3.爺さんたちの空中戦
リトがソフィアを無事に守り抜くことを張り切り始めた頃、ミシェルはファーを巧みに操って藁葺き屋根の家々が並ぶ一角に降り立ったところだった。
「猫ちゃーん。どこー?」
「ちょっ、ミシェルー!」
ユーキがフラフラしながらファーを繰り、遅れて上空から舞い降りて来た。
「早すぎだろ……。どんな三半規管してんだ……」
「ユーキ君、遅いよー。猫ちゃんいなくなっちゃったし」
いや、待ってたわけじゃないだろ…。とユーキは内心突っ込みを入れたかったが飲み込んで、歩きながらため息をついた。
藁葺き屋根の小さな小屋のような家が立ち並び、何だかRPGの村か、文化遺産の古代遺跡か何かの中に紛れ込んだかのようだった。
「猫ちゃーん」
「カルマ―。いるなら出てこーい」
《くーる、きっとくる♪ はい、出るのは可能なのですが、ディスプレイから出るのは著作権の関係上問題はないのでしょうか?》
「あぁ、めんどくさい……」
『カルマ』という単語に反応し、サーテジェイブのスピーカーから女性の声が聞こえてくる。
2人で姿が見えなくなったカルマらしき茶トラ猫を探していると、僅かな地面の揺れと共に再びあの声が響いた。
「リゼットよ。そろそろこの世の知り合いに別れの挨拶はすませたか? あの世のキンブリーには、こいつの威力を語って聞かせるがいい! ぐあっはっはっはぁー!」
キィーンと何やら耳鳴りのような振動が響く。
「アル! アル! 聞こえるか!」
《アルさんに今の音声をメッセージとして送信しました》
「ナイス! カルマ」
《現在進行形で送受信中です》
「既に通話中ということか?」
「似た通信機能かな」
AIアプリのカルマの代わりにアルの声が聞こえた。
違いがわからないが、従来の電話以外にも通話する機能はあるようだ。
「ユーキ君! リゼットさんが危ない!」
「リゼットさんの方は特に被害はなさそうだよ」
少し先の方で猫を探していた慌ててミシェルが駆け戻ってきた。
アルはミシェルの不安に即座に答えてくれた。
「何か情報拾ったのか?」
「私たちが乗ってるアメノトリで受信した音源によると、サルフィムが攻撃されたようです」
イリナがアルの代わりに答えた。
「えっ? そっち?」
ユーキの記憶だとリゼットは確か大学にいたはず。あと、アメノトリとはアルたちが乗っている大型ドローンのことだろう。
今リゼットに被害は無いと言ってもいた。
「リゼットさんと竜胆さんが、サルフィムに来てたけれど、ちょうど船に乗ってて大丈夫だったみたいだよ」
「どういう状況だ? 様子でも見に来たのか?」
「詳しくはわからないけれど、サルフィムは一撃で大破。下の自然保護地区にゆっくり落下していってるみたい。それ以降は追撃はないみたいで、ナベシマという方の声もそれっきりないようだね」
「確かにないね。会話が『わっはっは』とか悪役の最後の言葉みたいなので終わった感じ?」
確かにミシェルが言った通り、ナベシマの方でも何かあったのかもしれない。
「カルマ探しは中断! 本来の目的に戻るぞ!」
「はーい。リゼットさん無事でよかったけど、次も大丈夫かわかんないもんね」
「急ごう!」
ユーキとミシェルはどちらも再度ファーに搭乗し、再び塔の方へ向かって飛び始めた。
◇ ◇ ◇
サルフィムへの攻撃は宣告から僅か数秒後のことだった。
アルス・マグナの底部分の構造体の一部に砲台が隠れていたのか、底部分近くの空中の一点から唐突に、巨大な円形の魔方陣のようなものが浮かび上がり、0.1秒単位で形状が変化、大小複数枚の円形が重ねた皿のように並んだかと思うと一点に収束、細い線となってサルフィムを穿った。
異変を感じ取ったリゼット、竜胆翁はすぐさま近くに停泊していた小型挺に乗り込み、得体の知れない狙撃が行われたのはその一瞬後だった。
老人二人が乗り込み、ハッチを閉じたか否かというところで、光に穿たれたサルフィム全体が崩壊を始めた。
どういう理屈なのか、爆破ではなく崩壊だった。
砂のように崩れていく要塞サルフィム。
その中に埋もれるようにして、小型挺は一緒に落下していった。
一方、アルス・マグナの淵部の一角で、小競り合いが起きていた。
サルファーの一団だった。
淵部の警護は厳しかったようで、宙を舞う機械仕掛けらしき人間の子どもサイズの小型警備兵たちが蜂の大群のように襲ってきた。
個々の戦力は大きくはないが、数が多い。
「ちまちまちまちまめんどくせぇなぁー!」
マシンの左右に搭載された機関砲で片っ端から撃ち落としながら、サルファーが怒鳴る。
「ラルド、ベクス、ミネルバ! そこの塊終わったら劣勢になっとるエイシンとトリンドルを援護したってくれ!」
「おうよ!」
荒くれの爺さんたちが各々応えた。
個々の戦況を見て指揮しつつ、既に撃墜されかけている三馬鹿の援護に回る。
別で一機、他の連中から群を抜いている者もいた。
「リュードよう!」
「……」
沈黙だったがいつものことのようで、パッとサルファー側に黒いヘルメットの姿が映る。
リュードと呼ばれたマシンからの画面送信なので、表示されたのは応答した証拠でもある。
現世では一般的な黒いライダースーツに、フルフェイスヘルメット、サルファーたちと同年代の老体らしいが、その前情報が無ければ全くの年齢不詳だ。
ガッチリとした手足の筋肉質な張り方から、男性だということがわかる程度だ。
乗っているマシンはトライクではなく、ジェットエンジンとホバリング用の振動波発生エンジン、細かい軌道修正を可能とするための小型超電導ファンを搭載したジェットバイクだった。
機能性が頭ひとつ飛び抜けていた。
「わしはそこに見えとるデカい奴らのとこまでは距離的に翔べん。お前さんならいけるだろう」
小さい蜂のような連中を一掃しきれていない段階で、大型のコウモリのような羽根の機械仕掛けっぽいものたちが更に襲ってきた。
第二波だ。
サルファーがリュードに頼んだのは、更に奥、淵部の岸に佇んでいる、司令塔のように見える巨大な個体だった。
数量的に不良ならば、少数精鋭にて敵大将を討てということだ。
巨大な個体を仮に大将と呼ぶとして、大将は、大柄な男2人分くらいの背丈の二足歩行の人型で、手足は異様に長く、長い尻尾と背には全身を包めるほどの大きな翼があった。
同じくコウモリのような形状で、周囲をコウモリのような翼を持つ中型の個体が取り囲み、まるで小悪魔を引き連れた魔神のようだった。
布と合成皮革の中間のような材質の精密マシン群といったところだろうか。
サルファーの呼び掛けに、黒い男は頷いた。
次の瞬間、ジェットエンジンが赤く光ったかと思うと、一条の炎の線を後方に残しながら目的の大将の元まで駆け抜けた。
小悪魔型の中型個体が放つレーザー一斉放射を巧みにかわしつつ、ジェットバイクを操り大将の懐に潜り込む。
大将もまたその体の中心部に縦一列で配置されたレーザー砲による攻撃を仕掛けてくる。
大将が腕を突き出すと、その両手は刃状に変質。
リュードに向けて、レーザー砲と左右の刃による斬擊の波状攻撃が襲いかかった。
リュードは細やかな変形軌道でマシンに乗ったまま全てかわし切り、至近距離からの空気圧縮式ガトリング砲が大将を捉えた。
毎秒約200発の圧縮空気砲を受け、大将は僅かに後ろに後退する。
「そいつぁ隠し玉持ってるぞ! その近辺で電圧が急激に上がっとる!」
リュードのバイクの前面で小型モニターが浮かび、同時にスピーカーから声が響いた。
同時にガトリング砲を撃ちながらジェットバイクで縦回転の宙返りをした。
砲撃は周囲の小悪魔個体を片っ端から撃ち落とし、ジェットバイクの側方をギリギリかすめるかという位置を、炎の矢のようなものが超音速で通過した。
「超電磁砲か」
黒い男は呟いた。
金属の弾に高圧電流を流し込み、強力な磁場を並列させた二本のレールの間に発生させ、一気に加速させることにより超音速の砲撃を繰り出す兵器だ。
大将は二本の刃を使って超音速の砲撃を行っていた。
「面白い」
そう言った後、ジェットバイクから体を起こすリュード。
ガトリング砲で全く傷を負っていないのを目視して、ジェットバイクの後方両側部にあるトリガーを引いた。
バイクの前面が開き、3本の棒状の突起物が出てくる。
今度は前方、ハンドル両端のキャップを外した。
「お返しだ」
リュードがハンドル両端に仕込まれた押し込み式スイッチを同時に押すと、バイク前面の突起物の先端から、超音速の炎の矢が放たれた。
目に見えない弾丸は、炎の帯を宙に残しながら大将を貫き、その後ろの小悪魔どもも巻き込んで空の彼方へと消えた。
大将の体はその一撃と共に分断され、落下していく。
周囲の小悪魔のほとんどが、遅れて追いついた他の面々の手によりいつの間にやら駆逐されていた。




