第19話 完璧でなくても、届くものがあります
本日2話目です
夜風が、静かに二人の間を通り抜けていきました。
「——好き、です……!」
「……ちゃんと、言えないけれど……!」
マリアーナ様の声は、震えていて。
言葉も整っていなくて。
途中で何度も詰まりながら。
それでも。
「……好き、です」
最後だけは、はっきりと。
——伝わる形で、そこにありました。
沈黙。ほんの数秒。
けれど、とても長く感じる時間。
マリアーナ様は、ぎゅっと手を握りしめたまま、顔を上げられずにいました。
(……大丈夫です)
私は少し離れた場所で、静かに見守ります。
(届いています)
やがてアーヴィン様が、一歩だけ近づきました。
足音は小さく。
けれど確かに距離が縮まる。
「……マリアーナ嬢」
穏やかな声。
その一言に、お嬢様の肩がわずかに震えました。
「顔を上げてください」
「……っ」
ゆっくりと、ほんの少しだけ。
マリアーナ様が顔を上げます。
不安と、緊張と。
それでも、逃げない強さを含んだ瞳。
アーヴィン様は、その目をまっすぐ見て。
——柔らかく、微笑みました。
「完璧でなくていい」
静かに、はっきりと。
「言葉が揃っていなくてもいい」
「上手く伝えられなくてもいい」
一つずつ、丁寧に。
まるで確かめるように。
「……そのままのあなたで、十分です」
マリアーナ様の目が、大きく見開かれました。
「私は」
アーヴィン様は続けます。
「あなたといる時間が、好きです」
「予測できないところも」
「少し危なっかしいところも」
ほんの少しだけ、笑みが深くなって。
「全部含めて、楽しい」
その言葉に。
マリアーナ様の表情が、ゆっくりとほどけていきました。
「……本当に?」
小さな声。不安を残した問い。
「ええ」
迷いのない返事。
「だから」
アーヴィン様は、そっと手を差し出しました。
「私と、これからも一緒にいてください」
その手は、強引ではなく。
けれど、確かに選ばせる手。
マリアーナ様は、少しだけ戸惑って。
けれどゆっくりと、その手を取ります。
「……はい」
小さく。でも、確かに。
「よろしく、お願いします」
——その瞬間。
空気が、やわらかく変わりました。
距離が、自然に近くなる。
言葉にしなくても伝わる、静かな安心感。
(……成立ですね)
私は、静かに息を吐きました。
完璧ではない告白。
整っていない言葉。
それでも。
(だからこそ、良い)
マリアーナ様は、少しだけ照れながら笑っていました。
アーヴィン様も、同じように穏やかに。
夜風が、二人の間を優しく包みます。
それは、今までとは違う距離で。
これから続いていく関係の、はじまりでした。




