18、智樹の復活
18、智樹の復活
このゲームの世界で死ぬと、今は生き返る事ができない。それはつい最近の話だ。
以前は普通のゲームと同じように生き返る事ができた。
最初の設定は、確か……死ぬと死の国へ転送される。死の国から帰る際、何個か条件がある。その条件は人によって異なり、それが満たされなければ、そのまま永遠に死の国に留まる事になる。
その、死の国の出入口があるのが、消えた氷の国グラキアスだ。
グラキアスの手がかりに繋がる可能性のある砂漠に、莉奈と何度か行ってみた。しかし、ゴーレムと戦うも二人では女を砂から引きずり出す事はできず、結局逃げ帰る事になった。
『誰がために、強さを求める?』
その問いに答えるチャンスすら無い。
しかし、グラキアスの手がかりが欲しいのは俺達だけではなかった。一番求めているのは悠希だ。
何度か砂漠の女から逃げ帰っていると、悠希がその姿を表した。
「俺も1人で何度か試したが……ダメだった」
「そやかてお前、答えの方はわかってるんか?」
「わかるも何も普通に考えて『自分のため』が不正解なら『他人のため』が正解だろ」
それはそうだが……本当にそれで上手く行くのか?多少心配はあった。それに……
「『他人のため?』だったら智樹は?お兄ちゃんのその強さは弱い者を虐げるために使うの?」
莉奈は協力的ではなかった。
「お前のその博愛の精神は立派だよ。でも、正論振りかざして偽善を働くのは違うだろ」
確かに、悠希の言い分もわかる。それに……
正解だけが未来を運ぶ訳じゃない。
「お前の弱者の正論は俺を虐げるんだよ。お前のその綺麗事は矛盾している」
「綺麗事は言っちゃいけない?理想を追い求めちゃいけない?」
莉奈は真っ直ぐだ。真っ直ぐ悠希だけを追って来た。
「綺麗事や理想では本当に愛する者は守れない。愛する者を守るためには、捨てるものも必要だ」
「捨てるもの……?私は……私や智樹は……捨てられたの?」
「捨てた。俺は現実世界全てを捨てて来たんだ」
同じだ。俺も、現実世界へ行った時に思った。
『全てを捨てて来た』
いや、違う。俺は結局、何1つ捨てる事無くこの世界に戻って来たわけだ……
「だが、今は必要だ。これも矛盾しているのはわかっている。もし俺を手伝うなら、お前を殺す事はしない」
悠希がそう莉奈に話していると、透けた女はどんどんゴーレムになっていった。
莉奈は何も言わず、悠希と戦った。
これで、悠希に殺される事は無いのかもしれない。だが、莉奈は許されてはいない。
何度か同時に攻撃して、三度目にやっと成功した。
「誰がために、その力を使う?」
「他人のためだ」
悠希はそう答えたが…………透けた女はまだ質問を続けた。
「他人とは誰だ?」
「愛する者」
「愛する者とは?誰だ?」
何だ?やたらと突っ込んで来るな、この透けた女。
「本当にその答えはお前の本心か?お前の愛する者の名前を出してみよ」
俺はてっきり悠希の口から『莉奈』や『智樹』と出ると思っていた。しかし……
「…………翡翠」
翡翠……?俺達は聞きなれない名前を聞いた。悠希が出した名前は、俺の知らない奴の名前だった。
悠希は……莉奈じゃないのか……?
殺したい相手が愛する者の訳が無い。そうはわかっていた。いたが…………
「第一の鍵は開けられた。次は第二の質問だ」
「まだ続くんかいな!」
透けた女は今度は、莉奈に質問した。
「本当に愛する者は誰だ?」
このタイミングでその質問は酷だ。
莉奈は……悠希と答えるだろうか?
かろうじて聞こえる声で、莉奈は答えた。
「……………………お兄ちゃん……」
「……………………」
莉奈の様子を見て、透けた女も空気を読んだのか、しばらく黙ったが次に進んだ。
「第二の鍵は開けられた。第三の質問に続く」
今度は俺に質問してきた。
「愛する者のために、死ぬ覚悟はあるか?」
「なんやそれ?俺だけここで死ぬんかいな?まぁ、死にたないが、莉奈を守る為ならいつでも死ぬ覚悟はできとるで?ま、莉奈は早々死なんやろうけどな~!」
「第三の鍵も開けられた。これで全ての鍵は開けられた。中へ進め」
そう言って透けた女はその姿を消した。すると、砂の山が一部盛り上がって、重厚な扉が出て来た。
「これが、グラキアスの入り口なのか?」
悠希が先にその扉を開けようとしていると、莉奈が追いかけた。
「待って!お兄ちゃん、智樹を返して。私達の事、許してくれなくていい。だけど、智樹は何も悪く無い。私は智樹を連れ戻しにこの世界に来たの。智樹は弱い。私にとっては弱くて守るべき者なの」
「…………好きにしろ」
悠希は智樹の入ったヴィトロを莉奈に渡すと、扉に入って行った。
莉奈はアイテム画面から『黒い砂』を選び、智樹のヴィトロに入れた。ヴィトロの水が少しずつ動き出し、中から水が溢れだした。その水はやがて智樹の形になった。
「莉奈!?どうしてここに!?」
「智樹~!無事で良かった!」
「いや、無事では無いやろ?」
智樹は俺を見ると、首を傾げた。
「これ、誰?莉奈の男?」
「いやいや!俺や!俺!俺!」
「オレオレ?で、ラルはどうしてこんな姿に?」
智樹はやっぱりちゃんと俺に気がついてくれた。
「色々事情があってな?俺、今は冒険者やねん」
「もふもふじゃないラルなんてラルじゃない……」
俺の姿に智樹は不服そうだった。
「良かった!智樹!」
そう言って莉奈は智樹を抱き締めた。
「やめろよ!そのデカくて硬いおっぱいが当たるだろ!」
「硬いとか言うな!マッチョみたいに思われるでしょ!?もう、その減らず口を取り戻すためにどれだけ苦労したか……お兄ちゃんには会えたけど……」
その悠希は知らない人を想っている。
そう、心の声が聞こえて来そうだった。莉奈は改めてその事に凹んでいた。
俺達が再会を喜んでいると、扉の中から悠希が戻って来た。
「どないした?グラキアスはあったか?」
悠希は黙って首を横に振った。
「どうやら中はダンジョンのようだ」
「そら、攻略して入り口にたどり着く感じか?なんや、グラキアスはえらいセキュリティ厳しいな」
そんな話をしていると、智樹が悠希の前に飛び出して来た。
「兄ちゃん、帰ろう!今度こそ莉奈と三人で帰ろうよ!」
「何度も言わせるな、俺は帰らない。言ったよな?今度俺の邪魔をしたらもうヴィトロは使わないで殺すって」
「殺されたっていい!モルスのヴィトロなら俺だって沢山持ってるし」
智樹と悠希を見て、莉奈が落ち着いて言った。
「智樹、止めて。もう、私達だけで帰ろう。悠希はこの世界でやりたい事があって……まだ帰れないんだって」
「やりたい事って何?『purus aqua』?そんなのあり得ないよ!死んだ人間が生き返る事なんてできないよ!死者の国から帰ったって、現実世界で生き返る事なんかできないんだよ?この世界にいる限りは死なないのに、甦りの水を探すなんてイミフだよ!」
智樹がそう言うと、智樹がその剣を振りかざした。
「智樹!!」
とっさに智樹の前に出た莉奈が、その剣を受けた。
「莉奈!!」
「姉ちゃん!!」
悠希に斬られた莉奈は、肩から血を流して倒れた。
「莉奈!!莉奈!!」
「何これ……痛み……ちゃんと……ある……」
「そらそうやろ!何言うてんねん!」
俺はすぐに莉奈に回復呪文をかけた。
間に合ってくれ!!
莉奈のHP数値がどんどん下がっていくのがわかった。
「……痛い…………最悪。ラル、モルスのヴィトロ使わないの?」
「それは最悪の場合や。いいか?モルスのヴィトロはそんないいもんやない。リスクもある」
俺は思い出したシステムの事を説明した。
「モルスのヴィトロにも、死の国と同様にペナルティがあるんや。丸1日現実世界の体に入る事ができなくなる」
「別に1日くらい……」
「現実世界の1日やぞ?こっちでは24日は戻られんのや。その24日の間に死ねばまた24日。1ヶ月も留まれば、帰る気の失せる奴も出て来るわ」
そうやってこの世界に留まらせ、肉体を失わせる。『purus aqua』これはそうゆう殺人ゲームだ。




