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動物病院日誌   作者: じょんどぅ


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猫の食欲不振・梅雨篇、あるいは気圧の揺りかご



### 1. どんよりとした待合室


六月下旬、梅雨前線が停滞し、湿った空気が重くのしかかるような日が続いていた。

「先生、うちの『ルナ』が昨日から全然ご飯を食べてくれなくて……。ずっと寝てばかりだし、どこか悪いんじゃないかって心配で」


ベンガルのルナちゃんの飼い主、山下さんは不安げな面持ちだった。診察台の上のルナちゃんは、確かにどこか気だるそうで、普段の鋭い目つきに力が足りない。


### 2. 「気象病」は人間だけではない


「山下さん、実はここ数日、ルナちゃんと同じように食欲不振で来院する猫ちゃんが急増しているんです」


猫の耳(内耳)には気圧の変化を感じ取るセンサーがあり、低気圧が近づくと自律神経が乱れやすくなる。

「猫は気圧が下がると『嵐が来るから体力を温存しよう』という本能が働きます。外が雨だと、獲物も動かないし自分も濡れたくない。だから一日中寝て、消費エネルギーを抑えるために食欲も落ちる……いわば**『低気圧モード』**に入っている可能性があります」


[Image showing the feline inner ear anatomy with a focus on the vestibular system involved in sensing atmospheric pressure changes]


### 3. 「様子見」の境界線


「でも先生、単なる『気だるさ』なのか、本当にどこかが悪いのか、どうやって見分ければいいんですか?」


これが一番難しい。僕はルナちゃんの触診を終え、体温を測りながら説明した。

「チェックポイントは三つです。


1. **おやつは食べるか?**:好きなものなら食べるなら、精神的な気だるさの可能性が高い。

2. **排泄は正常か?**:下痢や嘔吐がある、あるいはおしっこが出ていないなら、即病気です。

3. **呼吸は荒くないか?**:寝ている時、胸が激しく上下しているなら、心臓や肺のトラブルのサインです」


幸い、ルナちゃんには熱もなく、お腹の張りもなかった。

「ルナちゃん、これなら食べられるかな?」

河野が少し温めた高嗜好性のウェットフードを差し出すと、彼女は面倒くさそうに顔を上げ、ゆっくりと完食した。


### 4. 梅雨を乗り切る「五感の刺激」


「病気ではなさそうですが、猫にとって絶食は肝臓への負担になります。梅雨の間は、フードを少しだけ温めて香りを強めてあげてください。それから、除湿機で湿度を 前後に保つこと。空気がカラッとするだけで、猫の活動スイッチが入ることも多いんですよ」


「湿度……。猫にとっても『不快指数』があるんですね」

山下さんは、安心したようにルナちゃんをキャリーへ戻した。


### 5. 雨上がりの予感


「先生、お疲れ様です。……猫って、本当に気候と連動して生きてるんですね。なんだか風向計みたいです」

河野が、除湿機に溜まった水を捨てながら言った。


「そうだね。僕たち人間が文明に囲まれて忘れてしまった感覚を、彼らは今も持ち続けている。その繊細さを理解してあげることが、猫との暮らしの醍醐味だよ」


窓の外では、厚い雲の隙間から、一筋の光が差し始めていた。

気圧が上がれば、また元気な鳴き声が診察室に響くだろう。


「さて、次は……いよいよ七月。気温が跳ね上がる前の、あの『油断』が生む救急搬送だ」


僕は、緊急用の冷却セットを使いやすい場所に配置した。


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