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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第5章 闇の組織との接触
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幕間・迷い猫の憂鬱(ゆううつ)

「お疲れ様でしたー」


 歌番組の収録が終わり、楽屋の鏡の前でステージ用のメイクを落としていると、メンバーの一人が声をかけてきた。

 まだそれぞれメイク落としたり着替えたりしている最中だ。


「ねークリス~。もうモード切り替わっちゃった?」


 面白いもので、私たちが入れ替わりながら仕事していたことを知らないメンバーたちは、歌や踊りがメインの時は私で、トークがメインのバラエティ番組・演技・運動系の時はミシェルだったことも、当然知らない。


 夢で猫ミシェルのことを見るようになってから、一旦はほぼ消えてしまっていた、ミシェルとの記憶がほとんどか全部(よみがえ)っていた。


「んー、大丈夫。どうしたの?」


 メンバー仲は、結構良い方だと思う。

 話しかけてきた、肩までの髪の市松人形を現代風のあか抜けた美少女にした感じの古藤遥香(ことうはるか)は、私たちと特に仲の良い3つ年下で、現在中1の子だ。


「ウチね、今回の歌、ヤバいと思うの。いなくなった姉を思いつつ、姉と同じ相手を想う妹の心情が、すごく臨場(りんじょう)感あるというか、売上ヤバくなりそうって思ってるんだけど」


「あ~。あはは……」


 自分たちと重なってしまったなどと言おうものなら、好奇心の(かたまり)な二人に何を聞かれるか分かったものじゃない。

 メンバーにだけはいずれ言おうと言っていたのだけど、二人で決めていた、分身の術式カミングアウトは、今は出来なくなってしまった。



「確かに、それね。あたしも同じこと思ってた」


 話に乗ってきたのはリーダーの春日井(かすがい)みのり。

 私より2つ年上の高校3年生なのに、背は一番小さくて、一番年下に見えてしまう。

 ミドルヘアーにシャギーを入れたストレートスタイルだ。

 それぞれにイメージカラーがあって、みのりは基本黒い衣装で統一されていて、遥香は白。

 ちなみに私とミシェルは緑なのだけど、金か黄色の印象が強すぎるみたいで、(かす)んでしまっている。


 お祖母ちゃん(ゆず)りの、金色の長い髪のインパクトが強いんだと思う。



 3人とも社長(ママ)が運転する車に乗って、それぞれ家に送ってもらう。


 今日は土曜日だ。

 平日は出来るだけ撮影とか少なめにしてもらっていて、土曜日と日曜日に大体詰まっている。


 さて、今朝の夢は……と。


◇ ◇ ◇


 街路樹がある郊外を歩いていると、虫取り網が空から落ちてきた。


 無意識で身を(ひるがえ)してかわすと、上から声が聞こえてきた。

「ごめんなさーい。大丈夫ですか~?」

 少し高い女の子の声という印象。


 大人の背丈くらいはあるレンガ造りの塀が連なる通りで、その向こう側は、少し離れるとかなり遠くに建物が見えるけれど、上から声が聞こえたり物が落ちてくるような位置には何もなかった。


 また眼鏡のスイッチをオフにしていたことを思い出した私は、一度外してオンにして、またかけてみた。


 何もなかった空中に、ワイングラスを下から見上げたような逆円錐(えんすい)形の奇妙な建物があった。


 ちょうど今立っているあたりの正面の壁は、豪奢(ごうしゃ)な門になっていて、さっきは壁だった記憶が嘘だったかと首を傾げてしまった。


「今降りまーす」

「大丈夫ですよ~」

 私は網を手に持って、全力で()んだ。


 垂直跳びで円錐の縁を越えた私は、何とか手をかけてよじ登った。

 着地した私は、目の前に広がる広大な庭園に息を飲んだ。


「すっごい」


 見渡す限り工場地帯のように見える無骨な建物や無機質な建物ばかりなこの町の中に、こんな庭園があったなんて。


 ずいぶん遠くに帽子をかぶり、赤いワンピースを着た女の子の姿があった。


 東屋のようなものがあって、そこがエレベーターか何かがある場所みたいだった。



 私に気付いた女の子は、こちらに向かって走ってきた。

 近くに来ると、赤いシャーリングワンピースに日除けのキャスケット帽を被った、お洒落な女の子だった。


「こっちに入口無いのに、どうやって入って来たの?」


「えっ? 普通に跳んできたよ」


 何を驚いているんだろう?


「えーっ? 怪盗キャットキッドみたい!」


 怪盗キャットキッドは、動画配信されているヒロインアニメの主人公だ。


 怪人百面相と国際警察ゼニーとの三つ巴でのアクションもので、子どもたちの間では人気のアニメらしい。


「この高さだよー! 柵もしっかり作られてて、上から人が落ちないように他にもセキュリティあるのにー」


 大体10歳前後かな? と私は思った。


「はい、落ちてきたやつね」

「ありがとー」


 私は網を手渡した。


「ちょうちょ捕まえようと思って構えたら、網の先が(さく)隙間(すきま)に引っ掛かってたみたいで、手が滑って落としちゃったの」



「なるほどねー。気を付けてね~」

「ごめんなさい」


 しょんぼりしている。


「大丈夫だよ。それより凄いお庭だねー。あなたのおうちの庭なの?」


 私は話題を変えてみた。


「うん! パパの自信作なんだって!」

「いいね。たまに遊びに来てもいい?」


 すごく嬉しそうな笑顔だ。

 自慢のパパなんだろうなぁ。



「じゃあね」

「あ、名前聞いてなかった! 私はソフィア。ソフィア・クロス・ハート」


「あぁ、あたしはミシェルだよ。また来るね!」


 そう言って立ち去った。

 ちょっと眼鏡のスイッチをオフにしてみたかったけど、万が一その瞬間地上に落ちたりしたら怖かったから、やめておいた。


 小鳥がさえずり、木立にはリスが駆け回り、花(だん)の花にはちょうちょが舞い飛ぶ、とても綺麗な庭だったから。



◇ ◇ ◇


 キーボードを打つ手を止めて、私はミシェルの感じてたことを反芻(はんすう)していた。


 優しい誰かの嘘を、壊すのはいけないよね。


 もしも、もしもだけど、この世界の全てが偽物だったら、私も偽者だったりするのかな?

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