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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第12章 遅れて来たチート
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5.選手交代

 俺は空を仰いでいた。

 天蓋のあるあのドームから、アルたちが設置した大規模転送装置で移動したことは理解出来ている。


 先ほどまでは、脳の覚醒の影響で赤外線、紫外線、周囲の電波の流れまで視覚情報として見えていたのが、今は見えない。


 ミシェルの予想外の行動に気を取られている隙に奴の殴打を食らったのがまずかった。

 脳に腫瘍でもあったかな。

 頭が割れそうだ。

 鼻血が流れ続けているのがわかる。


 おそらく俺は死ぬ。

 選手交代だ。


 衝動的にロクハラもろとも吹き飛ばしてしまったことを後悔した。

 あらゆる残留思念を読み取れるこの手が、握手の時ナベシマのあらゆる悪事を読み取ったのが凶事の始まりかもしれない。


 とことん運が無かったのだ。

 どんな世界にも理不尽はある。

 たまたま転移の時のショックで記憶があやふやだった時、スラム階の裏路地のような場所に転移したのが最初の不運。


 連れ去られ売られた家で、あの時俺を辱しめたのがナベシマだったと分かったときは怒りを覚えた。


 それよりも父親の暗殺を企て実行したのもナベシマだと分かったことが「よし殺そう」と思ってしまった理由だった。

 

 幸か不幸か、肉体を失ったまま生きていることがわかったナベシマに、痛覚知覚が備わった頑丈な肉体を与えることにした。

 楽に死なせてしまったことを悔やみ、俺も含め奴に苦しめられた者たちの無念を晴らそうという、陳腐な計画だ。


 そんなくだらない計画も、もう無理そうだ。


 ぼんやり空を眺めていると、金色の髪の女性が二人、近くで叫んでいた。


 もうあまり聞こえない。


 ぼんやり緑色の髪のイーロンの声が聴こえる。


「君は十分頑張ったよ。僕はもう大丈夫だから、幸せになりな」



 遠ざかる意識の中、死んだ友の声が聴こえた。


 ◇ ◇ ◇


「お前がDr.ディアフルスか。通訳のイーロンから話は聞いている。その趣味の悪いゴーグルは外せんのか」


 狐顔の嫌みな男が言った。


「バルカス副司令、これは超近眼用なので外すことが出来ません。大変申し訳ない」


「ふん」


 Dr.ディアフルスと呼ばれた、ゴーグルを付けた青年が答えた。



「うまく入れそうで良かった。俺たちの奴隷解放の悲願を達成するためには、軍部にうまく入り込むのが一番の近道だってのは、イーロンの発案だったよね」


 赤髪のサーシャがDr.ディアフルスに耳打ちした。


「君の妹と弟のイリナちゃんとリグ坊も無事見つかったから、今さら軍に入るのは気は進まないけどな」


 Dr.ディアフルスは新型兵器の売り込みで財を成し、その界隈ではそれなりに有名になっていた。


 以前読んだことのある書籍からの知識を更に発展させた理論を論文で発表し、書籍を幾つか発行した。


 前政権崩壊に乗じ、コンラッド・ナベシマがクーデターが起こしから数ヶ月経っていた。


 夕方のことだ。


 何処か外国の大会社との取引に、通訳として呼ばれていたイーロンが、借りている小さな家に帰ってきた。


 大怪我をしていた。


「イーロン! 何があったんだ?!」


「言葉が管轄外で、ありゃ無理だよ。知らない言葉は通訳出来ないって言ったら、トップが激怒してね。使えないから別のやつ呼べって」


 たったそれだけで撃たれたということだった。


「はぁ? 知らない言語訳せないの当たり前だろ!? そのトップ何て奴なんだ?」


「肥え太った軍のトップとだけしか…」


「わかった。もう喋るな!」


 Dr.ディアフルスは赤く染まったイーロンの腹部をめくる。


「無理だ……手遅れだ」


 サーシャが暗い顔をした。


 奥の部屋からまだ若いイリナとリグーリアが出てきた。

「お前たちは出てくるな!」


 普段は大人しいサーシャが声を荒げた。


 イーロンの死後、復讐を誓った俺たちは、色んな肩書きのもと総出で軍部に潜り込み、野心家のセリム・クラバロウという鳥人を味方に付けることに成功した。


 サーシャとリグーリアは志願兵として、Dr.ディアフルスはコンラッド・ナベシマに対し、よく思っていないというキンブリー・クリス・ハートやリゼット・ラ・カンパネルラなど、力のある政治家たちを後ろ楯として、発言力を上げていった。

 イリナは家に残って留守を守った。


 ある日、ターバンを巻いた男が訪ねてきた。


「アロウ。わたし、あなたのともだち、しなせた。ごめん」


「はい?」


 イリナとアルの最初の会話だった。


◇ ◇ ◇


 下らない理由でイーロンを失い、その後、訓練中の事故でサーシャは失明した。

 リグーリアはその点要領がよく、トントン拍子で昇進した。


 これまでの苦労を思い返しながら、国王ユーキの意識は遠く遠くなっていく。

 最後に浮かんだのは金色の髪の女性ラフィ、溪村ラファエラ・クリスティーナの心配そうな顔だった。

 その直後、テレビのスイッチを切るかのように、あっさりとこと切れた。


◇ ◇ ◇


「ぐふふ。よく見ると同じ顔ではないか。クローンか?」


 ステルス迷彩を使って林の木々に隠れながら、人型のナベシマが近づいてきているのがわかる。


「答える価値もない」


 胸部に包帯のようなものを巻いたユーキは、何の感情もないような、淡々とした様子で言った。

 その傍にはミシェルが少し下がって身構えていた。


「何故かお前が次に何をするかわかる」


 木が倒れてきてユーキを襲う。

 ユーキは避けようとしない。


「わしも混ぜてくれ!」


 声と同時に倒れてきた木を拳で弾き飛ばしたのは自前のトライクで駆け付けたサルファーだった。


 周囲の電波の流れまで見えるユーキは、その隙間に見える次の出来事を読んで、何も無いところに短い槍を向けた。


 サルファーがステルス迷彩を見破って殴り飛ばしたナベシマが、朽ちた木を何本もへし折りながら岩にぶつかり、身を翻して着地して方向を変え、ジャンプしてユーキの方へ跳んだ。


 そこを砂塵嵐となったもう一体のナベシマが吹き抜ける。


 それに煽られた人型のナベシマが、若干流され付き出されていた短い槍に突き刺さった。

 顔面に槍が刺さり、悶絶するナベシマ。


「ぎゃあー!! いてぇ!」


 見苦しく叫んだ。


 砂鉄の砂塵に巻き込まれて、見覚えのある人影が飛んでいった。

 かなりの距離を飛ばされてきたらしい、ユーキの母親真樹が宙を舞っていた。


「きゃ! た、たすけ…」


 音速を超えるジェットバイクが瞬く間に駆け抜け、木の幹にぶつかりかけた真樹を無事拾い去る。


 全身黒のスウェットにヘルメット。

「あ、有難う……ございます」


 小脇に抱えられ、窮地を救われた真樹は固まりながらお礼を言う。


「いいさ。それより待たせたな」

「えっ?」


 ヘルメットを取ったリュード。

 真樹は現世で植物状態になっていたはずのユーキの父親の登場に、驚きのあまり声が出なかった。



 上空からはリグーリア率いる大兵団。

 随分蹴散らされて、満身創痍の兵団だが、威圧感は半端ない。


 そこへもう一体、地面を割って出てきた巨大な悪魔が()えた。


「はぁ……こいつらじゃ相手にならんわ」


 巨大な悪魔は手に握った何かをユーキの近くに放る。


「ヨースケ! 御条先生! しっかり! ミシェル頼む!」


「わかった!」


 ヘッドギアを操作し、誰かに応援を頼むミシェル。


「アルさんたちがすぐに来れる距離にいるはずだ。息はあるから頼もう」


 ナベシマ三体を前に、ユーキは冷静だった。


 顔面に槍を突き刺された人型は人造人間のため当然血を流すこともなく、槍を引き抜く。


 槍は捨て去られ、顔面に空いていた風穴はすぐに塞がった。



「ま、まきっぺー! はぁ、はぁ……」


 桐葉が行きを切らしながら、走って現れた。

 飛ばされた真樹を追って必死に走ってきたようだ。


「って、しおりん倒れてるし!」


 ぜぇぜぇ言いながら、イオリとヨースケの元に駆け寄った。

 ミシェルの無事な顔を見てホッとしてもいる様子だ。


「おらー!」


 サルファーの渾身の拳を受け、魔神型のナベシマの顔の部分の形が変形しながら真後ろに数十メートルは吹き飛んだ。

 更にサルファーの仲間たちがマシンガンやショットガンで追い討ちをかける。


 魔神型が反撃で放ったレールガンがサルファーのマシンを貫いた。

 マシンは一瞬にして大破、サルファーは地面に放り出された。


 ジェットバイクは舞い上がる砂鉄塵によって墜落、真樹を庇いながらリュードが地面を転がった。


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