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77 戦いに戻る

 目を開けると、篠原さんが左腕を治療してくれている最中だった。

 目覚めたときに少し動いたのか、左腕に痛みが走って「……うっ」と声が漏れた。


「相沢さん!?」

「カリンさん、気づいたのですね!」


 篠原さんとディリアさんが私に声をかける。

 二人とも心配そうな顔から少し安堵した表示に代わる。


「治療、ありがとうございます」

「良かった。酷い怪我だったから、治すのに時間かかっちゃって」

「本当に、最初はどうなるかと……」


 素直にお礼を言うと、二人は――特に篠原さんは――当たり前のことだと答える。

 確かに仲間が傷ついたら、傷を癒すのは当たり前かもしれない。

 けれど、最初のころはその当たり前ができなかったのに、いつの間にか、力が強いものが前に立ち、弱いものは後方支援、場合によっては怪我した人を治す――それが当たり前になっていた。

 いつの間にか、しっかりパーティとしての役割が出来ていたんだ。

 最初のころ、みんなも瘴気のせいで負の感情を持ちやすくなっていたけど、険悪だったのは私が非協力的だったから。

 ……そうか、今は、私はみんなを仲間だと思っているんだ。

 そう思うと、なんか、心が温かくなる。

 ――なんて思った瞬間、魔王と戦っていた蒼井くんが思い切り吹き飛ばされたのが、横目に移った。壁まで覆ったクリスタルに叩き付けられてる!?

 それを見て、篠原さんが慌てて蒼井くんの方に向かう。


「ヤバい。蒼井くんの抜けた分を埋めなきゃ……」


 思いに浸るのは簡単だけど、それは今じゃない。

 私は少しよろめいたがなんとか立ち上がる。

 蒼井くん、大野くんにヴァイスさん、レーレン、堤さんの援護があってどうにか均衡を保っていた戦いも、蒼井くんの脱落で押され気味だ。私も蒼井くんの代わりに入って戦わないと。


「ディリアさん、蒼井くんと篠原さんをお願いします」


 ディリアさんを見ずに言いたいことだけ伝えると、私は魔王に向かっていった。足元が少しふらつくのは、流れた血のせいか、それとも単に足元が危ういせいか――できれば後者であって欲しいものだけど。

 今はそこまで考えている暇はない。ここで魔王を斃さなければ、怪我や貧血どころじゃない。死が待っている。

 少なくとも、私はこの世界で死ぬ気は全くもって無い――意識が戻る前にそう誓ったばかりだ。


 再戦する前によく見ると、魔王はかなり怪我を負っていることが分かる。でも、それを感じさせない動きをしている。

 かわって、蒼井くん達を見ると、こちらもかなり怪我をしている。致命傷には至ってないものの、あれだけの怪我があれば、動きは鈍くなっているはず。

 結局、どっちが先に気力が尽きるかによるのかも。


 ……早く、加わらないと。


 ゆっくり観察している暇なんでなかった。私は駆け出すと、手に持った剣の動きに体を委ねた。自分の拙い剣技より、剣に任せてしまったほうが効果的だものね。前の時のやる気のなさ、今回の旅立ちの早さなどを含め、私にはどう剣を扱っていいか、理解してないし、体も覚えていないから。


 蒼井くんが攻めて、魔王が一歩後ろに下がる。そこを狙って追撃すると、魔王は躱しきれずに腕に剣を受ける。さすがに致命傷になるところは避けたみたいだ。


「相沢! 大丈夫か!?」

「なんとかね!」


 でも、クリスタルによる浄化がないのか、前と違って私を攻撃することに時間を割くことは無いみたい。それよりも、ヴァイスさんが投げてくるクリスタルの方を確実に躱している。というより、迂闊に魔王の傍にいると、魔王が躱したクリスタルに当たりそうで、注意が必要かも。

 ……ん? このクリスタルを弾き返せばいいんじゃない? せっかく砕いたクリスタルを再利用しない手は無いよね?


 まあ、あまりやると、前みたいに魔王が私だけを攻撃しかねないから気をつけないと。居たいのは嫌だし、それよりも治療のために篠原さんを占領してしまうのは効率が悪い。できれば軽い怪我くらいに留めながら、魔王には深手を負わせていくのが理想なんだけど。

 ま、そんな理想通りに行くわけがない――と、思いながら、ヴァイスさんが投げて、魔王が避けたクリスタルを剣で弾いて、もう一度魔王に向かわせる。地味作業だけど、クリスタルが苦手な魔王には効果的だ。

 ほぼ機械的に自分の所に来たクリスタルを弾き返していると、蒼井くんに当たりそうになった。


「……っぶねぇ! 味方に当ててどうする!?」

「ごめん、蒼井くん!」


 危ない危ない。もうちょっと気を付けながらクリスタルを弾き返さないと。

 魔王が斃れるまで、まだまだかかりそうで、できればこの状態である程度体力を削りたいんだけどね。

 でも、このままの場合、私はともかく、蒼井くんと大野くんの体力は持たないだろうから、どこかで別の手を考えないといけないのかもしれない。


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