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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第12章 遅れて来たチート
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2.また空島へ

 夜の闇の中、満天の星空だけが光輝いている。

 遥か高みの片隅に、(いびつ)な形の豆粒のような月が浮かんでいた。


「わしはここは、やはり火星という星じゃろうと思っておるのじゃよ」

「カセイ……ですか」


 小型飛空艇の操縦をしながら、リゼットは竜胆翁(りんどうおう)の言った名前を反芻(はんすう)していた。


「うむ。わしらが住んでおったのは地球と言ってな。太陽を中心として3番目の星なのじゃ。そのもう一つ外側の星が、火星じゃ」


「なるほど。しかし、その仮説の根拠はどこにあるのでしょうか」


「それじゃがな、まず一日が約25時間。更にこの世界での一年は688日じゃな。確か地球で言われておったのは火星が太陽の周りを一周するのにかかる日数は687日じゃったと、わしは記憶しておる。天文物理学の後輩山田が言うておった」


「カセイとは呼ばれていませんが、この世界全体のことを指して、マグメルと呼んでいます」

「マグメル……何じゃろうなぁ。聞いたことがあるような……」


 竜胆翁は頭を掻きながら首を傾げていた。


 砂のように崩れ去ったサルフィムを発って半刻ほど、間もなくカンパネルラ学院大学に到着しようとしていた。

 この小型飛空挺は垂直離着陸が可能な代物のようで、広い中庭の一角に着陸した。

 キャンパスに着いてすぐ、慌ただしく寮長や他の職員が駆けまわっているのが目にとまる。


「何やら騒がしいですが、何かありましたか?」

「あれじゃないかのう? 要塞が粉砕されて、わしらが死んだと思われとるんじゃないか?」

 まだ副操縦席に座っているリゼットが近くを通りかかった寮長に声をかけ、横では竜胆翁がブツブツ言っている。


「あぁ、理事長。侵入者があった形跡も無いのにソフィア様の姿が何処にもないのです。クリス・ハート家の御息女と知った者による誘拐事件なのではないかと警察にも連絡し、捜索を開始しようとしております」


「あぁ……何てこと……。もしや……、ナベシマの手によるものかもしれませんね」

 目眩(めまい)に額を押さえるリゼット。

 リゼットと竜胆翁の二人がサルフィムに向かった際に後ろに隠れて乗っていた等、誰も思ってもいなかった。


「ナベシマは空中の巨大なあれにいるんじゃな?」

「おそらく……」


 竜胆翁は操縦席から降りてきて、天井が出来たように見える遠い空を見上げた。


「わしらのことを心配しとるもんがおらんのー…老い先短い年寄りよりも、若い方が心配なのはわかるが」


「そんな拗ねてる場合じゃないですよ!」


 肩までの髪のふんわりした可愛い系の女性が声をかけてきた。

「お? 桐葉ちゃんじゃないか。2人とも怪我はもういいのかの?」


「元々あまり深くはありませんでしたから、もう大丈夫です。それより私たちもその飛空挺に乗せてもらえませんか?」

 桐葉の横にいた、もう一人の女性が聞いてきた。


「それはいいのですが、マキさんとキリハさんでしたね? あまりに未知で危険ですよ?」


「無茶されてる御老体2人に言われたくありませんよ。隠してらっしゃるようですが、竜胆翁は足あたりを痛めてらっしゃいますよね?」


「うっ、何でわかるんじゃ? マキちゃん」

「足と背中あたりじゃないですか?」


 バツの悪そうな竜胆翁。更に桐葉もジロりと見て言った。


「飛空艇に乗り込む時、急いで私を引っ張り上げようとして、痛めてらっしゃいましたね」


 リゼットが言うと、


「気づいておったのか」


 竜胆翁は渋い顔をした。


「せんせー、乗って下さい」

 遠くから幾人かの子ども達が車椅子を押しながら近づいて来ていた。


「あら、ありがとう。ニーナにトリス、それにキースとフレイルも。何故車椅子が必要だと?」

「要塞が崩れた時、きっと無事でいらっしゃると思ったの」

「そこを信じた時、もし崩れる直前に急いで乗り物に乗ったら、車椅子を載せる余裕がないかもしれないって」

「フレイルが言ったんです」


 ニーナとトリス、キースが言葉のバトンを繋ぐような感じで言った。

 ニーナとトリスは7、8歳くらいの女の子。キースは13歳くらいの男の子で、恥ずかしそうにキースの後ろに隠れたフレイルは女の子のような容姿だが、10歳くらいの男の子だった。


「凄いのう」


 老体2人は目を見張った。


 真樹と桐葉がリゼットが降りるのを手伝い、車椅子に乗せた。

 小さい爺さんだと持ち手にぶら下がってしまうので、子ども達が車椅子を押した。


「では飛空挺をお借りします」

 真樹が改めて言った。


「言うても聞かんのじゃろ?」

「よく分かってらっしゃる♪」


 桐葉は笑顔で小さい爺さんに答えた。


「操縦は出来るの?」


「ええ。これでもセスナ、重機、船舶、気球、色々乗ってます」

「えっ。なんで?」


 リゼットが心配そうに尋ねると、サラッと桐葉がいくつも乗り物名を出してきて、今度は真樹が驚いた顔になった。


「ほら、昔テレビに出てた時、番組で色々資格取るやつやったじゃない」

「あー……、あれ、やらせじゃなかったの?」


 人気モデルだった頃、資格を短期間で取りまくるのに挑戦する番組に出演していた際、本当に取っていたのが今役に立とうとしていた。


◇ ◇ ◇


 木の陰に隠れていたセキセイインコの顔の目がショボショボしている。

 岩の出っ張りに腰かけていたはずが、全く違う場所にいる。

 そのクリクリした可愛い目が見たものは、短い草が点々と生えた地面を這うアリのような小さな虫だった。

 座っていたつもりが地面に這いつくばるような状態で目が覚めたものの、暗くて視界はぼんやりしていた。


「こういうときはこれ! であります」


 腰のポシェットから筒状のものを取り出し、上に掲げる。


「ミズホ軍…じゃなかったカルマ軍標準装備、ジェイド! ただの眼鏡でありますが」


 目の前にかざすと筒が割れ、帯状のリング型グラスになった。

 頭からスポッとかけると、ちょうど目のところに目線が入ったような外観になる。


 暗視効果を得たインコの姿の兵士ポロリ・ポルホロンは、至近距離現れたコウモリのような翼の自分より少し背の低い、二足歩行の機械の化け物を見て悲鳴を上げた。


「ぎゃー!!」


 ひっくり返りそうになりながら木に上るポロリ。


「何じゃ? この弱そうな鳥の小僧は」


「しゃ、喋ったー!」


 泣きそうになりながら上った木から滑り落ちる。


「やかましいわ」


 化け物はポロリを引き裂こうと鈎爪を振り下ろした。


「シャーッ!」


 何処にいたのか、カルマが化け物の腕に跳び掛かり、掴まったまま後ろ足で腕を引っ掻きまくった。


「鬱陶しいわ!」


 投げ飛ばされたカルマを、ポロリが受け止める。


 ハッと我に返ったポロリは、隠してあった卵型の装置に乗り込みカルマを下ろす。


 何となくの勘でそれっぽいボタンを押すと、元々帰還するよう設定されていたのですぐさま転移を開始した。


 装置全体が闇に染み込むようにブラックアウト。


 跳んだ先には金色の長い髪をポニーテールに結んだクリスが旅支度を整えて待ち構えていた。

 探検家のような服装に、焦げ茶色のワークキャップ。

 目的地は上空と言うことで、防寒具としてベージュに花柄の縁取りが施されたコートを羽織っていた

「あ! 陛下を置いてきてしまったであります!」

「好都合です。私が連れ戻します!」


 疲れた顔のイモリ顔の高官の肩に、赤い髪の男が手置いた。


「サーシャか。クリス様はもっと、引っ込み思案な方だと聞いていたんだが」


「うん。あれくらいがいいのかもしれないね。ロクハラを消し去って以来、ユーキの行動は自虐的なところが増えた。軍の全権を掌握しつつも、俺たちも遠ざけ、横暴な言動と恐怖政治であえて兵の反感を買おうとしている気がする。何でも一人でやろうとし過ぎているよ」


 クリスを正式な正室としたあと、国王ユーキからは警備を固めろという指令が下っていた。

 未だ明確な姿を現さない闇の組織からの襲撃に備えるようにとの指示だ。


 今朝は妙に落ち着いた様子の国王に、クリスは違和感を感じていた。

 時折空を眺めて、無意識なのだろう、ため息が漏れていた。


「そして昼下がり、突然上空に現れた巨大な人工物。空に浮いているこの要塞より遥かに高い場所に現れたけれど、ユーキ君はあれが出てくるのが分かっていたとしか考えられないわ」


 半ば強引にポロリのいる卵型の装置に乗りこむクリス。


「えっと……あなた、名前は?」

「ポロリ・ポルホロン三等兵であります!」

「にゃーん」

「あ、にゃーん。ダメでありますよ!」

「あら、カルマちゃん。カンパネルラ学院に残ってるとばかり思ってたのに、一体どうしてここに?」


 ぴょんとクリスの膝に乗るカルマ。

 そのまま喉をゴロゴロ鳴らしながらスリスリしている。


「『にゃーん』とばかり思っていたであります! 名前はカルマというのでありますね。忘れないようにするであります。ところで、王妃様は何故この生き物のことをご存じなのでありますか?」


「ユーキ君の飼い猫なのです」

「そうだったのでありますか! 猫とは何でありますか?」

「えっと……」


 獣人はいても小さな四足動物がいないこの世界においては、説明が難しかった。

 これまでアルがラクダに乗っていたが、実はちょっと特殊な事情がある例外で、少なくともこの国には動物は獣人、半獣、地を這う虫と小鳥くらいしかいなかった。

 地中は未知の世界ではあるが、ポロリが知るところではない。


「リグーリア、軍動かせるかい? 一番頑なだったセリムの洗脳も解けてるはずだ。全軍動かせる。そういうサーシャは部屋から出て動いたりして大丈夫なのか?」

「もう頭部の怪我はよくなっているんだ。ヴェルさんにももう眼帯外していいと言われてるんだけど、目で見るより色々と見えて楽しくなってきてるから、このままでもいいかなぁとか思ってるよ」


 あっけらかんと笑うサーシャ。

 サーシャの額の上の部分には、小さなコブのようなものがある。

 第三の目とも言われる爬虫類によくある器官の1つだ。

 目を怪我している間に機能が開花したらしく、人間と同等の視覚に頼らない生活に利便性を得たということだろう。


「リグーリア! 後は任せましたよ!」

「はっ、承知いたしました! あなた様にもしものことがあれば、私の首は胴と生き別れることとなります。無理をなさりませんようお願い申し上げます」

「死に別れの間違いだよね?」


 サーシャが笑いながら言う。

 卵型の装置が再びブラックアウトしていく中、リグーリアが呟いた。


「ここだけの話、首を()ねられたはずの者は全て生きている。刎ねられた後巧妙な死後体験までしたあと、目を覚ますと首も元通りになっていて、それまでの陰口体質も無くなり真面目にこなすように変貌しているのだ」

「俺が知ってるロクハラの件以前のユーキらしいね」

「さ、全軍あの更に高みの大陸へ進軍だ。使えるものは全て使うぞ!」

「アルさんから受け取ったこの人形にも活躍してもらう時が来たね」


 いつから持っていたのか、サーシャがエルブン瑞希・クリスティーナ人形の背中に触れた。


《ふぁあ。よく寝た》

 喋り始めるエルブン人形。


「同期帰結の法則。元々一つだったものが何らかの条件の元複数個になった場合、一定の条件が揃うと元の1つに戻ろうとする性質がある」

「ん? そうなると、双子等も同様ではないのか?」

「あぁ、生き物はその後の新陳代謝で常に別物に変わるから戻らないんだよ」

《そうなのだよー。多分》


 リグーリアが口を開けたまま考え込んでいた。

「ふむ。なるほど」

 ひとまず合点がいったらしい。


 それから2人は要塞内で最も広い外周の飛空挺発着場へ移動し、全軍を集結させた。


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