27、裏切り者は
27、裏切り者は
莉奈が器になると、最初から決まっていた?
まるで、大きな渦の中に突き落とされた気分になった。
俺はもう手遅れなのか?悠希から莉奈を助けるなんて事は…………無理……とは絶対に言いたくはない!
無理だと言ってしまえば、全てが終わる気がする。
「無理!」
「なんでや!」
「何ででも!」
これで終わりなんて嫌だ。
莉奈は相変わらず、1人で部屋に閉じ籠っていた。
様子を見に、何度か会いに行った。
「こっちに来ないで!」「話かけないで!」「顔も見たく無い!」案の定、拒絶される。
水の効果はしばらく続いた。
莉奈の言葉は、本心ではないとわかっていても……精神的にキツイ。
その様子を見てトパーズに言われた。
「どうですか?好きだった相手に拒絶される気分は」
「そんなん莉奈の本心やない!ただの水の効果や」
わかっている。水の効果が切れれば……切れたら、また飲むのだろうか?それはいつまで?
俺は、永遠に莉奈から拒絶されるのか?
俺が肩を落として莉奈の部屋の前を後にすると、莉奈の部屋から声が聞こえて来た。
「こっちに来ないで!離して!」
は?
「もう、そっちへ行ってへんがな!」
そう声をかけた。
「絶対に行かない!お兄ちゃんと一緒には行かない!」
お兄ちゃん!?悠希!?悠希が中にいる!?
慌ててドアをぶち破ると、そこには……
莉奈の腕を掴む悠希……トムとは違う、冒険者YUKの姿があった。窓が大きく開いて白いカーテンがはためいていた。
遅かったか!!
「莉奈を離せ!」
莉奈が近すぎて、悠希に突っ込んで行けなかった。悠希は俺の言葉など完全に無視で、莉奈の腕を引き続けた。
「莉奈、いい加減にしろ」
「嫌!私、もう魂を飲めない!」
「それは……拒絶の水か?」
悠希には拒絶の水さえも想定内だった。
「そんなもの何の意味もない」
「やだ!離して!」
すると、悠希は何故か莉奈の手を離した。しかし、その視線は莉奈を捕らえ、決して離す事は無かった。
「どうしてだ?協力するって言ったよな?一度は承諾したんだ!約束を守れよ!」
莉奈が……承諾した?強制的に器になったんじゃないのか?
「あの時は、お兄ちゃんの力になりたいと思った。でも『purus aqua』で世界が終わるなんて知らなかった!それに……魂を飲むのがあんなに辛いなんて思わなかった!」
魂を……飲んだ?
「莉奈……何言うて……」
その不安の綻びは俺の中に一気に広がった。結局、莉奈が選ぶのは悠希なのか…………?
「こっちに来ないで!」
「好きや言うたやろ……?」
俺の声は二人には届かなかった。二人にとって、俺はいないも同然だった。
何だそれ……
あれだけ死に物狂いで強くなったのに……あれだけの時間とキツイ稽古に身を投じて……
俺は一体、何をやっていたんだ?
すると、莉奈は俺の方へ逃げて来た。
「莉奈…………」
莉奈は俺の差し出した手を見て、少し迷い後退りした。そして、クローゼットの中に逃げ込んだ。
「莉奈、出て来い!出て来ないなら、この城の全ての人間を殺す!」
「嫌!出ない!殺すのも嫌!何もかも嫌!もう嫌!帰りたい!もう元の世界に帰りたい!!」
それが……莉奈の本心……?
「全てが終わったら帰してやる」
悠希はため息をつくと、易々とクローゼットのドアをこじ開けた。
「嫌!!」
「暴れるな、体を痛めるぞ」
そう言って、悠希は暴れる莉奈を抱えクローゼットの中から出て来た。
「嫌!嫌!離して!嫌なの!本当に嫌!」
それはまるで駄々をこねる子供を無理やり連れ帰るようだった。
「待て!待ちいや!悠希……」
「……邪魔するな。これ以上邪魔するなら……」
悠希は莉奈の腹を殴り、気を失わせた。
「俺はこいつに何をするかわからない」
「な……お前……そんな非情な奴やったか……?そこまでして『purus aqua』が欲しいんか?」
「うるさい!お前に何がわかる!」
悠希は俺から顔を背けると、窓の方へ進んで行った。
「わからんわ……俺は頭花畑や……莉奈を好きになってもうて、頭花畑なんや……だから、お前が理解できん」
『purus aqua』はここまで人を変えてしまうのか?
「もう、後戻りはできない」
そう言って、悠希は莉奈を連れて窓から姿を消した。
俺は結局悠希を止める事や、追いかける事ができなかった。いや、しなかったが正しい。それが無駄な事のように思えて、体が少しも動かなかった。
いとも簡単に……莉奈を失った。
「何故戦わないのですか!?」
トパーズに怒られて、やっと我に返った。
「うるさいわ!俺は裏切られたんや!」
「そうやって自分は悪く無いと言って、全てを人のせいにして逃げるんですか?あなたはあの頃から少しも成長していませんね」
「な……なんやて……?」
成長していないと言われても、あの頃なんて覚えていない。俺はイグニスの城を出て、プルスに帰った。
中庭からふと、廊下の方を見ると……莉奈の残像が見えた。
「なんでやねん……今はそんなもんいらんわ……」
「ラル!」
幻聴まで聞こえて来た。
「そんなんいらんねん!」
俺が頭を抱えていると、幻聴はまだ続いた。
「どうしたの?僕だよ!僕!」
「僕……?」
そこにいたのは智樹だった。
「姉ちゃんは?一緒じゃないの?」
「連れて行かれた」
「えぇ!?ラル、負けたの!?」
智樹は目を丸くして驚いていた。
「いや……負けたというか…………負けた」
そうだ……。俺は負けた。自分の不安に押し潰されて、負けた。不安に負け、最後まで莉奈を信じきる事ができなかった。
「俺は大バカもんや!」
「それ知ってる」
「おい!そこは優しくそんな事無いよ。やろ?」
すると、智樹は俺に「いいもの」と言ってオーブを見せて来た。それは透明なオーブで…………
これ、どこかで…………
「智樹、これ、どこで手に入れた?」
「この城の地下だよ!僕、探検してたら地下につながる所を見つけたんだ!地下は研究所みたいになってて、いろんな実験をしてるみたいだった」
プルスの城の地下で……?これを?これは…………
「それは見てはいけない物ですよ」
「ターコイズ!?」
「その秘密を洩らされると非常に困ります。残念ですがお二人には消えていただきます」
ターコイズの全力の一打が飛んで来た。
「智樹、逃げろ!」
そう言った瞬間、智樹は即座に捕まった。
「おい!そこはもう少しねばれや!」
「どうします?こちらも手荒な真似はしたくはありません。今のエメラルド様と戦うのは少々骨が折れそうですからね」
「わかったわかった!大人しくするわ」
それから俺達は、プルスの地下牢へ入れられた。
牢屋に入るの何回目だよ!!いい加減にしろよ!!
智樹は牢屋の中をあちこち調べながら言った。
「え~!ラルはそんなに牢屋が好きなの~?」
「好きなわけあるかい!」
「あ~あ!あのキレイなオーブ、あれ、莉奈がアクアで取られたオーブだよね?僕、あれ、莉奈にあげようと思ってたのに」
あれは多分、返されても嬉しくないだろ。
「智樹、あの後どうしてた?」
「あの後?」
「アクアで爆発があった後や」
俺達は体を譲り受ける事を約束した。俺は莉奈を連れてアクアで智樹と離れた。
「爆発?アクアで爆発があったの?僕、もうイグニスに行ってて知らなかったよ」
「そうやったんか……あの爆発はあのオーブや。あのオーブは小型爆弾や」
「小型爆弾!?嘘でしょ!?」
智樹が驚くのも無理はない。あんなキレイなオーブが爆弾だと思う者なんて誰1人いなかった。俺でさえ気がつかなかった。
「これの大きいの、ここの下にあったよ?」
「は…………?」
それは……一体どうゆう事だ?




