表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
動物病院日誌   作者: じょんどぅ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

230/235

春の雷パニック、あるいは震える魂

春の雷パニック、あるいは震える魂


### 1. 予報にない咆哮

五月の午後。つい先ほどまで新緑が眩しく輝いていた京都の空が、急に墨を流したように暗くなりました。遠くでゴロゴロと低い音が響き始めると、診察室の隅で看板猫のみたらしが耳を伏せ、素早く受付の奥へ隠れました。


「先生、大変です! 散歩に行こうとしたら急に雷が鳴って、ラッキーがパニックを起こして……。網戸を突き破って外に出ようとするんです!」


ゴールデンレトリバーの「ラッキー」君を連れた山崎さんが、息を切らして駆け込んできました。ラッキー君の体は、まるで電動マッサージ機のように激しく震えています。


### 2. 「雷恐怖症」という深い傷

「山崎さん、大丈夫ですよ。まずはラッキー君をこの一番静かな奥の部屋へ。雷の音と光を遮断しましょう」




犬にとって、雷は単なる「大きな音」ではありません。

* **気圧の変化:** 彼らは音だけでなく、低気圧による静電気や空気の振動を敏感に察知します。

* **本能的な恐怖:** どこから来るか分からない、逃げ場のない爆音は、彼らの脳内で「生命の危機」として処理されます。

* **学習される恐怖:** 一度パニックになると、次に同じような雲の動きや風の匂いを感じただけで、恐怖がフラッシュバックするようになります。


### 3. パニックの夜を乗り切る「盾」

診察室で少しずつ呼吸が落ち着いてきたラッキー君を見守りながら、僕はいくつかのアドバイスをしました。


1. **「逃げ場」を認める:** お風呂場やクローゼットの隅など、本人が「ここが安全だ」と思った場所に隠れさせてあげてください。無理に引き出すのは逆効果です。

2. **光と音を遮断する:** カーテンを厚く閉め、テレビやラジオで「ホワイトノイズ(雑音)」を流して、外の衝撃音を紛らわせましょう。

3. **「サンダーシャツ」やサプリメント:** 体にぴったりとフィットする専用のシャツは、抱っこされているような安心感を与え、不安を和らげる効果があります。




### 4. 飼い主さんの「いつも通り」が一番の薬

「先生、あまりに震えているので、つい『大丈夫だよ!』って大声で抱きしめちゃうんですけど……」


「気持ちは分かりますが、過剰に心配しすぎるのも考えものです。飼い主さんが慌てると、犬は『やっぱりこれは大変な事態なんだ!』と確信してしまいます。**『あ、また鳴ってるね』くらいの余裕**で、淡々とそばにいてあげるのが一番の安心材料になりますよ」


どうしてもパニックが激しく、自傷行為(壁にぶつかる、爪を剥がすなど)の恐れがある場合は、頓服の抗不安薬を使うことも一つの立派な治療です。


### 5. 嵐のあとの静寂

一時間ほどして、空には再び明るい光が戻ってきました。

ラッキー君は、ようやく震えが止まり、僕の手からおやつを食べる余裕を見せてくれました。


「先生、お疲れ様です。……春の雷って、短いけど激しいから、心の準備が難しいですよね」

河野が、隠れていたみたらしを抱き上げながら言った。


「そうだね。でも、こうして一度病院で相談してもらえれば、次からは『お守り(お薬や対策)』を持って嵐を待てる。怖がることは恥ずかしいことじゃないんだよ」


窓の外では、雨に洗われた新緑が一段と鮮やかに輝いていました。

五月の空は気まぐれ。でも、その気まぐれに寄り添う方法を知っていれば、春はもっと優しくなります。


---



次はどの物語のページを捲りますか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ