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動物病院日誌   作者: じょんどぅ


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フィラリア検査の意外な副産物、あるいは「沈黙の臓器」の独白

フィラリア検査の意外な副産物、あるいは「沈黙の臓器」の独白


### 1. 恒例の「ついで」に

四月の半ば。狂犬病の狂騒曲が一段落し、診察室はフィラリア検査を待つワンちゃんたちで賑わっています。

「先生、今年もフィラリアの検査をお願いします。あ、それから去年もやった『ついでに全身チェックできる血液検査パック』も。リリーももう八歳だし、一度しっかり診ておきたくて」


パピヨンの「リリー」ちゃんを抱えた木村さんは、いつもの朗らかな笑顔でそう言いました。リリーちゃんは見た目にはとても元気で、毛艶もよく、尻尾をブンブン振っています。


### 2. 数値が語る、隠れた真実

数日後、血液検査の結果がラボから届きました。僕はその数値を見て、少し眉をひそめました。

フィラリア検査の結果は「陰性」。問題ありません。しかし、オプションで追加した肝機能の数値(ALTやALP)が、正常範囲を大きく上回る「異常値」を示していたのです。




「木村さん、フィラリアは大丈夫でしたが、**肝臓の数値**がかなり高いんです。最近、疲れやすかったり、食べる量が減ったりしていませんでしたか?」

「えっ……。いえ、食欲は相変わらずですし、散歩も喜んで行きますけど……。あ、でも、言われてみれば、最近寝ている時間が少し増えたような気がします。トシのせいだと思っていました」


### 3. 「沈黙の臓器」の戦略

肝臓は、全体の $70\%$ ~ $80\%$ がダメージを受けない限り、目立った症状を出しません。だからこそ「沈黙の臓器」と呼ばれます。

* **初期:** 飼い主さんが気づくのは「なんとなく元気がない」という程度の、老化と見分けがつかない変化です。

* **末期:** 黄疸や腹水が出てからでは、治療の選択肢が極端に狭まってしまいます。




「リリーちゃんの場合、このタイミングで検査をしたのが幸いでした。今なら食事療法や投薬で、肝臓の再生を助けることができます。症状が出る前に見つけられた、これはリリーちゃんからの『SOS』だったんですよ」


### 4. 予防の季節を「健診」の季節に

「ついでにやった検査で、こんなに大事なことが分かるなんて……。本当に良かったです」

木村さんは、リリーちゃんをぎゅっと抱きしめました。


当院では、春のフィラリア検査(採血)の際、以下の三段構えを推奨しています。

1. **フィラリア検査:** 春から秋まで安全に予防を始めるための必須項目。

2. **生化学検査(肝・腎など):** 症状が出る前の「内臓の声」を聞くための健康診断。

3. **CBC(血球計算):** 貧血や炎症がないか、体の中のバランスをチェック。


一度の針(採血)でこれだけの情報が得られるのは、一年でこの時期だけ。動物たちにとっても、負担の少ない賢い選択です。


### 5. 春の午後の安堵

「先生、お疲れ様です。……リリーちゃん、処方した療法食を喜んで食べてくれたみたいですよ」

河野が、木村さんからの電話報告を受けて嬉しそうに言った。


「良かった。見た目には分からない変化に気づけるのは、定期的な検査という『物差し』があるからこそだね」


窓の外では、八重桜がぽってりと咲き誇っています。

「元気だから大丈夫」ではなく、「元気なうちに守る」。

そんな飼い主さんの優しさが、リリーちゃんのこれからの何年もの春を守ったのだと、僕は確信しました。


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