」
沈黙。
レイ、停止。
「…………え?」
数秒後。
「のだぁあああああ!?!?!?」
絶叫。
王宮全域へ響いた。
「嫌なのだぁああああ!!」
レイ、泣き始める。
「吾輩、何したのだぁあああ!!」
侍女たちは視線を逸らした。
お前である。
原因。
完全に。
レイは扉をガンガン叩いた。
「陛下ぁあああ!!開けるのだぁああ!!」
中から冷たい声。
「嫌」
「のだぁあああ!!」
「美女いっぱいで楽しかったでしょう?」
「のだぁ!?!?!」
レイ、青ざめる。
やっと理解した。
「ち、違うのだぁ!!」
「へぇ」
「吾輩、陛下が一番なのだぁ!!」
「そう」
「本当なのだぁ!!」
「ふぅん」
全然信じてない声だった。
レイは完全にパニックになった。
なにせ。
女王の寝台禁止。
レイにとっては超重大案件である。
肉禁止より辛い。
世界最強の怪物、涙目。
「のだぁああああ!!嫌なのだぁ!!」
王宮中に響く悲鳴。
兵士たちは震えていた。
「……レイ様、終わったな」
「陛下、怖ぇ……」
一方。
臣下たちはもっと青ざめていた。
やばい。
女王が本気で怒ってる。
しかも。
レイ。
普通に女王へ泣きついている。
つまり。
自分たち側へ引き込めていない。
むしろ逆効果。
最悪だった。
その頃。
扉の向こう。
サフィールは寝台へ座っていた。
「…………」
実は。
少し面白かった。
レイがここまで慌てるの。
世界最強。
なのに。
自分に追い出されるだけで半泣き。
サフィールは少し笑いそうになった。
だが。
まだ許さない。
「反省しなさい」
「のだぁあああ!!」
「あと美女禁止」
「のだぁ!?」
「返事は?」
「のだぁ……」
しおしおである。
完全敗北。
その時。
レイが小さく呟いた。
「……でも陛下が一番綺麗なのだぁ」
沈黙。
サフィール、数秒止まる。
そして。
少しだけ頬を緩めた。




