第17話 ガルディス帝国攻略会議-前-
夜。
会議用の大きな天幕に大勢の人が集められていた。
「先ほどガルディス帝国の降伏が正式に成された」
『おおっ!!』
どよめく会議参加者たち。
グレンヴァルガ帝国側の軍人の多くが目標にしていた事が達成された事を知って喜んでいた。
ただ、複雑な表情な者もいる。
「アレを全面降伏と言っていいのでしょうか……?」
家臣として同行し、急遽必要になった書類を用意した男性だ。
放心状態のまま書類にサインをするユスティオス皇帝。たった1日の間で肉体的にボロボロにされ、尊敬していた人を貶められたことで精神的にも追い詰められた結果だった。
まあ、ガルディス帝国の降伏はどうでもいい。
「だが、やらなければならないのはこれからだ」
「ガルディス帝国の現状をどうにかすること、ですね」
将軍の言葉にリオが頷く。
会議に参加しているグレンヴァルガ帝国の関係者の表情も決意に満ちている。
「……」
ただし、同じように会議に参加しているガルディス帝国の将軍の3名の表情は暗い。
そう、この場にはグレンヴァルガ帝国の関係者だけでなく、ガルディス帝国の者も集められている。自国が本当の意味で亡んでしまったのだから表情が暗くなるのも仕方ないだろう。
「そんなに気落ちするな」
「だが……」
「これからの作戦には、お前たちにも参加してもらうんだ。そんな調子だと使い物にならないだろ」
ガルディス帝国の三人には構うことなく机の上に大きな地図を広げる。
「これは……」
「正確な地図だろ」
広げられたのはガルディス帝国の地図。
ガルディス帝国の将軍の目から見ても正確に記された地図だった。
「伊達に何十年も意味のない戦争をしていた訳じゃない。大昔なら、いくつもの国が混ざって地図を何度も更新させないといけなかったけど、ここ100年ぐらいは凄く落ち着いていたから地図を作る意義があったんだ」
地図ほど戦争で必要不可欠な物はない。地図がなければ攻め入る場所も定められないし、敵の行動を予測することもできない。
戦場となっているオネイロス平原から攻め入ることは少なかったが、戦場での行動を定める為に必要な物だった。
ガルディス帝国は『T』字のような形をしており、俺たちが現在いるオネイロス平原は南の下端。北東には大きな湖があってガルディス帝国を潤す源となっている。
リオは地図の上に駒を五つ置く。その中でも北西にある山脈の手前にある都市へ大きな駒を一つ置く。
「最終目的地はここだ」
「迷宮都市イルカイト」
将軍が言ったように迷宮都市イルカイトはガルディス帝国の北西にある。
「お前たち3人は知らないだろうから、まずはこの映像を見ろ」
「……!?」
空中に投映される都市の映像。
上空から撮られたものだったが、将軍たちにはどこの映像なのか一目で分かった。
「帝都ウィングル……」
都市へ何百、何千という数の魔物が押し寄せている。
あれでは、どれだけ堅牢な都市であっても瞬く間に滅ぼされる。
「今のは今朝の映像だ。俺の使い魔が撮影した」
「も、もっと最新の映像は!?」
「これ以上の監視は難しいだろうな」
上空にいる鷲。
サファイアイーグルが顔を下から後ろへ向けるとドラゴンの姿が見える。サファイアイーグルを追うドラゴンがブレスを吐いて撃ち落とそうとしている。
急旋回してブレスを回避すると帝都の上空を離れる。
「いくら特殊な空を飛べる魔物であってもドラゴンに勝つのは不可能だ。敵が偵察を阻むようになった以上、もう情報は得られないと思った方がいい」
帝都から見て西からやって来たドラゴン。
地図の中央付近に置かれた駒を見ていた瞳が自然とイルカイトへと向けられる。
「あのドラゴン……いや、それだけじゃない。他の魔物も全てイルカイトから現れたんですね」
「正確にはイルカイト内にある迷宮だな」
次に表示されたのは迷宮都市イルカイト。
ただし、帝都とは違って都市を魔物が襲っているのではなく、都市から多くの魔物が飛び出してきている。
「これが数十体規模なら都市を制圧した魔物が他の都市を襲う為に出ている可能性もあったけど、絶えず出て行く魔物がずっと続いている」
「ずっと?」
「ずっと」
もう監視することはできていない。
それでも、今も魔物が排出され続けていることが予想できる。
迷宮から溢れ出た魔物がいったい何万体になっているのか想像もしたくない。
「あの時は、いきなり襲撃は始まってどこから来ているかなんて予想することすらできなかったけど……」
彼らは帝都の治安を守る部隊を預かっていた将軍。
戦争によって多くの兵士が駆り出されていたとしても国内の治安を守る人員は必要になる。ただし、軍人にとって功績を残すことができる花形は戦場。地味な場所へは彼らのような平民出身の将軍が就かされていた。
急激な併合により、組織内の権力が歪なため常に争っていたため平民出身の優秀な者は追いやられていた。
しかし、今回はその権力争いが功を奏した。
「それで、何をするつもりなんですか? まさか都市の奪還を目論んでいるんじゃ……」
それは、将軍として願ったり叶ったりだった。
「いや、都市の一つや二つを奪い取ったところで再び奪い返されるのがオチだ。真っ先にやらないといけないのは魔物の供給源を断つことだ」
つまり、迷宮を攻略して迷宮を無力化する。
「あの……」
ユスティオス皇帝が降伏を申し入れる場面にも立ち会った家臣が手を挙げる。
「あの時に現れた青年が『迷宮主』だというのは真実なのでしょうか?」
「真実だ」
「では――皇帝陛下と冒険者マルスも迷宮主だというのは?」
今さら隠し立てることはできない。
最後に意思を確認するように俺を見て来たので頷く。
「そうだ。俺だけでなくマルスも迷宮主だ。奴には迷宮主として世話になった。その時の恩もあって色々と協力関係を築いているうちに今回みたいな騒動が起こったという訳だ」
「そういう事情がありましたか。疑問が解けました」
「悪いが、これはここだけの秘密にしてもらう。もしも、秘密を洩らした者がいたなら命を以て償ってもらうことになる」
『はい!』
リオの問いに全員が頷いてくれた。
これで、この場にいる全員に【誓約】の呪いが発動させられた。
「敵は迷宮の力を自由自在に利用することができる。普段の迷宮は、迷宮にいる魔物や罠が危険となる。だが、今回は迷宮そのものが敵だと思った方がいい」
それだけ危険な場所へ行かなければならない、ということが全員に分かってもらえたはずだ。
「攻略先が迷宮である以上、軍隊のように大人数を投入しても効果が薄い。迷宮を攻略するなら少人数のパーティの方が望ましい」
限られた広さしかない洞窟。
砂漠のように暑ければ、雪原のように寒くなるなど、極端に環境が変わることもある。大人数の分を用意する余力はない。
「迷宮主のいる迷宮だ。攻略するなら同じように迷宮主のパーティでないと成功する可能性はないと言っていい。そうなると、俺かマルスのパーティぐらいしかないんだが……」
「陛下にそのような危険な場所へ行かせるなどあり得ません」
「その通りです」
家臣の反対にあってリオたちが赴くことはなくなった。
「だが、マルスたちは冒険者だ。迷宮を攻略してもらうよう『依頼』を出すなら報酬が必要になる」
報酬に関しては、執務官から既に提案があった。
「まず攻略途中で手に入れた財宝に関しては、全て冒険者マルスの所有物となります。ただし、あくまでも攻略を優先してもらいます」
財宝の回収を優先させて攻略が疎かになるなどあってはならない。
「それから――イルカイトへ到達するまでに解放する予定の『モンストン』、『レジャーナ』、『ケルディック』、『オンタリア』、『ウィングル』、『イルカイト』の6つの都市から回収することができた財宝についても3割を譲渡することで協力してもらえることになりました」
☆書籍情報☆
活動報告にてキャラデザ公開しています。
表紙はヒロインのシルビアが大きく描かれていますよ!




