第18話 ガルディス帝国攻略会議-後-
財宝の三割譲渡。
これから攻略する都市には帝都も含まれている。そこから得られる財宝ともなれば途方もなく、三割であっても一生を遊んで暮らせるだけの金額になるのは間違いない。
それだけグレンヴァルガ帝国は、今回の攻略に本気だということだ。
「あの……」
「なんだ?」
「迷宮の攻略が目的なのに、どうして都市を解放する必要があるんですか?」
ガルディス帝国の若い将軍が手を挙げる。
「もっともな意見だな。まずは各都市の今朝の光景を見てもらおうか」
空中に上空から監視した6つの都市が映し出される。
「魔物が少ない……?」
「そうだ。都市の広さに対して、都市内にいる魔物の数は少ないんだ」
大通りを見れば数十体の魔物がウロウロしている。
が、それでもガルディス帝国の人々が逃げる時に体感したほどの数がいる訳ではない。
「どうして……?」
「魔物が都市を襲撃する理由は多くの人間がいるからだ」
魔物にとって人間は自らを強くしてくれる餌でしかない。
生きていくだけなら自然にある魔力を吸収するだけで十分だ。
「ところが、人間を追い出したことで餌がなくなってしまった。しかも、魔物には厄介なことに都市は人間が住み易いように作られた場所だ」
魔物が好むような場所に都市は作らない。
そのため都市内にある魔力は薄く、餌となる人間がいない状況では魔物にとって都市は生きにくい場所となる。
「多くの魔物は既に外へ出て行ってしまっている」
外へ逃げた人間を追う魔物。
森や洞窟など本来の住み易い場所へ移動した魔物。
「人間を追い出したことは魔物にとっても不本意だっただろう。だが、命令に縛られているうちは追い払うだけに留めないといけなかった」
不満だらけの彼らは、追い出したことで役目を果たして生き辛い都市から出て行った。
今、都市にいるのは問題なく生きていられる魔物ばかりだ。
それと、完全な支配下にいる魔物。
「もう一つ理由がある」
「それは?」
「マルス。お前たちなら、迷宮都市イルカイトまでの距離を移動するのにどれだけの時間が必要になる?」
リオの確認に俺は即答する。
「早朝にここを出れば陽が暮れる前には辿り着くことができる」
「なっ……!」
将軍たちが言葉を失っていた。
ガルディス帝国の軍事を預かる彼らは、迷宮都市イルカイトまでの正確な距離を理解していた。馬車を利用すれば1週間は掛かる距離。それを走って1日で到着するというのは信じられない。
けれども、俺の真剣な表情から嘘ではない事を理解していた。
「ま、現状を考えると絶対に不可能だけどな」
1日で到着することができるのは平時の話。
さらに平時なら急ぐ必要もないし、急いだことで目立つので速度を抑える。当初の予定では3日を予定していた。
「今は途中に魔物がうじゃうじゃいるんだ。迂回するにしても迎撃するにしても時間は取られることになる」
「そうなんだよな」
「こ、これは……!」
次に表示されたのは平原の様子。
ケルディックとウィングルの間にある平原だ。
「マルダバ平原はガルディス帝国の農業を支える重要な農耕地帯となっている。おかげで自然豊かで、見晴らしのいい場所となっている」
そんな場所だからこそ魔物が好む魔力が豊富な場所となっている。
さらに見晴らしが良いため魔物に見つからず進むのは不可能だ。
どうしても、戦闘の避けることができない地域。
「こんな広域を迂回していたら俺たちでも1日で辿り着くのは不可能だ」
「さらに道中の魔物は途方もない数だろうからな」
魔物に命令されているのはガルディス帝国にいる人々をグレンヴァルガ帝国へ追い払うこと。
ただし、ゼオンの目的を考えると逆にガルディス帝国の奥へ行こうとしている人間には適用されない可能性がある。
「移動に数日は確実に必要になる」
その間、休む必要も出てくる。
しかし、魔物が大量に溢れている状況では体を休めるのもままならない。
「作戦を説明しよう。都市へ軍隊を投入して、都市内にいる魔物を殲滅。その後、【土】魔法が使える者で壊された外壁を修復する」
外観の事など気にせず頑丈な壁を用意する。
それで外からの襲撃に耐える。
「ですが、他の都市はどうだったのか知りませんが、帝都は襲撃が始まってから数時間で耐えられなくなりましたよ」
「壊されたのか?」
「……いえ、耐えられないと判断して住民を逃がすことを優先させました」
帝都崩壊が判断されるまでの数時間は耐えることができた。
「頑強さを優先させれば1日ぐらいは耐えることができるだろ。現在の状態を見させてもらったけど、門周辺の脆弱な部分が壊れて魔物の侵入を許してしまったみたいだ。そこさえ修復することができれば再度利用することは可能だ」
「なるほど……」
言葉では納得したものの一度魔物の大規模な襲撃を経験した将軍は心のどこかで納得していないようだった。
「悪いが、無理やりにでも納得してもらう」
「なぜ、ですか?」
「マルスたちパーティは迷宮攻略に温存する。都市奪還では予想外に強い敵が現れた場合にのみ協力してもらうからだ」
最後にウィングルで体を万全な状態にして、イルカイトへと一気に攻め入る。
軍には道中の協力をしてもらうつもりだ。
「ガルディス帝国軍が主力で攻め入ってもらう」
「お、俺たちがですか……!?」
「そうだ。さすがに帝国内の地理に我が軍はお前たちほど詳しくない。だが、お前たちなら魔物に見つかり難い場所や秘密の抜け穴なんていうものも知っているんじゃないか?」
「……」
3人の将軍が黙ってしまう。
大都市となれば緊急時にのみ利用できる秘密の出入口が存在するはず、なんていう妄想から言ってみたはずなんだけど……
「あるのか」
「……元々が王族の住まう王都として利用されていた都市をそのまま利用しています。なので、王族だけが知る秘密の抜け道は存在しています。ですが、将軍である私たちには知らされていません」
「領主なら知っているのか? おそらく、そいつらもここへ避難してきているはずだから捕まえて……」
「いいえ、領主にも知らされていません」
「なら、誰が--」
「皇帝です」
緊急時の脱出用として造られた秘密の抜け道。
ところが、今はクーデターが起こった際に知られず侵入する為の場所として皇帝にのみ知らされていた。
「奴ならちょうどいい。今なら領主よりも簡単に口を割ってくれそうだ」
嫌とは言わせない。
「で、ですが……あのように危険な場所へ行くのは……」
「危険だからお前たちに行ってもらうんだよ」
「え……」
魔物で溢れた国など鍛えられた兵士でも危険だ。
殲滅するつもりがなかったとしても、どれだけの人数が帰還することができるのか分からない。
「お前たちには協力してもらう。支援を約束したが、数百万人を養えるほどの余裕は大国でもない。対応としては、全員に与えられる支援の量を均等に減らすか、それとも何らかの理由で差をつけるか」
その理由を握ることができる立場にいるのがリオだ。
「今回の作戦に参加した兵士と家族には十分な量の食料が行き渡るよう優遇をしよう。危険な任務の対価が十分な支援だ。残念だが全員に十分な食料を行き渡らせるのは不可能だからな」
財宝を返還することができれば用意することは可能だ。
ただし、その為にはガルディス帝国の解放が不可欠となっている。
「……分かり、ました」
迷った末に将軍の一人が応えた。他の二人も反対することができず、無反応でいるため受け入れるつもりのようだ。
彼らにも養わなければならない家族がいる。平民でありながら将軍まで登り詰めるなど相当な苦労をしなければならない。それだけの無茶をする理由が、彼らにはあった。
「裏切りも考えるなよ。こっちには多すぎる人質もいるんだから」
☆書籍情報☆
活動報告にてキャラデザ公開しています。
表紙はヒロインのシルビアが大きく描かれていますよ!




