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23、強くなる

23、強くなる



「ラルー!頑張れ~!」


俺は莉奈と智樹の声援を受けて、プルスの城で剣の稽古に励んでいた。


「女子供にうつつをぬかしている場合ではありません」


そう言って俺の木刀に木刀を当てて来たのは、プルスの王子の教育係兼監視役、ターコイズ。単純に剣のスキルをあげるなら、こいつに習うのが確実だ。


「私に勝てないようでは魔王ですらお話になりません。相手は魔王を倒した冒険者なのでしょう?」

「魔王の城を自由に使えるんやから……そらそうやろうな」

「今の力では確実に死の国行きです」


そんな事はわかっている。新しく武器を作ったとしても約1週間。俺達に与えられた時間はそれだけだ。


「僕達にも何かできないかな?」


智樹はそう言ってどこかへ行ってしまった。残った莉奈が中庭のティラピスで手を振っていた。俺が莉奈に手を振り返そうとすると…………


木刀でケツを思いきり叩かれた。


「痛っ!!」

「稽古中よそ見するとはいい度胸ですね。昔からあなたの事がどこか気に入らない……前世に何かあるんでしょうかね?」

「お前……前世の記憶があるんか?」


ターコイズは前世の名前を清水 碧と名乗った。


清水か!清水は確か……どんな奴だったっけ?清水はメインのシステム担当だった。地味な奴であまり話した事はなかった気がする。


「その地味な奴扱いが私の癪に触るのです。このきな臭霊媒師が……」

「わかったわかった!今は愚痴聞いてる場合やない!さっさと俺を悠希に勝てるようにせえ」


そうゆう態度が癪に障ると言って余計にターコイズは怒っていた。それを無視して素振りをしていると、ターコイズはやっと自分を落ち着かせて、俺の相手をし始めた。


「エメラルド様、あなたには敵に対して憎しみが無い。憎しみの無い敵と戦う際冷静な判断ができるメリット反面、自身の力の全力は出ません」

「全力が出ない?そんなわけないやろ?」


全力で戦いを挑まなければ、到底勝てない相手だ。


「勝負が決まるのは一瞬です。その一瞬に真の力が出せるかが勝負なのです。どんなに技術や力があっても、その一瞬に力が出せなければ何の意味もありません。日々の鍛練はその一瞬にどう反応するかの訓練です」


ターコイズの口からそんな熱い精神論が出て来るとは思わなかった。


「なんて事ないボス戦で、ついウッカリ選択ミスして負ける事ってありますよね?レベルあげのつもりがアイテムの無駄遣いなんて事ありませんか?将棋や卓球など一対一の勝負には、ミスしてはいけない一打が存在します」


それが、勝負の分かれ目ってやつか?その見極めが勝敗を分けるのだと言っていた。それを見極められる技術を身につけるには…………


「経験を積んで揺るがない精神を作るか……」

「それってどれぐらいかかる?1週間しか時間が無いんやで?」

「無理でしょうね。もしくは…………その一瞬を自分のタイミングに合わせられるように仕向けられるか」


それは、小細工という事か?


「ネバネバの水で手足の動きを制限するとか?」

「私なら即サラサラの水を使います。持ち合わせていなければ無効の水」

「燃える水で火をつけるとか!」

「私ならその火を逆に攻撃に利用します」


俺にはターコイズが結局何が言いたいのか少しも理解できなかった。


敵の動揺をいかに引き出すか。勝負はそこにかかっているとの事だが……


「相手も人間、相手を読み合い、どう勝負に出るか、どう出し抜くか。それがあなたのする『死合い』です」


『死合い』それは『殺し合い』だ。


俺に……悠希を殺す事ができるのか?


「ラル、大丈夫?そろそろHPゲージ減ってない?」


俺の様子を見て莉奈が話しかけて来た。


「なんや、莉奈には俺のそんな所までわかるようになったんかいな?」

「あ、これ前から。ちなみにターコイズさんは全然減って無いからね?」


何故だ!何故ターコイズは減っていない!?俺が弱いの!?そうなの!?そうなのか!?


「大丈夫。私がちゃんと回復してあげる」


そう言って莉奈が回復魔法をかけてくれた。


「莉奈は回復上手になって来たな。相変わらず回復意外の魔法は覚えんけど」

「だって、ラルが守ってくれるから回復以外必要無いもん」


莉奈はそっと俺の腕にしがみついた。俺は莉奈の頭をそっと撫でた。


「いちゃついてんじゃねーぞ!殺す!今すぐ死の国送ってやる!」


俺達のいい雰囲気に、ターコイズがキレていた。


「いちゃついたってええやん!少しはいちゃつかせろや!甘い時間くらいあったってええやん」

「そんな暇があったら鍛練!そんなものは生き残ってから好きなだけやりなさい」


そう言って木刀で襲って来た。さっきと違って、目が明らかにヤバイ!その目に一瞬下がった。


「どうですか?殺気というのは、相手の心を揺るがしますでしょう?」

「殺気?」

「先ほど、一瞬後ろに下がりましたね?その一瞬が命取りですよ?あの一瞬であなたは死にました。エメラルド様が死ねば…………あの冒険者も必ず死ぬでしょう」


莉奈が…………死ぬ……!?それは絶対にさせない!


「その調子です」


ターコイズは俺の攻撃をかわしながら、後ろに下がった。


「単に人を殺すより、守る方がはるかに難しい。それは、直感的に力を出す事が難しいからです。守るとは具体的に?攻撃?守備?その一撃に込める想いの強さが、勝負を決める。その一瞬に影響するのです」


想いの強さ?


俺はその時、何故か現実世界の事を思い出した。それはふと見た、建設会社テレビCMだった。ゆったりとした音楽に、現場の映像、そして綺麗な建物の映像が流れた。


『あなたの想いが形になる』


ありきたりな台詞に、最後に会社のロゴが浮かび上がり終わった。わずか十数秒の中に、夢や希望、この世界の喜びのようなものが見えた。


現実世界には魔法は存在しない。魔法が使えないが故に、あらゆる知恵や努力を重ねてあの世界を作り出す。


それは何だか……泥臭く冴えない世界に思えた。


しかし、あのCMを見て漠然と思った。


あの世界に生きる人々の想いが、理想や願い、その強い想いが、あの泥臭く冴えない世界を作り出している。


あの、泥臭く冴えない、素晴らしい世界を。


世界は、人の強い想いでできている。


そう思った。


俺は莉奈の方を見た。目が合うと、莉奈は笑顔になった。あの笑顔を守りたい。たとえ残り少なくとも、莉奈との幸せな時間を守りたい。


そのためには何をすればいい?


攻める事か?防ぐ事か?かわす事か?


考えろ!常に、この一瞬の最善を考えろ!


自分の持てる限りの力で、この一瞬一瞬の限界を越えろ!


いつの間にか、莉奈の応援もターコイズの嫌味も聞こえ無くなった。


「そこまで!」


ターコイズの声に我に返った。


「これ以上は私の体が持ちません、そこの冒険者様、回復を」

「そんな訳ないやろ?さっきからHPゲージなん全然減らん…………」


いつの間にかターコイズのHPゲージが残り半分以下になっていた。


「本当!いつの間にかこんなに減ってる。今すぐかけますね」

「複雑な気持ちですが、喜ばしい。それだけエメラルド様が上達しているという事です」


俺は莉奈とターコイズの間に割り込んで、ターコイズに回復魔法をかけようとした。


「ちょい待ち!俺がかける。莉奈が男を回復させるんは俺だけや」


莉奈は「え~!」と言ってめんどくさそうな顔をしていたが、これは俺のこだわりだ。ここはしっかりと守ろう。軽く早口で呪文を言ってさっさとターコイズを回復させた。



「それって智樹は?」

「智樹は男にカウントされてへんがな!」


すると、莉奈は少し笑って言った。


「ふふふ……何だかラルの嫉妬って可愛いね」


疲れた体に、その柔らかい笑い声が胸に暖かく響いた。


「可愛いのはお前の方だ!」


そう言って莉奈に抱きつこうとしたら、全回復したターコイズに追っかけられた。


あれは絶対ひがみだ。あいつ絶対モテないんだろうな。




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