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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
終章 夢のゆくすえ
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タイムスリップ?

 見慣れない町並みだった。

 俺の記憶だと確か、今の季節は春。996年上季で桜(3月くらい)だった。

 日付は覚えていない。


 これまで見た都市は工業地帯を彷彿とさせる町並みが多かったが、ここは、高層ビルが建ち並ぶ近未来都市といった面持ちだ。

 夜中というほどではないらしい。

 


 俺ともう一人のユーキとミシェル、クリスは、ミズホの国の旗が靡く、小さなビル(入り口の見えない箱かコンテナ?)の前にいた。

 大きな通りがその後ろにあって、道路標識には『北大路方面↑ ロクハラ議事堂→』とライトアップされた案内板があった。


「どうなってるんだ?」


 俺たち4人は、もう一人のユーキが遠隔分子分解の兵器で消し去ってしまったはずの、ロクハラ地区にいた。


 俺は以前この町に一人で来たことがあった。

 まだミシェルの前世の記憶が戻る前のことだ。


 議事堂に行ってみたくもあるが、おそらく郊外だったと思われる、あの店に行ってみたい。


 アバドンと呼ばれ、気味悪がられていた巨大クレーターと同じ場所ならば、あの『こぎつね』という店もあるはずだ。


 ただ、時間軸がいつだろう?


 近くの店にでも行けば、新聞くらいあるだろうか。


「おい、片割れ」


「何だ?」


 自分に話しかけられるのは気持ちが悪いもんだ。

 もう一人の俺が声をかけてきた。


「近くの店にでも行って、『今日は何年の何月何日か』と聞いてみてくれ」


「お前が行けばいいだろ?」


 ちょっと意地悪を言ってみる。


「そんなこと言わないで行ってあげたら? 病み上がりで辛そうだよ?」


 ミシェルが奴の肩を持つので更に俺は意固地になる。


「へいへい。陛下の仰せのままに!」


 クリスは苦笑していた。

 感情面としてはこんな状態だが、深層の思考ではどれが最善が大体わかっていた。


 少し歩くとロータリーのようなものがあって、その中央に時計塔のようなものがあった。

 現世で駅のロータリーの中央に、日時を知らせる電光掲示板があったりするような、そんな感じだろうか。


 時計塔の文字盤のあたりから、ホログラムのようなもので、日付と天気予報などが表示されていた。


『28日990年金柑(きんかん) 17時36分 本日の天気は曇り時々雷雨』


「なんだ、店に行く手前省け……は? 990年?!」


「っていうか、人がいないのは何故?」


 俺が呟くと、ミシェルが続けざまに言った。


「いや、いないわけじゃなさそうよ」

 向かい側から歩いてくる半獣の女性が見えた。

 服装も、よく未来人のイメージで描かれるような、ツルッとした体のラインがよくわかるスーツだった。

 ただ、ベルトやフード付きのベストのようなもので装飾され、頭にはヘッドギアのようなベッドマウントディスプレイを身につけていた。

 女性は角で曲がって行って姿を消した。


 990年というのに金髪緑眼の双子は特に疑問を持っていない。

 更に言えば金柑とは現世でいうところの8月終わりくらいだ。




「待て。6年前のあの日じゃないか。消失した世界ということか? それともこれから消失するのか?」


 少し歩くと、未来都市っぽいビル群の脇の街路樹のあたりに、場違いなリアカーの屋台があった。

 

 それも案外客の入りがいい。


「屋台? 何の店だ?」


 横付けしたリアカーの側面がカウンターのようになっていて、そこだけじゃなく道端にも椅子と折り畳みテーブルを置いてある。


 カウンターは満席で、テーブルも一杯。


 ラーメンだった。

 俺は気になってリアカーのカウンターを覗いてみた。


「おぅ。らっしゃい。今席用意するからよぅ」


 何処かで聞いたことのある独特なイントネーションの声だった。


 腰の曲がった、ちょっとヨボついた爺さんだった。

 前に会ったときより随分老け込んでいる。


 以前ロクハラに訪れたとき、アバドンと呼ばれたクレーターの巨大な外輪山の麓にあった、『こぎつね』で出会った暴漢のおっさんだった。

 初めはマスターかとも思ったが、急に襲われて、返り討ちにしたのだ。


「あんた…、以前『こぎつね』で俺を襲ってきた…」

「あー。あんときゃ悪かったなぃ。あんたから言われた、『バターラム旨かった』ってのが頭に残っててよぅ。もぅあれから悪ぃことからは足ぃ洗ったんだ。旨い酒の混ぜ方やら何か色々やってみてぇ」


 本当に改心したようで、あの時のような胡散臭さは抜けて、皺は多いが人の良さそうな面構えになっていた。


「ラーメンおいしそー♪」

「私も食べたいかも…です」

「戴くか」

 よだれを垂らしそうな顔のミシェルがそう言うと、クリスも呟いて、意外にももう一人の俺も乗り気だ。


「財布あったっけ?」

「一応持ってるよ」


「おぅおぅ、あんたからはいらねぇよぅ。それよりあんたら双子同士のカップルけぇ? おんなじ顔が二組ってよぉ」


「あー……まぁ、そんなとこだ」


 もう一人の俺が言った。


「カッ、カッ、まぁ、そんな…感じ…?」


 ミシェルが顔を真っ赤にして変な声を上げている。

 俺も何だか気まずくて、目を合わせられなかった。


「あぃ、ラーメン4丁とバターラムおまけぇ」


「何でラーメン何だ?」

「俺ぁ実はアバドン出来る前の記憶がねぇんだぁ。けどよぉ、何かラーメンの作り方は記憶にあってぇ、作って仲間に食わしたらうめぇうめぇって」

「なるほど。それで店出したわけか」


「急にアバドン消えて、代わりにでけぇ町出来て、リアカーひいて入ってきたら人集まってきたからよぉ。『ラーメン食うか?』って開いたらこんなんよ」


 物珍しさに人が集まったわけか。


「確かに旨いな。バターラムもやっぱり旨い」



「……誰も殺しては無かったわけか」

「良かったです。これでもう、自分を責める必要はないですね」


 クリスがもう一人の俺の肩に手を置いた。

 

 実はこの変なイントネーションの爺さん、後で鍋島弘茂(ひろしげ)という名前だということが、老紳士、司馬龍人の話でわかった。


 ロクハラは無事に元の場所に戻っており、6年間の神隠し状態だったということで、現地の人たちも駐屯中だった兵たちも、大きな混乱もなく徐々に受け入れられていった。


 俺の父親である司馬龍人は、現世では植物状態のままらしいが、俺たちが転移して間もなく目を覚まし、地震での被災からの復興の指揮をとったという。



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