第38話 帝都の秘密通路
帝都ウィングル。
巨大な都市で、十数万人が住んでいると言われている。都市の外周は分厚い壁に囲まれており、敵の侵入を防いでいる。
まさに鉄壁。しかし、今は都市の中に魔物が入り込んでいるせいで逆に人間の侵入を難しくしている。
今までに立ち寄った都市は魔物が一時的にいなくなっていた。ところが、帝都には未だに魔物が居座っている。いや、それでもマシな状態だ。
そんな帝都が見える丘の上にある朽ちた神殿を思わせるような建造物がある遺跡に身を隠しながら俺たちパーティと軍の幹部だけが集まって会議を行う。
「これからの進路について話をしたいと思います」
情報をもたらしてくれるのは帝都について最も詳しいホランド将軍。
「この遺跡の地下には巨大な空洞があります。そこには帝都まで一直線に続いている隠し通路がありますので、そちらを通って帝都へ侵入します」
「帝都近くにある遺跡については聞いたことがある」
ガルディス帝国について情報を聞いていたホルクス将軍は、当然ながら帝都の近くにある怪しい遺跡について聞いていた。
「だが、既に冒険者の手によって探索し尽くされた遺跡だと聞いている」
昔から都市の近くにある遺跡。
そんな場所を探索していない訳がなく、財宝の類は奪い尽くされた後で、歴史的価値があるような物も残されていない。
だから、グレンヴァルガ軍も重要視していなかった。
「実は皇帝だけが知る隠し通路が存在します」
「なに!?」
見つけたのはアムシャス皇帝。
迷宮主としてのスキルをフルに使うことで帝都の付近に何があるのか確認したものと思われる。
「私もユスティオス皇帝から話を聞いただけです。どのような場所なのかは全く分かりません」
事前情報もないのに、そんな怪しい場所へ行きたくない。
ところが、そうも言っていられない状況になってしまっていた。
「当初の予定では、帝都を一時的に奪還した後に彼らを休息させてイルカイトまで行けるようにする、という事でしたが現在では不可能です」
生き残っている戦力は約1万。
もう、籠城どころか都市の奪還ができるような戦力ではない。
「隠し通路は城の地下に繋がっています。ここが使えれば魔物と遭遇することなく食糧も奪い返せるはずです」
魔物がうじゃうじゃいる帝都。
しかし、帝都にいる魔物よりも外にいる魔物の方が多い。どのような場所を通ろうとも魔物との遭遇を避けることはできない。
戦闘により疲弊した兵士を思えば、戦闘を避ける選択肢を取るのは仕方なかった。
「俺たちからも一つ言わせてもらいます。食糧を確保した後は別行動を取りましょう」
「それは――自分たちだけでイルカイトまで向かうということか?」
「もうここまで来たら護衛は不要です」
ゴールは目前。俺たちだけなら一気に駆け抜けた方がいい。
ただし、こんな場所で見捨てていくのは忍びない。
「進もう」
遺跡の中へ入って行く。
昔は祭事場として利用されていたのか規則正しく柱が並べられており、奥へと続いていた。
そして、この場所が遺跡と呼ばれる理由が最奥にあった。
「ここから地下へ潜ることができます」
ポッカリと空いた広い入口。
下へと続く階段があり、地下へ行くことができるようになっていた。
階段は灯りなどないため、兵士たちの持つ松明の灯りだけを頼りに進む。
「これは……」
「気付きましたか」
壁を見つめるメリッサにホランド将軍が気付いた。
「日記でしょうか」
「読めるんですか!?」
「はい。所々ですけど……」
ホランド将軍は、メリッサが壁に文字が刻まれている事に気付いたことに対して最初は感心していた。ところが、文字の意味まで理解できると知って、さらに驚かされることになった。
「使われているのは古代文字です。それも、かなり特殊な使い方をしていたみたいです」
「考古学者たちも資料を片手にしながらでないと解読できない、と聞いていたのですがどうやって読んでいるのですか?」
「普通に読んでいるだけです」
「え……」
「あ、少し前に古代文字に触れる機会があったので、その時に覚えました」
「そういえば見覚えがあるな」
壁面に書かれている文字はゴーレムの生産工場だった遺跡で使われていた文字と同じだ。解析を行っていたメリッサなら使われていた言語も覚えて解読できるようになっていたとしてもおかしくない。
「この場所は、当初は別の目的で利用されていたようなのですが、頑丈で環境を保つことができたことから古代文明が崩壊する切っ掛けとなった『大災害』時に避難場所として利用されるようになったのです」
迷宮以外にも避難施設となった場所はあった。
「その時に何が起こっていたのか。必死に遺そうと壁に記した、と考古学者たちは言っています」
だから、日記か。
「……どうやら、そんな高尚な文章ではないようです」
「メリッサ?」
「いえ、先を急ぎましょう」
壁を見ながら呟くメリッサ。
俺たち以外には聞こえなかったみたいで下へ向かう足を進める。
「な、なんだここは!?」
兵士の一人が最下層の様子を見て叫んだ。
辿り着いた場所は、天井が高い場所にある鍾乳洞。
天井から氷柱のように尖った土が下がっており、地面からも棘のように土の柱があちこちへ飛び出している。
「元々は平坦な場所だったと予想されています。ですが、地脈を流れる魔力の影響を受けて地形が変化したと言われています」
「でも、これは……」
場所によっては人が通れるほどの広さしかない場所がある。
迷宮にある洞窟フィールドよりも生活が苦しい場所。とても、こんな場所で避難した人たちが生活していたとは思えない。
「いえ、ここまで酷くなったのは最近の話らしいです」
「そうなんですか?」
「はい。私も報告を受けていただけですが、ここ数年の間に地脈の流れに大きな変化があったらしく影響を受けた遺跡の地下が大きく変化したらしいです」
「なるほど」
神様の顕現が相次いだ。
それにより、地脈に何かしら影響が発生していたとしてもおかしくない。
「先を急ぐことにしましょう。ここでは魔力を多量に含んだ土や岩を主食にする土竜みたいな弱い魔物しか出てこないと言っても危険な場所であることには変わりありませ……」
「シッ」
遺跡の地下について説明しようとしたホランド将軍へ静かにするよう言う。
鍾乳洞の奥から気配がする。
誰かが息を呑むのが分かった。いや、もしかしたら全員なのかもしれない。
「何か、いる……」
誰か人が近付いてきているのか足音が聞こえる。
「お前は……」
「はじめまして」
現れたのは栗色の髪をショートにして眼鏡を掛けた女性。手には分厚い本を持っており、鍾乳洞になっている地下には相応しくない知的な女性だ。
だが、纏っている気配が普通ではない。
「ゼオンの眷属か」
「はい。最後の一人――テュアルです」
女性――テュアルはあっさりと肯定した。
「皆さんを鍾乳洞の奥――城の地下までご案内します」
「敵であるお前が?」
「一つ勘違いを訂正しておきましょう。私たちは、自分たちの目的の為に協力し、力が必要だからこそ彼の眷属になりました。ですが、お互いの目的は相反する場合もありますので妥協点を模索して行動を起こしました」
「つまり、現状は貴女の目的に合っていない?」
「はい」
テュアルの言いたい事を簡潔にしたメリッサの言葉が肯定された。
「私はウィングル王国における公爵家の末裔の一人です。貴方たちを無事に帰らせることを約束します。その代わり、私からの条件を呑んでもらうことにはなりますが、それぐらいはよろしいですよね」
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