17、砂漠
17、砂漠
「無い!!」
リーリアがその風景を見て言った。
「だから、無い言うたやん!」
そこには何も無かった。いや、何も無いはずがない。
今度はルビーが言った。
「無い!!」
「いや、だから何度も言うたわ!」
目の前に広がるのは、砂漠だった。
グラキアスと聞いて、スキーだのスケートだのと言って、リーリアとルビーがついてきた。そのルビーに、トパーズがついてきた。
「国が無いとは知ってましたわ。でも、雪まで無いとは!!」
「雪の国と違うわ!氷の国や!」
今は雪のひと欠片もない。
「グラキアスは消えた国って言うたやん!俺言うたよな?何度も言うたよな?なぁ?」
俺達は、砂漠の前で立ち尽くしていた。
すると、莉奈も呟いた。
「無いわ……」
「それは違う意味でやろ?」
莉奈は昨日の惨状に納得いかないようだった。
「いくらモルスのヴィトロを使ったからって……あんな風に簡単に人を切るなんてどうかしてるよ」
「そやかて、あれはお前を守るためやろ?」
「だからってあれは過剰防衛だよ!」
残党を残しては、また莉奈やリーリアが襲われる可能性がある。それはこちらのやむを得ない事情だ。それはわかっている。
すると、黙っていた悠希が珍しく口を開いた。
「文句を言うなら自分で倒せば良かったんだ」
「自分で倒す前に倒してたでしょ?それに、私は一言も『助けて』なんて言って無い!」
「莉奈、そら可愛く無いわ~」
そんな様子で、砂漠は険悪な雰囲気だった。そんな険悪な雰囲気を他所に、砂漠を散歩していたルビーは陽気に歌っていた。
「大型バスに乗ってます~♪切符を順に渡してね♪」
古いバスの歌か……すると、トパーズが突っ込んだ。
「ルビー様、今乗っているのは大型バスではありませんよ」
確かにそうだ。ルビーは大型バスには乗っていない。乗っていたのは…………
「チート、バスになって~!」
「ルビー様、チートは猫ではないのでバスにはなれませんよ」
「何で巨大ネズミまで連れて来たんや!」
もはや遠足のようだった。遠足のつもりでグラキアスへ来た訳じゃない。
「チートは巨大ネズミじゃない!アルマジロだもん!バスにも丸にもなれないアルマジロだもん!」
そう言うとルビーは巨大アルマジロから降りて、砂漠を砂場にして遊んでいた。
そんな呑気な奴らを残して、俺は砂漠に何か手がかりが無いか、オアシスと砂漠の境目を1人で歩いた。
「珍しいですね」
「ああ、人が乗れるサイズのアルマジロは珍しいな……」
!!!?
気がつくと、俺達の目の前に人がいた。
「いえ、そうでは無くて、ここに人が来るなんて珍しいって話です」
驚くほど透き通る肌の女だった。透き通り過ぎて、本当に透けてしまいそう…………
ん?足……透けてる…………?
「透き通ってる!!」
「はぁ?ラル、何に驚いてるの?」
後ろには、莉奈と悠希がついて来ていた。
いや、あれはリアルなやつ!普通の人は見えちゃいけないやつ!
莉奈と悠希はこの女が透けているのに全く疑問を持たなかった。
「いや、あの人透けてんで?」
「あれは透ける水でも使ったんじゃないの?」
この砂漠でか?一体何のために?
俺が疑問に思っていると、その透けた女は砂の上に寝始めた。
「そちらの冒険者はなかなかのようですね。その強さを我に示せ」
すると、その女に砂漠の砂が勢い良く吸い付き、どんどんその体について行った。俺達三人はその光景を呆然と見ていると、その女についた砂はみるみるうちにゴーレムになった。
「ぎゃ~!!出た!!」
「力を示せ?その台詞、金のオッサンも言ってた!じゃあ、倒せば何かあるかも!」
「やっぱり火の国の番人行っとったな……」
そのゴーレムを目の前に三人はすぐに戦闘態勢に入った。
「砂に有効な水は…………」
水と言えば、碧の騎士の莉奈の方を見たが……莉奈は魔法使えない。しかも、持っていた武器も碧の属性の物じゃなかった。
「お前、いい加減出刃包丁やめぇ!」
相変わらず、莉奈の武器は出刃包丁だった。
「だって変える暇無かったし、トパーズがこれ強化してくれちゃったし……」
悠希は莉奈の武器に目を丸くしていた。
「それが……武器!?」
「まぁ、その反応が普通やな。俺かて何が悲しくて毎回莉奈の攻撃スタイル突っ込まなあかんのや?もはやそれはメンヘラや!」
「それなら……こっちもあるよ?」
そう言ってアイテム画面から取り出したのは、一本の欠けた木刀だった。
「あの時の木刀!?そんなもので戦えるのか!?ここは始まりの森じゃないんだぞ!?」
「いや、莉奈はプールスから出てもしばらくこれで戦ってたで?」
これは智樹が拾ったそこら辺の木でできた、蒼の気をまとった木刀だった。
「莉奈、いいか?自分の身を自分で守るのが基本だ。俺はお前みたいにふざけて周りの足を引っ張る奴が一番嫌いだ」
「ふざけてないよ!流れでそうなっただけで……」
「お前はいつもそうだ。いつも周りに助けられて、迷惑をかけて、結局自分の我が儘を通す」
その兄弟喧嘩は、ゴーレムによって遮られた。
「そろそろよいか?こっちも砂でいるのも楽じゃ無いんだが?さぁ、その強さを示せ」
ゴーレムはそう言って腕を振り回して来た。
三人は攻撃を避けながら何とかそれぞれ一発ずつ攻撃を当てた。しかし、ゴーレムはその形を変え元の形にもどった。その攻撃は、砂の中の女が少し見え隠れしただけで、全く効いていないようだった。
「中の方にちゃんと当たるように、素早く連続攻撃が必要やな」
「無理だよ!全力で当ててあれだけしか動かないんだよ?」
ここは、三人の協力が必要だった。
「なあ二人とも、ここは三人一緒に攻撃してみんか?」
「私、一緒にできるかな?」
「できるかな?じゃなくて、やるんだ。完全に一緒でなくても、砂の体が戻る前に中の敵に当てられればいい」
悠希がゴーレムの攻撃を避けながらそう行った。
「まぁ、ものは試しや。いくで?せーの!」
最初の攻撃は一番素早い悠希、次に俺。莉奈が留目を差した。いや、正確には、留目を差そうとした。
莉奈は中の女が砂から出て来ると、その攻撃を途中で止めた。すると、悠希は激怒した。
「莉奈!どうしてチャンスを生かさないんだ!?」
「だって中は女の人だったし……」
「女だからって何だ!?女だから可哀想?だから生かす?そんな甘い考えが敵に通用すると思っているのか!?」
悠希の言う事が正論だった。しかし…………
ゴーレムの動きが止まった。
「誰がために、その強さを持つ?」
誰がため……?
ゴーレムは悠希の前に立ち、質問を投げかけた。
「答よ。誰がために、強さを求める?」
悠希は答えた。
「自分のためだ。自分が生き残り、目的を果たすための強さだ」
「…………私欲に溺れ、己の力を過信する者よ。お前にその扉は開かれる事は無い」
そう言って、ゴーレムは砂に返り、跡形もなく消えた。透けた女の姿も、もうどこにも無かった。
「何も……無くなっちゃった……」
莉奈はその光景を見て呟いた。
「恐らくは失敗やろうな。あのゴーレムの望む答えを出さなければ、消えたグラキアスの手がかりは掴めんって事やろうな」
俺達は悠希の方を見ると、悠希は下を向いて拳を握りしめていた。
「莉奈が仕留めていれば……」
「ちゃうわ悠希、少し落ち着け。おそらくここは女を砂から出した時点で質問されるシステムや」
すると、莉奈が悠希に言った。
「お兄ちゃんの目的って何?どうして『purus aqua』が必要なの?どうしても必要なの?私や智樹を殺したいほど?」
その問いに、悠希が答える事は無かった。その後、悠希はすぐに姿を消した。




