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第17話 領地は自然と予測不能に満ちています

本日2話目です

「では、私は一度領地へ戻ります」

ダニエル様がそう言ったのは、年越しから数日後のことでした。


「すぐに戻るが、様子を見ておきたい」


侯爵家の長男として当然の判断です。


——ですが。

「私も行きたいわ」

お嬢様が、即座に言いました。


(でしょうね)


「久しぶりに領地を見たいの」


「……構わないが」

ダニエル様は一瞬考え、

「騒ぎは起こすな」


「善処するわ」

(しません)


結果、同行者は増えました。


侯爵様、侯爵夫人。


マリアーナ様。

私。


そして。

「私も視察がてら同行しますわ」

サテーラ様。


「護衛として」

レオン。


さらに

「興味があるので」

アルヴェル様。

(増えましたね)



——領地。


広がる畑。

遠くまで続く森。

澄んだ空気。

(……いい場所です)


「懐かしいわ」

お嬢様が、穏やかに笑いました。


その笑顔は。

王都とは少し違って。

(柔らかい)


ですが。

「ナターシャ」

「はい」


「虫がいるわ」

「はい」


「多いわ」

「はい」

(ここは自然です)


——畑。


「こちらで作物を育てている」

ダニエル様が説明します。


農民たちが頭を下げ、

和やかな空気。


その中で

「……」

お嬢様が固まりました。

(嫌な予感)


「ナターシャ」

「はい」


「今、何かが」

ぴた。

「腕に」

(来ました)


——虫です。

小さな、無害なもの。


ですが。

「きゃああああああ!!」

全力でした。


「落ち着いてください!」

私は即座に手を伸ばし、

虫を払います。


「もういません」


「本当!?」


「はい」


お嬢様、息を整えながら。

「……怖いわ」


「自然でございますので」


「王都が恋しいわ」


(まだ早いです)

周囲の農民たちが苦笑しています。


「元気そうで何よりです」

誰かが言いました。


(確かに)


——その後。

果樹園へ移動。

実のなる木々が並び、

甘い香りが広がります。


「綺麗ね」

お嬢様が目を輝かせました。

(これは危険です)


「少し取ってみるか?」

ダニエル様。


「いいの?」


「構わない」


お嬢様が手を伸ばし——

(届きません)

「ナターシャ」

「はい」


「届かないわ」


「脚立を」

言いかけた瞬間。


お嬢様は。

木に手をかけました。


「え?」


そして。

登りました。

「……」


「……」

(なぜ)

「お嬢様!?」


気づけば。

枝の上。

普通に座っています。

「取れたわ!」

満面の笑み。


(そういう問題ではありません)

「降りてください!」


「どうやって?」

(そこからですか)


レオンが一歩前へ。

「支えます」

的確な位置取り。

私は下で受ける準備。


「落ち着いて、ゆっくり」


「……はい」

お嬢様、慎重に動き。

——一歩。

——二歩。


ずるっ。

(来た)


ですが。

レオンが支え。

私が補助し。


無事、着地。

「……できたわ」


「できていません」

私は即答しました。


ですがお嬢様は楽しそうで。


(……まあ、怪我がなければ)



——その夜。

屋敷での食事。


暖かな灯りの中で。


「領地も悪くないだろう」

ダニエル様。


「ええ、とても」

お嬢様が頷きます。


「虫は多いけれど」

(そこは譲れませんか)


「今日は色々あったな」

アルヴェル様。


「ええ」

サテーラ様が頷きます。

「退屈はしませんでしたわ」

(同意です)


レオンは静かに食事をしながら、

「問題はありませんでした」

と一言。

(基準が高い)


私はふと、思いました。

(皆、慣れてきていますね)

この“予測不能”に。



——翌朝。

出発の時間。


「もう帰るのね」

お嬢様が少し名残惜しそうに言いました。


「私は残る」

ダニエル様。

「仕事があるからな」


「体調には気をつけて」

侯爵夫人。


「わかっております」

短い会話ですが

(ちゃんと家族です)



「ナターシャ」

「はい」


「また来たいわ」


「……準備いたします」

(対策も必要です)


馬車へ向かいながら最後に

「ダニエル様」


「何だ」


「お気をつけて」


「そちらこそな」

静かな別れ。


そして。

馬車が動き出しました。


窓の外。

広がる景色が、少しずつ遠ざかっていきます。


「楽しかったわ」

お嬢様が、ぽつりと呟きました。


「はい」

私は頷きます。

(本当に)

騒がしくて。危険で。

でも。

(悪くありません)


レオンが、向かいで静かに座っています。

一瞬、目が合い。

ほんのわずかに。

頷かれました。


(……共有されていますね)

この空気が。


——領地は。

自然と、予測不能に満ちていました。


そして少しだけ心に残る場所でもありました。

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