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動物病院日誌   作者: じょんどぅ


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敬老の日の誓い、あるいは老いることの美学

敬老の日の誓い、あるいは老いることの美学


### 1. 銀色のマズル

九月の連休。京都の街に少しずつ涼やかな風が吹き抜ける頃、診察室には「ベテラン」たちが集まってくる。

「先生、うちの『コロ』も、ついに十五歳になりました。人間なら七十六歳くらいですよね。最近は一日中寝てばかりで、散歩に誘っても『また明日でいいよ』って顔をするんです」


柴犬のコロ君。かつては病院のドアを壊さんばかりに元気だった彼も、今は白く縁取られた「銀色のマズル」を誇らしげに見せ、ゆっくりとした足取りで体重計に乗る。


### 2. 「老い」は病気ではない

「お母さん、寝てばかりなのは、彼がこの十五年を全力で駆け抜けてきた証拠ですよ。犬にとって、老いは決して悲しい衰退ではありません。それは家族との絆を完成させる、最も穏やかで深い時間なんです」




シニア犬の体には、特有の変化が現れる。

* **核硬化症:** 目が少し青白く見えるが、これは水晶体の密度が増した「成熟」の証。

* **筋肉の減少:** 後ろ足が細くなるが、それは彼が多くの道を歩んできた勲章。

* **聴力の低下:** 嫌な小言が聞こえなくなり、より深い眠りにつけるようになるギフト。


### 3. 「できること」を探す引き算の愛

「先生、何もしてあげられないのが辛いんです。昔みたいにボール遊びもできないし……」

お父さんが、コロ君の細くなった背中を撫でながら呟いた。


「お父さん。若い頃の愛が『足し算』なら、シニア期の愛は『引き算』です。派手な遊びはできなくても、ただ隣で呼吸を合わせる。段差にスロープをつけてあげる。お湯でふやかしたフードの香りを立たせてあげる。そんな小さな『気づき』こそが、今の彼にとって最高の贅沢なんです」




### 4. 敬老の日の「契約」

僕はコロ君の心音を聴いた。少し不整脈はあるが、その鼓動は力強く、家族の声をしっかりと刻んでいる。


「今日、敬老の日にお願いがあります。彼が『老犬』になったことを嘆くのではなく、十五年も一緒にいてくれた奇跡を祝ってあげてください。そして、彼が最期まで『自分らしく』いられるよう、僕たちと一緒にサポートしていく……そんな契約を、改めて結びませんか?」


「……契約、ですね。わかりました。コロ、これからもよろしくな」

お父さんは、力強くコロ君の手(前足)を握った。


### 5. 黄金色の時間

診察を終え、夕暮れの光の中で帰っていく一人と一匹。

その影は、十五年前よりもずっと長く、そして深く重なり合っていた。


「先生、お疲れ様です。……シニアの子って、診ているだけでこちらの心まで丸くなりますね」

河野が、シニア用サプリメントの棚を整えながら言った。


「ああ。彼らは、命の最後をどう美しく締めくくるかを、身をもって教えてくれているんだよ。僕たちは、その舞台の裏方として、最高の照明を当て続けなきゃな」


窓の外では、秋の虫たちが合唱を始めていた。

黄金色の時間は、まだ始まったばかりだ。


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