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第21話 支える人と、支えられる人

本日2話目です

夜は、少しだけ更けていました。


王都の灯りが遠くに揺れて。


静かな廊下に、足音がひとつ。

——私です。


(……落ち着きませんね)

先ほどまでの出来事が、まだ胸の中に残っています。


お嬢様の告白。

そして、その答え。

すべてが、ひとつの形に収まった夜。


(本当に、よかった)

そう思う一方で。


(……では私は?)

考えないようにしていた問いが、浮かびます。


その時でした。

「ナターシャ」

呼び止められました。


振り向くまでもありません。

「……レオン様」

そこに立っていたのは、彼でした。


相変わらず無駄のない姿勢。

感情の読みにくい表情。


けれど。

視線だけが、まっすぐこちらを見ています。

「少し、よろしいですか」


「はい」

断る理由は、ありませんでした。


しばしの沈黙。

ですが、不思議と気まずさはなくて。


ただ、言葉の順番を待っているような静けさ。


「……先ほどの選択」

レオンが口を開きました。


「正しいと思います」


「ありがとうございます」

私は、素直にそう答えました。


ですが。

それで終わる空気ではありませんでした。


彼は、ほんの一瞬だけ視線を伏せて。

そして、再び上げます。


「——もう一つ、聞いていただきたい」

声音が、わずかに変わりました。


いつもより、少しだけ低く。

少しだけ、慎重に。


「……はい」

胸の奥が、静かに騒ぎます。


理由は、わかっていました。


「あなたは」

レオンは、言葉を選ぶように続けます。

「支えることに慣れすぎている」


「……否定はできません」


「ですが」

そこで、一歩。


距離が、ほんの少しだけ近づきました。


「それでは、いずれ限界が来る」

真っ直ぐな言葉。

逃げ場のない指摘。


でも、不思議と嫌ではありませんでした。


「……ですので」

レオンは、一度だけ呼吸を整えて。

「私が支えます」


——一瞬、意味が理解できませんでした。

「……え?」

思わず、聞き返します。


ですが。

彼の表情は変わりません。

「あなたを支えたい」

静かに、そしてはっきりと。


逃げ道のない言葉でした。

胸が、強く打ちます。


思考が、少し遅れてついてきます。

(……それは、どういう意味で?)


わかっているのに。

あえて考えないようにしていた問い。


「私は」

レオンは続けます。

「効率を重視します」

「無駄を嫌います」

「ですが」

ほんのわずかに、言葉が柔らかくなりました。

「あなたに関しては、例外です」


(……ずるいですね)

そんな言い方。

思わず、小さく息が漏れました。

「……不器用ですよ?」

気づけば、そう口にしていました。


逃げでも、拒絶でもなく。

ただ、事実として。


「支えられるのは、慣れていません」

「きっと、上手くできません」

正直な言葉でした。


レオンは、ほんの一瞬だけ間を置いて。

「知っています」

迷いも、躊躇もなく。


「それでも構いません」

「むしろ、その方がいい」

静かな声、けれど強さを持った言葉。


「完璧である必要はない」

その言葉に、ふと、先ほどの光景が重なりました。

バルコニーでの言葉。


(……ああ)

同じなのだと、気づきます。

誰かを想うことは。


完璧でなくていい。


「……」

少しだけ、目を閉じました。


そして。

ゆっくりと開きます。

「……よろしくお願いします」

その言葉はこれまでとは少し違う重みを持って。

確かに、そこにありました。


レオンは、小さく頷きます。

それだけでした。


それだけなのに。

(……十分ですね)


派手な言葉も。

劇的な動きもない。


でも、確かに、成立していました。


二人の間に静かに揺るがない形で。


(これが)

(私の選んだもの)

そう思った時。

遠くから、聞き慣れた声が響きました。


「ナターシャー!」


(……来ましたね)

私は小さく息を吐いて。

いつもの場所へ、足を向けます。


「行きましょう」


「ええ」

隣に、もう一人。

“支える側”が増えたことを感じながら。

私は、歩き出しました。

本日もう1話、最終話を投稿します。

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