表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/23

第12話 ピクニックは平和とは限りません

「ピクニックに行きませんか」

——それは、あまりにも自然な誘いでした。


「行きます」

お嬢様は即答しました。

(即断すぎます)


「場所は王都郊外の丘です」

アーヴィン様が続けます。


「景色も良く、人もそれほど多くない」

(管理された環境)

(障害物少なめ)

(逃げ場あり)


「……許容範囲でございます」

私は頷きました。


「レオンも同行する」


「了解しました」

背後で、短い返事。


(この時点で成功率が上がりました)



——当日。


青空。

穏やかな風。

広がる草原。


「……綺麗ね」

お嬢様が、ぽつりと呟きました。


(環境は完璧です)


問題は——

「足元にご注意を」


「わかっているわ」

三歩目でつまずきました。


「わかっていません」


「今のは風よ」


「無風でございます」

——通常運転です。



「こちらに」

アーヴィン様がシートを広げます。

手際が良すぎます。


配置。

日陰の位置。

風向き。


すべて計算済み。

(……完璧)


さらに。

「飲み物は冷やしてあります」


「まあ」


「食事は崩れにくいものを選びました」

(対マリアーナ仕様)


完成度が高すぎます。


「さすがです」

思わず口に出ました。


「君たちがいるからだ」

アーヴィン様は軽く笑います。


(この人も大概です)


——そして。

楽しい時間が、始まるはずでした。



「……あら」

声がしました。


(来ましたね)


振り向くと。

そこにいたのは——

「サテーラ・クリスファイと申しますわ」


完璧に整えられた令嬢。

笑顔は美しく——

(敵意が滲んでいます)


「マリアーナ様、こんな場所でお見かけするとは」


「ええ、ピクニックですの」

お嬢様、いつも通りです。

(危機感がありません)



「まあ……ずいぶんと“庶民的”な遊びを」

来ました。

典型的な入り方です。


「楽しいですわよ?」

お嬢様、にっこり。


(効いていません)



「そのような場所では、色々と“危険”も多いのでは?」

意味深な言い方。


(来ますね)


サテーラ様が、一歩踏み出し——

裾を踏みました。


「……え?」

ぐらり。


そして。

——転びました。


「大丈夫ですか!?」

お嬢様が即座に駆け寄ります。


(早い)


「今の、よくありますわよね」


「……は?」


「何もないのに、つまずくの」

(仲間認定されました)


「い、いえ私は——」

立ち上がろうとして。

また足を滑らせました。


「ほら、今のも」

お嬢様、優しく頷きます。


「大丈夫です、慣れます」


「慣れたくありませんわ!!」

叫びました。


非常に良い反応です。


「お怪我は?」


「な、ないですけれど……!」


その間にも。

サテーラ様のドレスの裾が、少し汚れています。


(自爆)


「こちらへどうぞ」

アーヴィン様が自然に席を示します。


「休まれた方がいい」


(逃げ道を塞ぎましたね)



「……失礼しますわ」

結局、座りました。


(完全に流れを持っていかれています)


——そして。

ピクニック再開。


「このサンドイッチ、とても食べやすいわ」

お嬢様が言いました。


「具材を固定しています」

アーヴィン様。


(対策が細かい)


「……」

サテーラ様も一口。


その瞬間。

具が、ぽろり。


「……」


(あ)


「大丈夫ですわ、よくあります」

お嬢様が優しくフォロー。


「……ありませんわよ!?」

否定しましたが。

もう遅いです。


(完全に“こちら側”です)



その後も。


お茶を少しこぼし。

果物を落とし。


その度に。

「わかりますわ」

「仲間ですね」

お嬢様が頷きます。


「違いますわ!!」

全力否定。


(ですが結果は同じです)


——気づけば。

嫌がらせは一切成立せず。

むしろ。


(被害側になっていますね)


「……失礼いたしますわ!」

ついに立ち上がり。


そして。


去り際に。

またつまずきました。


「お気をつけて!」

お嬢様が手を振ります。


「ありがとうございます!!」

なぜかお礼を言って去っていきました。


(……)


(何もできませんでしたね)


静寂。

そして。


「……賑やかでしたね」

アーヴィン様がぽつり。


「ええ」

私は頷きました。



その後は。

本当に穏やかな時間でした。


お嬢様は笑い。

アーヴィン様も柔らかく。


その距離は。

(確実に、近づいています)


そして。

「ナターシャ」


「はい」


少し離れた場所で。

レオンが声をかけました。


「こちらを」


差し出されたのは。

飲み物。


「……ありがとうございます」

受け取ります。


指先が、少しだけ触れて。


(……)

一瞬。

妙に意識しました。


「今日は」

レオンが言います。

「比較的、安定しています」


「外部要因が減っておりますので」


「それもあります」

一拍。


「もう一つ」


「……?」


「あなたが、無理をしていない」


(……)

言葉に詰まりました。

「……そうでしょうか」


「はい」

「効率が上がっています」


(やはりそこですか)


ですが。

「……悪くありませんね」

小さく、そう思いました。


少し離れた場所では。

「次はあちらを歩きませんか」


「はい!」


二人が並んで歩いています。

その距離は。

以前より、自然で。


(こちらも、進んでいますね)


風が吹きました。

穏やかで。

心地よくて。


(……いい日です)


——ピクニックは。

やはり戦場ではありましたが。


それ以上に。

少しだけ。

大切なものが進んだ日でもありました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ