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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第12章 遅れて来たチート
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3.大転移 1

 ぼんやりした視界がちょっとずつ晴れていく。

 周りは背の低い朽木の林。空を見上げると遥か高いところに引き伸ばされたわたがしのような雲が、青白くぼんやりと飛んでいた。


 鬱蒼と繁しげった緑の草は、立ち尽くす黒髪の男の腰辺りまであった。

 紺色のトップスに、包帯のような布が巻かれている。

 黒のスラックスとスウェットの中間のようなズボンには、いくつかポケットが付いていて、腰には幅広の革ベルト。

 カラビナやリングで色々なものが取り付けられていたが、それも千切れて小さなポシェットが1つ、かろうじて繋がっているようなボロボロ具合だ。


 前方には藁葺屋根の簡素な作りの小屋がいくつか点在した。


 丸太をいくつも組み合わせて造られた物見やぐらが頭一つ高く出ていて、非常時に鳴らすのであろう鐘が設置されていた。


 男はふらふらと歩き始める。

 少し離れたところに杖が落ちていたのでそれを拾い、(すが)るようにして歩いていく。

 ちぎれ雲が端から徐々に赤みを帯びている。

 遠くで鶏が鳴いたような声が聞こえ、木造の小屋の近くに来たところで、男は倒れ込んだ。


 藁葺きの屋根は一度黒い闇に飲まれたような空間の歪みに包まれた。

 しばらくしてから、その家から一人の女性が顔を覗かせた。


 後ろで結ばれた長い金髪を靡かせた、深緑の瞳が印象的な可愛らしい女性だった。


 ベージュが基調となったケープのような上着を着ている。

 額には細い帯状の布を巻いていた。


「あら? 大変! 誰か倒れてるわ」


 女性は倒れた男に気づいて駆け寄った。


「ユーキ君じゃない!」

「王妃様! 危ないでありますよ!」


 女性の後からインコ顔の付き人が走ってくる。

 男は薄っすらと目を開いた。


「ミシェル?」

「ふふっ。ラファエラの方よ」

「ラファエラ……あぁ、クリスか? あれ? あー……ここは?」

「私にもわからないわ。今来たばかりだもの」


 若干かみ合っていない会話。


「にゃ、にゃ、にゃ、あ゛あ゛あ゛ぁ」


 小刻みな猫の声。

 ユーキが見ると、カルマが空中を見ながら威嚇なのか何なのか、口を振るわせながら声を発していた。


 かと思えば、慌てて走ってこちらへ向かってくる。


「おーい。大丈夫か? おめぇら」


 大きな3輪が横向きになった飛行式のトライクに跨った、ツギハギ模様のヘルメットをかぶったサングラスの大柄な男だった。

 露出した肩から背中にかけて、黒い毛皮。太い二の腕の部分も厚い毛皮に覆われていた。


「サルファー!」

「カルマ帝国の王じゃなく、ヨースケのダチの方だな?」

 

 決定的な違いがあるのか、すぐに見分けたサルファー。


「あー。まぁそんな感じであってる」

「陛下! 自分、逃げたわけではないでありますよ!」


 ポロリはまだユーキが2人いる状況を理解していない様子だ。

「えっと、何か会話がかみ合ってませんよね」


 ようやくそのあたりに気づいたクリス。

 ユーキはそんなクリスの後ろで小さな何かが動いたのを感じとった。

 音でも視覚ではなく、別の感覚だった。


《後ろ危ないよ!》


「エルブン人形! うごっ、しゃ、喋ってる?!」


 感情としては驚きの感情が働くものの、何だか仕組みがいくつか頭に浮かぶユーキ。

 ポロリは人形を見て目を輝かせていた。


「か、可愛いであります!」


「かなーり広範囲で戦闘状態だ。わしはあっちの応援に行ってくらぁ」


 サルファーは飛んでいってしまった。


◇ ◇ ◇


 藁葺き屋根の小屋の集落から少し離れた岩場で、ヨースケとイオリがぞろぞろと現われたコウモリのような翼を持つ巨大な悪魔のような機械と交戦中だった。


「迷宮から出たかと思えば何だよこの化け物どもは!」

「喋るより動け! 馬鹿」


 文句を言い合いながら、背中合わせの2人は息を切らしていた。

 ヨースケは改造型二丁圧縮空気銃。よく見ると背中の機械に配線が繋がっていて、空気ではなく別の何かを発射していた。


 大型なわりに異様に動きが早い悪魔たち。


「この装甲何で出来てんだよ!」

「その銃じゃなく違うのも使えばいいんだ!」


 イオリはアルに支給された短い槍状の武器を鉾のようにして2、3体屠っていた。

 正確にはイメージ通りの形に槍状の武器が変化し、短槍から三国志の武将が扱ったような青龍刀のような鉾となっていた。


「俺は銃以外使ったことねーんだよ! ライフルくらい持ってくればよかったなぁ」


 そう言ってライフルを構えるような動きをすると、ヨースケの両手の銃と短槍が繋がり、銃口が3つついたショットガンに姿を変えた。


「はぁ? 何だこれ?」


 言ってる傍から悪魔の大きな拳がヨースケを襲う。


「ええい! ままよ!」


 ショットガンをぶっ放したヨースケは茫然とした。

 上半身が吹っ飛び倒れる巨大な悪魔。


 勝機を掴んだ手ごたえを感じた2人は、次々と悪魔どもを蹴散らしていった。


 しかし、一味違うやつが突然目の前に現われる。

 明らかに今までいなかった者が瞬間移動でもしてきたかのような出現の仕方だった。

 今までの悪魔より一回り大きいやつだった。


「どうなっておるのだ? 急に外に放り出された。小賢しい総帥どのが大規模転送装置でも使ったか?」


「よく喋るのが出て来たぞ! あいつがボスってことか?」

「ヨースケ、さっさと片付けていこう」

「あいよ!」

「何じゃお前らは? わしを片づけるだと? 身の程を知るがいいわ!」


 魔神型のナベシマとは知らないヨースケとイオリ。

 第二ラウンドが始まった。


◇ ◇ ◇


 外に跳ばされたのは、魔神型のナベシマだけではなかった。

 リト、ソフィア、国王ユーキ、ミシェル、アル、イリナもまた全員塔の外にいた。

 大型ドローンのアメノトリも同様に移動し、人馬型、粘体型、小悪魔型、球状、人型もそれぞれが跳ばされていた。


 急ごしらえの転移装置の設置だったため、場所の指定が出来なかったのが難点だった。


 空中にいた司馬龍人だけは塔に取り残されてしまい、茫然としていた。


 ポロリ、クリス、ユーキの元にサルファーが現われ、飛び去った後、翼がもげた小悪魔型のナベシマが少し遅れて現れた。

 というより降ってきた。

 一瞬遅れてミシェルも現われ、ちょっとずつ時間差で転移しているのが見て取れた。

 いや、小悪魔型は転移じゃなくかなり離れた塔の方から降ってきた感じだ。


 ミシェルは空中に出現し、ユーキの上に落ちてくる。


 少しずつ意識がハッキリしてきていたユーキはミシェルをキャッチ。

「あれ? クリス? ユーキ君? これ、どんな状況?」


 誰かが返事する暇も無く、小悪魔型のナベシマがミシェルとユーキの首を掴んできた。


「面倒な小細工をしおって! 握りつぶしてくれるわ!」


 あまりに不意だったため、簡単に隙を突かれてしまった。


「うわーーーー!!」


 ポロリが手に持った短い槍でナベシマに突進してきた。

 見事突くことに成功したが、尻尾で弾き飛ばされてしまった。


「ナイス」


 一瞬の隙を突いて、身を縮めたミシェルの両足蹴りと、刺さった槍を更に押し込んだユーキの攻撃が功を奏し、ナベシマの全身を電流のようなものが包んだ。

 力なく崩れ落ちる小悪魔型のナベシマ。

 刺さった箇所には、どうやらコンピュータのCPUに当たるようなものがあったらしく、完全に機能停止したようだった。


◇ ◇ ◇


 雪を冠した切り立った山の、渓谷部分に円形のガラス状の建造物があり、その中央からは大量の水が流れ落ち、巨大な滝を形成している。

 どのような技術で作られたのか、滝の上を太鼓橋のように構造物が囲み、そのまま円を描くような形で滝の下にも構造物が続いている。


 正面から見ると、円盤の中央から滝が流れ落ちているような情景だった。

 その滝壺の岩の1つに、ソフィアは漂着していた。

 水面部分に転移してしまったようで、岩にしがみついてなんとかよじ登った感じだった。


 運の悪いことに、水面から追うようにして出て来たのは、たくさんの粘体だった。

 半透明の中途半端な人型で、顔はあるような無いような、腕だけは気持ち悪いくらい何本も出てきて、形も変幻自在なのだということがよくわかる。


 粘体が付いているような気がするのか、濡れ髪が額に貼り付くのを、ソフィアは不快そうに何度も横に払う。


「ぐふふふ…お前はキンブリーの娘だな。何故ここにいるかは知らんが、探す手間が省けたわい」


 どの粘体が喋ったのか、水の中でドロドロした顔が更に粘着質な笑みをこぼすのが見えた。


「まさか……コンラッド・ナベシマ?」


 ソフィアの顔が青ざめた。

 近くに守ってくれるはずのリトの姿もない。

 ソフィアは岩場に流れ着いていた一本の流木を拾い上げた。


 足場にしている岩の近くにはこれと言って渡れそうな足場が無い。

 水分をたっぷり含んでジェル状になった粘体が、ペタペタじりじりと岩の上に上がってきた。


「いや! 来ないで!」


 闇雲に流木を振り回すソフィア。

 流木は粘体に何度も当たるが、さしてダメージを与えているようには見えない。


「ぐへへへ……嘗め回しながら体内に取り込んでやろうではないか」


 気持ち悪い笑い声と共に、醜い顔が粘体上部に盛り上がった。


「リトさん! 助けて!」


 振り回した流木が頭部に当たり、一度は顔が消し飛ぶが、下卑た笑い声と共にまた頭が盛り上がって形成された。


「ぐふふ、ぶべべべべっ!!」


 ナベシマの笑い声が途中から絶叫に変わる。

 空からの不意打ちの雷撃が、巧妙に隠された粘体の核を捉えたのだ。


 自らの上方を通った何かの影を感じ、ソフィアは空を仰ぐ。


 そこにはアメノトリから垂らされたワイヤーに足をかけ、電撃を浴びせることが出来るらしい銃器を構えたリトの姿があった。


 リトは腰に付けたホルスターのような革筒に銃器を押し込み、手を伸ばす。


「ソフィアさん! オイラの手に掴まるんだ!」


 言われるがまま、両手を伸ばすソフィア。


 アメノトリの低空飛行に合わせ、リトは両手でソフィアを抱き止めると、明け方の空へと連れ去った。


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