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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第6章 巨大衛星都市シラサギ
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1.剛腕の雷猿

 誰かに呼ばれている。


「ヨースケ! 起きろ! 死んじゃやだよ! あたしを、おいていくな!」


 泣きながら揺さぶる誰かがいる。


「大丈夫だ。死んじゃいねーよ! ちゃんとおめぇの父ちゃんの心臓は動いてる」


 野太い声も聞こえてきた。


 重たい(まぶた)をこじ開けてみる。

 (まぶ)しい光が重りのように瞼を開こうとするのを邪魔しているようだった。

 体が痛い。

 顔が二つ分くらいに()れているような変な痛みが脳を揺さぶってるようだった。


 顔が熱かった。


「ヨースケ! 動いた!」


「ほらな。良かったじゃねぇか。もう大丈夫だな」


 体を起こそうとしてみたが、頭に痛みが走るのと同時に全身にも稲妻(いなづま)が走ったような痛みが走り、両(ひじ)をついてしまった。


「おいおい。急に起きようとするなや。お前さん先祖帰りの類いだろ? あいつらレアもんだとか言ってバカみたいに騒いでたからな」


「レア……?」


「おうよ。ワシらのように毛皮もなく、ツルツルして大昔の人間みてぇな姿してる奴らのことだ」


 俺……犬の被り物外れたのか?


「あ……」


 何とか自分の顔に()れようとすると、その手を(にぎ)られた。


 目をこじ開けてその手を見ると、イオリが涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃに汚しながら泣いていた。


 その(ふところ)には本来俺が被っていたはずの、()げ茶色の犬の被り物があった。



 あ、俺素顔(すがお)か。

 イオリ驚いたろうなぁ。


「人間は聴覚(ちょうかく)嗅覚(きゅうかく)も、運動能力も低いから、昔から迫害(はくがい)の対象になりやすいって話だ。お前さんたち親子も苦労してきたんだろう」


 完全に親子だと思われてる。


 深く考えてなかったが、イオリはウサギや猫みたいな耳も尻尾もない。

 風呂に突っ込んだ時全部見たが、半獣でもない。

 俺にとっちゃあまりに普通のことなもんで、気付いてなかった。


 チンピラの言っていた『レアもん』ってはたぶんイオリのことだ。


 『先祖帰り』とか『人間』を合わせて考えると、たまに生まれる動物的特徴を持っていない『人間』は(めずら)しくて、この世界の獣人なんかと比べると、劣等(れっとう)種ということか。

 しかも迫害されて淘汰(とうた)されてきたのかもしれねーな。

 

「あんたたちは……」


 まだ目が開きづらいが、何とか見えてきた。


「お前さんたちとは一度、()まり場で会ったな」


 日焼けしたぶっとい腕で、前腕と手の甲、(こぶし)には黒々とした剛毛(ごうもう)が生えている。


 金属板を()えてつぎはぎにしたような無骨(ぶこつ)なデザインのヘルメットに黒いレンズの四角いゴーグル。

 (そで)無し革ジャンの縁にはトゲが付いているように見えたが、よく見るとひし形の(びょう)が並んだデザインだった。


 白髪混じりの髭面は、駅に着く少し前に、大型二輪車と箱形人力車のようなものが(つな)がったやつが並んだあたりで、声をかけてきた(いか)ついおっちゃんの顔だった。


「あんたは、あの時のバイクタクシーの」

「タクシー? 何か聞いたことあるような気もするが、こいつはトライクってんだ」


「あんま馴染(なじ)みねぇ名前だなぁ。初めて見た」

 イオリは泣きつかれて俺の腹のあたりに顔をうずめて寝てしまっている。


「トライカーのサルファーだ」


「俺はヨースケ。こいつはイオリだ。イオリはチンピラに連れていかれそうになってて、俺はやられちまって気を失った気がするんだが、あんたが助けてくれたのか?」


「いんや。ちょうど飯食おうかって話になって、駅前の飯屋に行く途中、爺さんが駅構内(さわ)ぎに気付いて、ワシは泣き叫ぶこの(じょう)ちゃんを抱えたまま改札を飛び越えて出てきた(きつね)若造(わかぞう)を、軽く小突(こづ)いただけだ。ちと調子に乗りすぎた行動が鼻についた」


「すまねぇ。お陰で助かった。身体中痛いんだが、俺はどんな状態なんだ?」

「ワシもよくはわからんが、相当なパンチを食らったんじゃないか? お前さんを殴ったやつは、狐顔か?」

「いや、(とら)だった」


「あー。狐のあとワシが()したあれか」

「マジか」


 この豪腕(ごうわん)伊達(だて)ではないらしい。


「こんな小さい娘さらうなんぞ、ボケッと見とれんわ」


 ガハハハ! と笑うサルファー。

 ん? 待て。娘ってイオリのことか?


「そういやバルムンクはどうなったんだ?」

「あの馬鹿どもが色々ぶっ壊したらしいから、駅は当分使えんな」


「マジか……」

「シラサギまで行くならバルムンクの払戻金で手を打とう」

「助かる」


 話してるうちに随分感覚も戻ってきて、体も動かせるようになっていた。

 脳へのダメージによるショック症状のようなものだったようで、時間とともにマシになっている感じだ。


 イオリを抱えてトライクに乗り込んだ。

 大型二輪車に見えたが、前は一輪、後方は客席で二輪、合計三輪になっていた。


 前方が大型のバイク状になった、かなりおっちゃんたちの趣味が入ったデザインになっている。


 後方の客席は最大4人まで乗せられるようになっているようだ。

 屋根は収納出来る開閉式で、晴れの日はオープンカーのようにして風を感じられる仕様らしい。


 馬車の馬が大型バイクになった感じか。


 俺は眠ったイオリを腹に乗せたまま、席を二つ倒しベッド状にして運転席側を頭にして転がっていた。


 多少の揺れはあるが、バイクっぽいわりに振動が少ない。

 爆音もなければエンジン音すらない。

 動力は電気か?


「ゆっくり目に何時間か走るからゆっくりしてなー」

「そうさせてもらうわ。流石にしんどい」


 そうだ。

 アルに被り物壊れちまったこと伝えとこ。


 そこまで考えて、俺の思考は再び途切れた。


◇ ◇ ◇


 ほどよい()れが心地よくて、随分(ずいぶん)と深く眠っていた気がする。

 ふと目を開けると青空があった。

 トライクの客席から降りて、土の道を少し歩いてみた。


 見渡す限り田んぼで、この中に小さな家がポツリポツリ。

 赤い自販機があって、その近くにバス停がある。

 (すご)く見たことあるような風景だった。


「すまんな。休憩(きゅうけい)させてもらってたぞ。ほれ。飲むか? サービスだ」


 手渡されたのは透明(とうめい)ボトルのコーヒーとリンゴジュースだった。


「これは?」


 馴染(なじ)みのあるボトルかとも思ったが、ここは俺が知っている世界とは違うらしいから、ちょっと自信がなかった。



「コーヒー駄目だったか?」

「いや、気になったのはボトルの方だ」

 

「レコボトルのことか?」


 知ってる種類のボトルではないとなると、エコボトルの一種か?

 まぁいいか。


「ヨースケー」


 イオリだ。

 目を覚ましたらしい。


「イオリー! こっちだ」 

(じょう)ちゃん起きたみてぇだな」


 俺は取り()えず、住民に見られても(あや)しまれないようカウボーイハットを被っておいた。


 走ってきたイオリは、途中で石につまずきそうになって、よろめきながら俺のそばまでたどり着いた。


 頭を()でようとすると、腹にパンチ。


「ぐほっ」


 どんな挨拶(あいさつ)だよ。


「置いてくな」

「悪かったわ。ほれ、これでも飲んで機嫌直せ」


 リンゴジュースを頬にくっつけると、「ひゃっ!」


 あぁ、確かに嬢ちゃんかもしれねー。

 風呂に突っ込んだ時、そこまで確認しなかったもんなー。


 よく見ると髪がだいぶ伸びていて、少年っぽさが減っている。

 もともと凛々(りり)しい顔立ちだから、やっぱり男の子でしたと言われてもまぁ、そうですよねと言える程度だが。


 あぁ、中性的な顔立ちという言葉が頭に浮かんでしっくりきた。


 ボスッとまたパンチ。

 不貞(ふて)(くさ)れたような顔してボトルを(うば)い取ったイオリは、早速開けて飲み始めた。

 さんざん泣いたから、今までの普通を見失ったか?


 俺を壁か何かみたいな(あつか)いで、寄りかかっている。


「安心したんだろうな」


 サルファーがニヤリと白い歯を見せ、トライクに戻っていく。


 俺らも続いて、トライクに乗り込んだ。


「さて、出発だ」

 エンジン始動して、間もなく走り始めた。


「この辺は随分と、まぁ何て言うか」

「レトロなもんあるよなぁ!」


 自販機をこの世界で初めて見た。


「このあたりは、自然環境保護区で、国の天然記念物に指定されてんだ」


「ほぉ。こんな村もあるんだなぁ」

「蒸気機関か、風力、水力、核融合、ソーラー、輝光(きこう)石のどれか、もしくは複合で成り立ってっからよー!」


 最後に知らんのあったぞ。

 輝光石ってなんだ?


「ワシのこいつは、輝光石と風力の合わせだな」

「輝光石ってなんだ?」

「お前さん相当な田舎から来たのか? 輝光石ってのはこいつさ」


 サルファーは一度トライクを停めて、運転席のシート部分を持ち上げた。


 シュクランから乗った飛空挺で見た、紫に光る鉱石だった。


「あ~これか。こいつはどういう理屈なんだ?」


 魔法石にしか見えなかったから、率直な疑問を聞いてみた。


「ワシも詳しくはねーんだが、日中は太陽の光、夜は月光を浴びることで放射線か何かが鉱石の組織と反応して、振動してエネルギーを増幅(ぞうふく)させるとか、何とか。前に技士が言ってたな」


「ほぇー。さっぱりわかんねー」


「どうしても気になるなら、デカい町になら整備士や技士がいるから聞いてみるといい」


「まぁ、そこまで気になんねーからいいや」



 ガハハハ! サルファーはまた豪快(ごうかい)な笑い声を上げた。


「お前さんさっぱりしてて、おもしれーな」


 俺らが(しゃべ)っている間、イオリは景色をずっと(なが)めていた。

 俺はアルに連絡するの忘れたから、今の情勢悪化のことからシラサギに向かってること、チンピラに被り物壊されたことなど、簡単に現状を書いてメッセージを送っておいた。


「あ、何かきた」

「ん?」


 ずっと景色を眺めていたイオリが呟いた。

 かなり遠くの方から、バリバリうるさい音が大きくなってきた。


後ろか。


「ありゃあ、駅の馬鹿どもだな」


 確かに、駅のロータリーで見た、四輪バギーだ。2台あったあれだが、あれ、若干飛んでね?


「低空飛行はご法度なんだがなぁ。今(さば)く政府が駄目になってるから、やりたい放題ってーことかい」


 田んぼ道を抜け、荒れ地のような広い場所に着いたところでサルファーはトライクを停めた。


「迎え()つのか?」


 人数増えてる気がするんだが、おっちゃんが今他のトライカー仲間と一緒じゃねーから狙い目だと思ったのか?


「お前さんとワシ1人なら、人数でいけると思ったんだとしたら、格の違いを見せたるわ」



 俺も仕込み杖の留め具をすぐはずせる状態にして、両手の銃を構えた。


「イオリはここに隠れてろ」


 イオリは(うなず)いて素直に毛布を被ってくれた。


 バリバリバリバリうるさいバギーが荒れ地の端に差し掛かった。


「バリバリバリバリうるさいのう! 近所迷惑だろう!」


 サルファーは荷台から取り出した、拳を(おお)う金属のグローブのようなものを手に着けたかと思うと、一気に距離を()めた。


 バギーのフロントに右こぶしを一撃。

 先手を打たれたチンピラどもは、大破したバギーから慌てて飛び出した。

 へしゃげて吹き飛ばされたバギーは、進行方向を無理やり逆にされ、後方にいたもう1台に激突した。


 前方の、バギーのやつらは各々徒党を組んで、サルファーを囲んだ。


「おめーらよう、剛腕(ごうわん)雷猿(かみなりざる)って知ってるか?」

 サルファーが空気を揺らす大音量で尋ねた。


「くっそ! 知らねぇよ! 化けもんかこいつ!」

「おめーらの父ちゃんとかなら、恐ろしさがわかるだろーよ!」


 本能的にブルってるやつらもいたが、チンピラの何人かはボソボソと目配せしながら、何か言い合っている。


 その間俺は、随分離れてしまったサルファーの元に走っていた。


「はぁ……はぁ……。その、剛腕のなんとかってのは?」

「ワシの昔の呼び名だ。少し前の馬鹿どもなら、聞いただけで逃げたもんだが、世代交代だな」


 このおっさん、昔何やってたんだ?



 見るとあの(きつね)野郎と(とら)顔もいた。

 犬顔は足を撃ち抜いたからいないのか? いや、(すで)に伸びてる。

 あいつらの顔見るとホームでのムカつきが(よみがえ)ってきて、背中の傷が痛んだ。


 やつらの身体能力たけーのが既にわかってれば、こっちもそれなりに対処すんだよ!


 心の中で叫び、俺は行動に移った。


「あの2匹は俺がやる」

「おう! 無茶すんなや」

「あいよ!」


 荒れ地に転がった後ろのバギーからも数人出てきた。

 悪態を付きながら、馬鹿どもその他大勢がサルファーに向かって襲いかかってきた。


 俺は2匹に()えて声をかけた。


「お前らよくもやってくれたな! ハンデとして、2対1で相手してやるぜ」


 今の俺には気持ちに余裕があった。


「はぁ? てめぇ馬鹿なのか? 俺にやられて頭イカれたか?」

「まぁいいんじゃねー? またゆっくり背中からトドメを()してやってから、あのレアもんの娘をお持ち帰りしよーぜ。高く売れるぞ」


 コイツらマジで気持ちわりぃな。


 俺はまず狐野郎の方に向かって走り、銃を構えた。

 狐野郎はナイフを構え飛びかかってきた。

 その間虎顔は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)という感じに腕組みしていた。


「うぁ!」


 狐野郎まであとちょっとというところで石につまずいた俺は、前のめりに倒れた。


「ぶっ。だっせぇな」


 2匹とも俺の醜態(しゅうたい)に笑っていた。

 上から狐野郎がナイフでトドメを刺しにくる。

 腰に差していた仕込み杖の留め具は外してあったから、指で弾いて切っ先を上に向けた。

 そしてそのまま俺は上体を起こす。


「ぐぇっ!」


 調子に乗って近付き過ぎていた狐野郎の胸に切っ先が刺さり、手応えを確認した俺は一気に体を起こして振り向き様、更に右手に杖の柄を持って横に薙いだ。


 狐野郎の両手首が飛んだ。


「野郎!!」

 形勢(けいせい)の逆転に一瞬遅れて気づいた虎顔が真っ直ぐこっちに飛びかかってくる。


 切っ先を向けると動きが単調になった。


 一瞬(ひる)んだ(すき)に、左の銃で軽く30連射くらいした。


 今回は一切容赦(ようしゃ)しなかった。


 流石に虫の息だったが、死んではいないようだった。


「見事だな」


 2匹を片付けて一つため息をついたところで、サルファーが声をかけてきた。



 無傷のサルファーの後ろには、ざっと8人ほどのチンピラが倒れていた。

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