食欲の秋・ダイエットの罠、あるいは美味しい禁断症状
食欲の秋・ダイエットの罠、あるいは美味しい禁断症状
### 1. 「幸せの形」が膨らみすぎて
九月の終わり。朝晩の冷え込みが心地よくなると、動物たちの代謝も上がり、夏場は落ちていた食欲が爆発的に戻ってくる。
「先生……うちの『ボタン』、なんだか最近、歩くたびにお腹の肉が左右に揺れるんです。散歩もすぐ座り込んじゃって」
パグのボタンちゃん(五歳)の飼い主、佐藤さんが連れてきた彼女は、上から見ると「ひょうたん」というより「ナスビ」に近いシルエットになっていた。
「佐藤さん、体重を測ってみましょう。……あ、一ヶ月で$800\text{g}$増えていますね。パグの体格でこの増加は、人間なら数キロ太ったのと同じですよ」
### 2. 「おねだり」という名の最強兵器
「だってお父さんが、自分が梨やさつまいもを食べる時に、キラキラした目で見つめられると負けちゃうんです。『秋だし、ちょっとくらいいいだろう』って……」
パグやフレンチブルドッグのような短頭種は、その表情の豊かさから、飼い主の罪悪感を刺激するのが天才的に上手い。
「佐藤さん、それは『食欲の秋』ではなく、**『おねだりの秋』**に負けているだけです。犬にとって、食べ物をもらえることは『愛されている確認』。でも、その愛が彼らの関節を破壊し、心臓に負担をかけているとしたら、それは本当の愛でしょうか?」
### 3. 関節と呼吸器への「重圧」
「パグのような犬種にとって、肥満は万病の元です」
僕は模型を使いながら説明した。
* **関節への負担:** 支える脚の骨は変わらないのに、乗る荷物(脂肪)だけが増えれば、膝や腰の軟骨はすり減る一方。
* **呼吸の悪化:** 首周りの脂肪が気管を圧迫し、特有の「グーグー」といういびきがさらに激しくなり、熱中症のリスクも上がります。
### 4. 「量」ではなく「回数」と「音」
「今日からダイエット作戦を開始しましょう。でも、急に食事を減らすと彼らもパニックになります。コツは三つです」
1. **一食分を小分けにする:** 量は同じでも、回数を増やすことで『またもらえた!』という満足感を与えます。
2. **キャベツや白菜で『かさ増し』:** 低カロリーな茹で野菜で、胃袋を物理的に満たします。
3. **おねだりには『ブラッシング』:** 食べ物以外のコミュニケーションで気を逸らす。実は、撫でられるだけでも彼らの脳は満足するんです。
### 5. 意志の力
「……わかりました。お父さんにも厳しく言っておきます。ボタンの寿命を、お芋で縮めるわけにはいきませんからね」
佐藤さんは、ボタンちゃんのプニプニした頬を優しく、しかし決意を込めてつねった。
「先生、お疲れ様です。……ダイエットの指導って、犬より飼い主さんのメンタルケアが重要ですね」
河野が、ダイエット用療法食のパンフレットを整理しながら苦笑いした。
「そうだね。食べさせない苦しみは、飼い主さんが一番感じている。でも、身軽になったボタンちゃんが、秋の公園を軽快に走る姿を見れば、その苦労も吹き飛ぶはずだよ」
窓の外では、黄金色のススキが風に揺れていた。
誘惑の多い秋。僕たちの戦いは、お皿の中身から始まっている。
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