第37話 オンタリアの隠し財産
「おい、ここの穴をさっさと塞げ!」
「無茶言うなよ……こっちは、さっきから魔法を使いっ放しで魔力が少ないんだ」
「なに! お前らは、こういう時に役立つ為についてきたんだろうが!」
湖畔都市オンタリアの中。
荒れる兵士たちの声が響き渡る。
「五月蠅くてすみません」
隣を歩くホルクス将軍が謝ってくる。
「いえ、気にしないでください。彼らの気持ちも分からない訳ではないですから」
多くの仲間が死んだ。
しかも、女神セレスの攻撃によって死体すら残らない状況だ。
おかげで、被害状況を確認するのにも苦労していた。
「――都市の北側は壊滅……いいえ、消滅してしまいました。さらに運の悪いことに都市へ真っ先に逃げ込もうとしていた兵士たちが攻撃に巻き込まれた結果、我が国の軍だけでも被害は半数近くになると予想されます」
「……そうですか」
半壊。
とっくに撤退を考えなければならない事態。
しかし、撤退する為に必要な戦力が整っていると言い難い状況。
「最も辛い被害は先に都市へ入っていた輜重隊がやられてしまったことです」
食糧を運んでいた輜重隊。
隊員だけでなく食糧まで一緒に消えてしまったため今のままだと食糧なしで来た道を戻らなければならない。
「どうするつもりですか?」
「ここは湖畔都市です。村よりは多くの食糧が保管されているはずですから、それらを回収したいと思います」
「足ります?」
半壊したと言うが、それでも1万人近い人間がいる。
行軍するなら満足な食糧が必要なうえ、数日分ともなれば相当な量になる。
それらが魔物に食い散らかされていない事を祈るばかりだ。
「もし、オンタリアだけで足りない場合は当初の予定通りに帝都ウィングルへ向かいます」
「……ここまでついてきてくれましたし、後は俺たちだけでも大丈夫ですよ」
道中に迷宮眷属がいたせいで結局俺たちも戦闘することになってしまった。
おまけにオンタリア湖に女神セレスがいた。湖や川に魔物がいないという話もどこまで信憑性があるのか分からない。
もう迷宮へ辿り着くだけなら俺たちだけで一気に辿り着いてしまった方が早い。
「いえ、ホランド将軍によれば王城の地下に大量の備蓄があるようなのです。それを頼ろうかと思います」
オンタリアからウィングルまで辿り着けるには十分な食糧がある。
そこで、大量の備蓄が得られれば撤退も可能。
問題があるとすれば魔物に喰われていないかだが……
「よほどの魔物でなければ入ることができない仕掛けが施されているそうですので、残されているはずです」
「……もしもの場合はケルディックで手に入れた備蓄を出します」
「アレは不正な手段で備蓄されていた物ですから、色々と処理が面倒なんです。できることなら手は付けたくないですね」
真面目な軍人らしく不正物品には手を付けるつもりがないらしい。
その後、ホルクス将軍は今後の予定を話す為に離れていく。
「マルス」
都市の様子を確認しているとホランド将軍を連れたイリスが近付いて来た。
「そっちはどうですか?」
「全滅と言っていいです。今までの行軍で恐慌状態に陥っていた者たちは真っ先にオンタリアへ逃げ込みました。そのせいで、私と副官を除く全員が消えてしまったというのは皮肉な話です」
ガルディス帝国軍の生き残りは、とうとうホランド将軍と二人の副官だけになってしまった。
たった3人では軍とは呼べない。
「もう、我が軍が役立てるのは帝都とイルカイトの隠し通路を教えるぐらいです」
「やっぱり、あるんですね」
「万が一の脱出用です」
それが得られるだけでもありがたい。
「どこへ行ったのか知りませんが、今の帝都にドラゴンはいません。それでも、安全に出入りできる場所があるのはありがたいです」
「いえ、本当に情けない話です」
ホルクス将軍には証人として最後まで生きてもらう必要がある。
「それで、副官に用事があるとか?」
「正しくはオンタリア出身の人物ですね」
ケルディックを出発した時にはオンタリア出身の兵士が何人かいた。
しかし、副官を除いて全員が死亡してしまったようなので諦めていたが、生き残りがいるなら都合がいい。
「女神セレスの攻撃によってオンタリアは半分が消滅してしまいました」
「そういえば、彼の女神は逃げたと思ってよろしいのでしょうか?」
「今のところは、そのように考えてもらっても大丈夫だと思います」
オンタリアを半分消滅させたことで満足したのか女神セレスはキリエのスキルによって離脱していた。
既に周囲から二人の気配が感じられない事から離脱したのは間違いない。
「結局、あいつらのいいように扱われていたみたいです」
餌と目覚ましに利用された。
「そうかもしれません。ですが、貴方たちがいなければ全滅していたのは間違いありません。命を助けられた者として感謝します」
「一応、礼は受け取っておきます」
イリスと共に都市の北側へ向かう。
そこでは、副官と共にシルビアたちが状況の確認をしていた。
「随分と寂しい光景になってしまいました。以前は、この場所に大神殿が建っていたのですが……何もなくなってしまいましたね」
周囲一帯には更地が広がっていた。
副官の話によれば大きな神殿が建っており、多くの人が恵みを齎してくれる女神に祈りを捧げていたらしい。
しかし、そんな光景を思い起こせる事ができないほどに消滅していた。
「しかも、それを成したのが女神本人なんですから皮肉な話です」
寂しく更地を眺める副官。
感傷に浸るのは構わない。だが、確認しなければならないことがある。
「本当に何も残されていないのか?」
「はい」
シルビアが肯定する。
何もかもが消えてしまったことで財産らしき物が何も残されていなかった。
「神殿なら寄付金とか凄そうだったんだけどね」
「ははっ、たしかに貯め込んでいたという噂は聞いたことがあります。しかし、この状況では貯め込んでいた財産も一緒に消えてしまっていますね」
乾いた笑みを浮かべるホルクス将軍。
ケルディックのように隠し財産を期待していたのだが、どうやら不発に終わってしまったようだ。
「はぁ……ここに神殿があったのは間違いないみたいなんですけどね」
「そうなのか?」
「はい。これを見てください」
溜息を吐きながら屈んだシルビアが瓦礫の下にあった物を見るよう言ってきた。
「これは……何かの台座か?」
「はい。おそらくですが、ここに女神セレスの像が建っていたのではないかと思います」
台座の基礎部分だけが残されていた。
上にあった部分は全て消し飛んでしまい、何があったのか想像することもできない。
「その通りです。神殿の周囲には女神様を象った像がオンタリアに住む人々を見守るように6つ配置されていました。場所からして神殿の裏にある像ではないかと思われます」
「へぇ」
副官の言葉に感心しながら何気なく基礎部分を持ち上げてみるシルビア。
「あ……」
すると空洞部分になっているのを見つけた。
「神殿の下には地下室があったので期待していたのですが、何もなくて落胆していたのですが、どうやら別の場所に財産は隠されていたようです」
空洞部分に手を突っ込んでいくシルビア。
罠もないようなので警戒をしていない。
「見てください!」
掲げられたシルビアの手に掴まれていたのは大量の白金貨。
金貨の100倍の価値があるのだが、1枚の価値が高すぎるため一般では目にすることができない金貨。
そんな物が大量に埋蔵されている。
「まさか、ここまでの財産を隠していたなんて……」
ホランド将軍が呆れている。
「これは俺たちの方で預からせてもらいますね」
「あ、ああ。私たちでは安全に持ち帰ることができるか怪しい状況になってしまいました。今後に役立ててくれるなら構いません」
オンタリアに残された財産を諦めていたが、妙なところでシルビアの【神運】が発揮されてくれたことで見つけることができた。
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