28、プルス
28、プルス
国土の7割を農地や森林に囲まれた、自然豊かな蒼のプルス。その穏やかで平和な国で作られていたのは……
「あの大きな爆弾って……」
プルスの開発した『爆発の水』だ。今まで様々な爆発の水が作られて来たが……あの少量であの威力となると……
「兄ちゃんが危ない!今一番狙われてるのは兄ちゃんだ!」
「悠希だけやない。莉奈もや」
おそらく『purus aqua』を求める者を消滅させるための物だ。どんなに強い冒険者でも、兵器の前にレベルやスキルなんてものは無意味だ。
「こっちはこっちでえげつないもん出して来よったな」
プルスの思惑はこうだ。悠希に挑む者が勝てればそれで良し。勝てなければ……多少の犠牲を払ってでも、爆弾で止めるつもりだ。
「どうしよう……二人に知らせなきゃ!」
智樹の心配を他所に、俺は軽く投げやりになっていた。
「ええんちゃう?二人仲良くボッカーン!死の国でラブラブハッピーエンドや!」
「ラル、何言ってんの?意味わかんないよ」
自分でもわからない。言ってて悲しいほど意味不明だ。
どこがハッピーエンド?この終わりの無い世界で、ハッピーエンドなんてものが存在するのか?
「あった~!」
「いや、無いやろ?」
「こうゆう牢って、誰かの残したメッセージとかあったりするよね~!」
壁の石にはこう書いてあった。
『プルスの秘密知りし者、永遠にここに眠る』
え……?プルスの秘密?もう知ったけど?
永遠に眠るって……?永遠には眠りたくないんですけど?
その文字の隣には…………白骨化した遺体が…………
「ひぃいいいいいいい!これアカンやつやん!」
俺と智樹は抱き合って震えた。すると……その白骨遺体がむくりと起き上がった。
「どれがアカンやつデスカ~?」
「これはホンマにアカンやつや!トリックオアトリートメントや!」
「イタズラかトリートメントか?トリッキーなビューティーサロンデスネ~!」
その姿は正にアンデッド!!
「アンデッドのテッドデース!」
「うわぁ……なんか微妙なキャラ出て来ちゃったよ~?」
「テッドはリフレクションデース!」
リフレクション?リフレクションって何だ?
「ラル、リフレクションって何?」
「いや、俺もわからんわ。英語苦手やねん」
「リフレクションは反省デース!」
反省?テッドの話を聞くと、反省するために自らここに入っていたらしい。
「反省する分には文句は無いんやけど……見た目がエグいわ」
「骸骨はちょっと怖いよね~」
「アーンハーン?」
骸骨は両手を上げて首を傾げていた。
「oh~!あなたの魂の姿よりはマシデース!」
「魂の姿って何?」
こいつにも、魂の姿が見えるらしい。
「そんな事どうでもええわ。それより反省ってなんや?まさか爆弾作った~とかちゃうやろうな?」
「……………………」
骸骨は黙って固まった。
「マジか!」
「楽しくて楽しくて、水の研究に没頭しました。でも、恐ろしい物ができてしまった。互いに尊重し合い、均衡を保った世界が……恐怖で支配される世界になってしまう」
「わからん……俺にはもうわからん。『purus aqua』で世界をリセットした方がいいんか、止めた方がいいんか……どっちや?」
しかし、智樹がはっきりと言った。
「どっちにしても、あの爆弾を使わせちゃいけないよ!」
あの爆弾を使えば、莉奈や悠希、もしその周りに存在すれば、多くの人が巻き込まれる。そして、プルスが巨大な力を持てば世界のバランスは崩れる。
「あの爆弾、どうにかして使えないようにはできないかな?無効の水とかは?」
「大量に無効の水があるか?」
「あれに無効の水は効かないデース!」
何だかこの骸骨にムカついて来た。反省する気あんのかよ?
「こっそり海に流しちゃうとか!」
「揮発性の高い水で、空気に触れるとすぐに爆発するらしいで?」
「じゃあ、あのオーブに入れられたら終わりじゃん!」
そうだ……もう準備が整えられているという事は、あれを二人に使うだけだ。居場所がわかればすぐにでも投下されるだろう。
「じゃあ……盗み出す!」
「盗み出す!?」
「僕が盗んで誰にもわからない所に隠せばいいんだよ!」
確かに、それならすぐに爆発という事は無くなる。
「でも、途中で爆発したらどないする?智樹が危ないわ!」
「大丈夫だよ。結構頑丈なオーブだったし」
「あなた……あれに触ったデスか?あれを落としたらここにいる全員がデスデース!」
デスデス……デスデス……
「死なんクセにデスデスうるさいわ!」
「そうなんデース!この姿でも何故か死なないんデース!どうにかしてくださいデース!」
「お前マジでデース!やめろ。腹立つわ」
骸骨にまとわりつかれ、牢の中を逃げていると、智樹が呟いた。
「どうにか外に出られないかな~?」
まさか本気か!?本気で盗むつもりか?
「こんな時はモルスのヴィトロデース!」
「モルスのヴィトロ……?そうか!」
すると、智樹は空のモルスのヴィトロを手渡して来た。
「ラル、僕を殺してヴィトロに入れてよ!」
「はぁ?」
「檻の外で黒い砂を使えば僕は出られるよ!」
それは……そうかもしれない。
「智樹が俺をやればええやろ?智樹が出ても戦力外や」
「ラルは目立つから、すぐバレて捕まるでしょ?でも、ラルがここで囮になってくれれば、僕はあのオーブを持ってこの城を簡単に出られるよ」
「それ、ホンマか?」
智樹は攻撃力は無いが、調査や密偵スキルがある。そのスキルには物を盗む技術もある。智樹にどの程度のスキルがあるのかはわからないが……
今は智樹に賭けるしかない。
「わかった」
「痛くないようにしてね」
「それは無理やろ?」
俺は持っていた剣で智樹を斬った。そして、モルスのヴィトロを使い、檻から手を出し檻の外で元に戻した。
「すまんな……これで24日は現実世界に戻れん……智樹だけでも帰してやれたらと思ってたんやけど……」
「24日も世界があればの話だけどね。僕、やってみるね!」
「頼んだで……智樹……」
智樹はすぐに気配を消して、地下の奥へ進んで行った。智樹の姿が消えた後、骸骨は俺に言った。
「いとも簡単に殺しマスね。あなた……死神デスか?」
「…………」
「普通の人は、モルスのヴィトロに入れるとわかっていても、その体を傷つける事に迷うものデス。あなたは何の躊躇もなく殺シタ。人を殺し慣れていマスね」
俺は、それに対して何も言えなかった。それが正解だ。俺は智樹さえも、殺す事に躊躇はない。
「見た所あなたレベルも相当高いデスネ!相当鍛練なさったんデスネ!」
「ああ、色々守るために強くなろうと努力したわ。でもそれも、なんの役にも立たんかった。俺の努力はなんの意味も無かったんや……」
結局莉奈も失って、悠希を止める事もできなかった。
「人は自分の労力に見合った見返りを求めるものデス」
見返りを求める……そうかもしれない。
「私の反省は見返りを求め過ぎた事デース……好きで好きで研究をしていたのに、いつの間にか見返りだけを追い求めるようになりマシタ……」
俺は……見返りを求め過ぎた?いや、そんな事は無い。
そうは言っても、俺の望む見返りは何だったのかは今ではわからない。
……わからない?どうして忘れていたんだ?
俺の望みは、莉奈と智樹、そして悠希を無事に元の世界へ帰す事だ。
莉奈に愛される事じゃない。
愛に溺れて目的を完全に見失っていた。
「俺は大バカもんやーーーー!」
静かな地下牢に俺の声が響き渡った。
「そろそろデ・マースか?」
「は?」
「竜人にこの程度の檻など、お茶の子サイサイデース!」
そう言うと、骸骨は竜の姿になった。
「はぁああああ!?」
竜は檻をぶち破ると、俺を掴んだ。そして、城に混乱を巻き起こし城の外に出た。
「あちらはあの子ウサギに任せるとして、こちらは『purus aqua』に向かうデース!」
そう言うとそのまま、真っ青な大空に飛び上がった。




