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動物病院日誌   作者: じょんどぅ


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換毛期の抜け毛パニック、あるいは冬毛の要塞

換毛期の抜け毛パニック、あるいは冬毛の要塞


### 1. 診察室を舞う「雪」

十月に入り、朝晩の冷え込みが肌を刺すようになると、当院の診察室には「白い雪」が舞い始める。

「先生! うちの柴犬の『ハチ』、どこか皮膚病なんじゃないでしょうか? 撫でるだけでゴッソリ抜けるし、ブラッシングしてもしても終わらなくて……。ほら、ここ、地肌が見えそうなんです!」


飼い主の山田さんが、ポリ袋いっぱいに詰まったハチ君の抜け毛を持参して駆け込んできた。ハチ君本人は、涼しくなって元気が出たのか、尻尾を振ってご機嫌だ。


### 2. 「夏服」を脱ぎ、「防寒着」を着る

「山田さん、安心してください。これは病気じゃありません。ハチ君が一生懸命、**『冬支度』**をしている証拠ですよ」


犬の毛には、太くて硬い「オーバーコート(上毛)」と、密度が高くふわふわした「アンダーコート(下毛)」がある。秋の換毛期は、夏用のスカスカしたアンダーコートを脱ぎ捨て、体温を逃がさないための高密度な冬用アンダーコートに生え変わる時期だ。




「春の換毛期は『脱ぐだけ』ですが、秋は『脱いで、さらに厚い服を着る』という大仕事。だから、抜ける量も膨大に見えるんです」


### 3. 「死毛」が招く皮膚トラブル

「でも先生、こんなに抜けて放っておいても大丈夫なんですか?」


「いえ、そこが重要です。抜けた毛(死毛)が体に残ったままだと、新しく生えてくる冬毛の邪魔になり、通気性が悪くなって蒸れ、かえって皮膚炎の原因になります。冬の寒さに耐えるための『毛の要塞』を作るには、まず古い毛を完璧に取り除いてあげなきゃいけないんです」




「ブラッシングは、ただ毛を取るだけじゃなく、皮膚の血行を良くして、良質な冬毛を育てるための『耕作』だと思ってください」


### 4. 掃除機との戦い、そして絆

僕は、ハチ君に専用のスリッカーブラシを当てた。ひと撫でするだけで、綿菓子のような毛が山盛りになる。

「お父さん、この時期は『毎日10分のブラッシング』が、どんな高価なサプリメントよりも健康に効きますよ。抜け毛に怯えるんじゃなく、『今年も冬が来るね』って、ハチ君と季節を共有する時間にしてください」


「……なるほど。掃除が大変だって文句ばっかり言ってましたけど、ハチも頑張って冬の準備をしてたんですね」

山田さんは、ポリ袋の毛を愛おしそうに眺めた。


### 5. 秋の陽だまりの中で

「先生、お疲れ様です。……換毛期のブラッシングって、終わった後の達成感がすごいですよね。犬も一回り小さくなったみたいで」

河野が、診察室の隅で空気清浄機のフィルターを掃除しながら笑った。


「そうだね。この毛が抜けきった頃には、モコモコの冬仕様になった動物たちが、また違った可愛さを見せてくれる。季節の変わり目は、彼らの体が一番忙しい時期なんだ」


窓の外では、秋の陽光がオレンジ色に透き通っている。

その光の中で、丁寧にブラッシングされたハチ君の毛並みが、新しい季節を迎える準備を整えていた。


「さて、次は……。秋の夜長に響く切ない声。認知症の兆候かもしれない『夜鳴き』と、シニア犬の心のケアだ」


僕は、舞い散る毛をコロコロで掃除しながら、次のカルテを開いた。


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