24、異変
24、異変
あれから丸2日鍛練を繰り返し、ようやくターコイズを軽く倒せるようになった。
「これならそろそろプールスの闘技場へ行って猛者と戦って経験を積んだ方がよろしいかと」
「いや、でもこれホンマ疲れんねん!もし回復できん状態やったら詰んでるわ!」
「あ、やっと気がつきました?」
は…………?
「ずっと全力なんてあり得ません。馬鹿か阿呆のやる事です」
「ターコイズてめぇ……」
「話はここからです、その木刀を下げてください」
その頭を木刀で殴打してやろうかと思った。
「とりま、常に最善の一打を出す事は覚えましたね?」
今一瞬JK?JKが垣間見えたような……
「次は最短、最小限の動きと、最高の一打を覚えましょう」
「だから、俺には時間が無い言うてるやろ!?手っ取り早く強くなりたいんや!」
「てめぇゆとりかコラァ!世の中そんなに甘くねぇんだよ!そんな事ほざいてる暇があったら死ぬ気で剣振りやりやがれ!」
一番最初に訪れた異変は、ターコイズのキャラ崩壊だった。
「周りは何も知らず呑気に暮らしている中、自分だけ辛く苦しい毎日でさぞやストレスが溜まるでしょう。しかし、プルスは武器を作る材料、薪や薬剤の輸出を禁止しました。他の国でもYUKに武器を作らせない最大限の手は打っていると思われます」
俺の知らない所で、世界は動き出していた。
「焦る気持ちはわかります。しかし、戦っているのはあなただけではありません。今この瞬間、どこかの誰かが時間稼ぎとしてYUKと戦い、死にゆく者達がいるのです」
丸2日、悠希は莉奈を迎えに来ていない。迎えに来るだけなら、武器など無くてもなんとでもなりそうだ。それをしないのは…………どこかの誰かが命を賭けて戦っている?
「しかし、その分YUKも経験値が上がり強くなって行く。私にここまで罵られ、それでもYUKに歯が立たず無惨にも殺されては何の意味もありません」
こいつ……そうやっていつも俺を煽って来やがる……
「悔しいでしょう。全て自分の未熟さ故です。自分の未熟さを恨むのです。後悔など、死んでからしても何の意味も無い」
生きているからこそ、後悔をし、次に生かせる。全てを失ってからでは何もどうにもならない。
今はただ……全力を尽くすしかない。
毎日ボロボロになりながら訓練していると、その様子を見て莉奈が呟いた。
「ラル、もういいよ……。ラルはもう戦わなくていいよ……」
「戦わなかったら莉奈が連れて行かれるんやで?」
「でも……この前みたいにラルが傷つくのは見たくない。私が行けば、誰も傷つかないし……」
誰も傷はつかないが、世界は終わる。それも、血を血で洗う最悪の終わり方だ。
「そうですね。あなたには死んでもらう他に無いです」
「なんでやねん!守るために修行しとんのに何言うてんねん!」
更なる異変の始まりは、莉奈のこんな一言だった。
「だって、もう死にそう……」
「はぁ?」
「お腹空いて死にそう…………」
そっちか!
「それなら何か食べたらええがな……いや、ここでは回復薬か?それなら城のあちこちにあるやろ?」
「違うの。回復使ってもHPゲージは元々フルMAXなんだよね。試しにこの世界の色々な食べ物食べてみたんだけど……全然空腹が収まらないの」
おかしい……。この世界に空腹は無い。HPゲージがギリギリになればセンサーが働き空腹にはなるが……HPゲージMAXで空腹はあり得ない。
「なんか……ラル、いい匂いがする」
「は?何も食べ物なんか持ってへんで?」
莉奈は俺の体を嗅ぎ回っていた。
それもおかしい……。この世界に匂いなんてものは無い。味覚と嗅覚は目視して判断できない。だから無いに等しい。
現実世界で悠希の親父が料理でも作っているんだろうか?
「多分、これだ!」
莉奈が俺のアイテムboxから取り出したのは、中身の入ったモルスのヴィトロだった。
「これ、美味しそう……」
「待て待て!これは飲み物やない!中にいるのは冒険者や!」
飲みそうになった莉奈の手から間一髪、ヴィトロを取り返した。
「やはり……器になった者は魂を求めるのですね」
「ターコイズ……お前、どうして莉奈が器になった事を知っとんのや?」
「肉体を現世に残し、1度も死んだ事の無い冒険者。それは器になれる者の条件です」
そんな事は『purus aqua』を知る者は誰でも知っていると言った。
「お前……『purus aqua』を知ってるんか?」
「私の前世の記憶には少々。私の他にも前世の記憶がある者には多く存在します」
だから、世界中でゾンビが条件に合う冒険者を探している事を知っていた?
「今回は誰を止めるべきか明確です」
「待って?ターコイズさん、今回はって事は……前にもこうゆう事ってあったんですか?」
「ええ、何度か」
何度か?……何度も?
「その時って、最終的に器になった人ってどうなるんですか?」
「さぁ?私は器になった方を1度も存じ上げません。こうして器の方と目の前でお話するのはあなたが始めてです。ただ……噂によると、器になった者にはヴィトロに入った魂はこの上無い極上の味がするとか。その味を求めて自らが器になった冒険者もいるほどです」
「そうなんだ……美味しいんだ。でも、誰かの魂だもんね…………お腹空いたなぁ……」
この上無い極上の味が……人の魂?それを食らう人はまるで死神のようだ。死神に……莉奈が?
空腹の前にそんなものがあるとわかれば、欲しがるのも無理はない。
「それで本当に甦るの?」
「それも存じ上げません。私は『purus aqua』を手にした事は無いので」
「じゃあ、どうして知ってるんや」
ターコイズは少し間を置いてゆっくりと言った。
「それは、誰かが『purus aqua』を手にすると、世界はリセットされるからです」
「リセット?」
「現世に肉体のある者はそちらに返され、無い者はモルスのヴィトロに入る他ありません。その魂の器があなたです」
それは……つまりは莉奈はヴィトロの魂を飲まなければいけないという事か?
「じゃあ……私、魂食べていいの?」
「一定数飲めば、世界が終わります。あなたが欲望のまま飲み続ければ、世界は終わります」
という事は莉奈はこの世界を守るために空腹と戦わなければいけないという事か?
「じゃあ、お兄ちゃんが智樹をモルスのヴィトロに入れたのは……ラルが入ってて、入れる体が無いと思ったから?そうなのかな?」
莉奈のその願望に近い予想は、俺を不安にさせた。
「その可能性は無いとは言い切れません。もし、人々がYUKを止められないと判断すれば……愛する者を殺し、モルスのヴィトロへ入れなければなりません」
モルスのヴィトロは自分で入る事はできない。入れてやると言って普通に殺される奴もいるだろう。黒い砂を持たなければ、そのまま永遠にヴィトロの中という事もあり得る。
しかし、モルスのヴィトロに入らなければその魂を失う。
それは秩序の無い、混沌とした世界だ。
「ですから、エメラルド様にはどうしてもYUKを止めてもわらなくてはなりません」
「そんなん言っても、こんな木刀で稽古して何になんねん」
「それはただの木刀ではありません。樹齢千年の精成る木の枝でできています」
セイナル木、静成る木や晴成る木。それは種類によって様々な力を持つ、プルスの資源だ。
「並の金属より重く硬いはずです。研磨していないので刃はありませんが……加工すればエメラルド様にとって一番の武器になるでしょう」
なるほど……既に武器は決まっていた。
「まぁ、透明な水で作られた氷の剣を持って来られたら最悪ですが」
「それ、アカンやろ!」
「相手は青の戦士。蒼の狩人と戦うなら、そのくらいのハンデは埋めて来る可能性はあります。しかし、そんなものが存在すればの話ですが」
確かに、悠希が持っていたのは青みがかった透明の氷の剣だった。普通の透明度の無い氷の剣でさえ高価で貴重な物なのに、あの透明度はかなり強い武器だ。
「透明な水の氷の剣があったら、正に鬼に金棒。この世の終わりです。それほど恐ろしい事はありません」
そのターコイズの願いがフリにならないといいが……
その後、莉奈は魂の代わりになるものがないか探しに行った。




