第16話 暴走への絶望⑤
今回でゼオン関係の話は最後です。
「そもそも、奴にどうして国を纏めるなんていう大それた事ができたと思う」
王位継承権の低かった王子。最初は、誰も注目なんてしていない目立たない少年だったため唐突な登場に誰もが戸惑った。
「あの方の国を想う行動に感銘を受け、敗戦国の者たちは次々と従い、共に協力して大国を作り上げた」
そのようにユスティオス皇帝は聞いていた。
アムシャス王子の傍には有能な人材が数多くおり、敵だった者も彼と戦った後は仲間となって協力することを誓っていた。そうして帝国を築き上げた後は大貴族として迎え入れられていた。
彼が生きていた頃は良かった。しかし、代が変わったことで皇帝と貴族が変わり様々な思想が衝突するようになる。
それは、国としては当たり前の光景であり、元々がいがみ合っていた国々の集合体であるなら尚更だ。
「ここで不思議に思わないといけない。アムシャス王子と敵対した者は全員が彼に心酔するようになる……全員が、だ」
全員はさすがに異常だ。
だが、戦ったことで彼に心酔したのは歴史が証明している。
「まさか」
「お、さすがは同じような立場にいるだけあって気付いたみたいだな」
何かに気付いたリオへ言葉を投げ掛ける。
その傍ら、俺の方へも意識を向けていた。
「奴が迷宮主になったことで得たスキルは【掌握】。潰し、自らの手中に収めることができるスキルをいくつも保有していたらしい。そのスキルを使えば、敵対していた相手を意のままに操ることもできる。発動条件は――相手を叩き潰すこと」
「やっぱり……」
勝利することによって相手を掌握することができるようになるスキル。
意のままに操ることができるどころか、自分の味方にすることができるのなら強力すぎるスキルだ。普通ならスキルの存在を疑うほど強力。けれども、迷宮主が持つスキルと考えれば妥当だ。
「あいつは、その時に自分が持つ戦力で勝てる相手に勝負を挑んで敵を味方に変えると瞬く間に勢力を拡大させていったんだ」
「そんな話は……」
「聞いたことがない? それは、そうだろうな。清廉潔白で、民の事を想う皇帝がそんな方法を使って勢力を拡大させている、なんて知られる訳にはいかない」
知られた瞬間に小規模な頃であっても脅威に思われてしまう。誰だって他者に支配されてしまうことには拒否感を持つ。そして、アムシャス王子を叩き潰そうと一致団結したはずだ。
しかし、生来からの目立たなさを利用したアムシャス王子の勢力は、気付けば誰にも無視できないものになっており、対処ができなくなっていた。
「さて、そんな力を手に入れていたアムシャス。これは後天的に得たものなんだけど、得る代わりに条件を受け入れるよう要求された」
それが迷宮主になること。
さらに、迷宮を管理している迷宮核にはそれぞれ人格が宿っており、何かしらの要求をされることもある。
「皇帝になるまでは良かったらしい。色々と頭を働かせて迷宮に人が訪れるようにしていたし、味方にするよりも処分した方が都合のいい奴は閉じ込めて餌にしていた。そうして得られた力を使って資源を得て戦力を増し、味方を次々に増やしていく」
戦力を強化できれば、勝てる確率が上がり味方をさらに増やすこともできる。
「それまでは迷宮核も楽しくやっていた。けど、皇帝になったあいつが真っ先に何をしたのか知っているな」
「……ウィングルを帝都にした」
「正解」
ユスティオス皇帝には迷宮主の事など分からない。
それでも、断片的に理解することができた内容からアムシャス皇帝と迷宮に何らかの関わりがあることが分かった。そして、ガルディス帝国にある迷宮と言えば、迷宮都市イルカイトだ。
「皇帝になるまでのアムシャス王子は今の迷宮都市イルカイトを拠点にしていた。多くの人がイルカイトを帝都にするものだとばかり思っていたらしいな」
しかし、帝都に定められたのはウィングルだった。
理由は帝都の地図を見ればはっきりする。
「たしかにガルディス帝国全体で見ればウィングルの方が中央寄りな上、交通網もイルカイトより整っているから帝都に相応しいだろう。政治的な理由だけを見れば理に適っている」
中心から少しだけ西へ行った場所にあるウィングル。
元々が中小国家の中でも大きな国の首都だった事から街道が整備されており、首都として使いやすかった。
「だけど、それは致命的な契約違反だ」
迷宮核がアムシャス王子に求めた条件。
「力を得る代わりにイルカイトを発展させることを約束させた。昔は、大きな都市の首都だったらしいイルカイト。当時は今よりも迷宮都市として発展した今よりも賑わっていた。その頃の栄華を取り戻すよう要求したんだ」
皇帝として政治を考えた結果ウィングルを帝都にしたアムシャス皇帝。
迷宮都市として発展させることで満足するだろう、とイルカイトを迷宮主でありながら放置してしまった。迷宮核さえ奪われるようなことがなければ放置しても問題ない。
「ところが、迷宮核にとっては不満だった」
たしかに問題がないほどに発展している。
ただし、イルカイト以上に発展している帝都の様子を迷宮主の目を通して見せられてしまうとどうしても嫉妬しまった。良くも悪くも迷宮核には生きていた人間の人格が宿っている。その事を失念していたアムシャス皇帝の失敗だった。
何よりも皇帝の執務が忙しすぎて迷宮核に構うことができなくなった。
「帝国を築くまで身を削るような協力までしたのに放置された迷宮にとっては裏切られたような気分だったんだよ」
次第にアムシャス皇帝への憎しみは、自分を捨てて彼が手にしたガルディス帝国そのものへの憎しみへと変わっていった。
国が築かれるほどの長い時間の憎しみは、国そのものを憎むには十分な時間だった。
「そもそも奴が帝国を築こうと思ったのは、王子なのに誰にも注目されない現状に不満を持ったからだった。自分のいるイルカイトという国がかつてはウィングルにも負けないほどの大国だったことを王城にある書物で知り、かつての栄華を取り戻そうと考えたからだった」
その想いに共感したからこそ迷宮核はアムシャス王子を迷宮主にして手助けしようと考えた。
当初は互いの利益が一致していた。
だが、アムシャス王子は自分の目的が一部だけでも達成されたところで裏切られた。
「奴は清廉潔白な人間なんかじゃない。誰かに構ってほしいが為に他人の思いすら平気でスキルを使って踏みにじることができて、用済みになれば協力者すら簡単に捨てるような奴だ」
それは穿った見方だ。アムシャス皇帝には彼なりの考えがあって迷宮主の立場から離れなくてはならなかったはずだし、当時のガルディス帝国が混迷していたのは間違いようのない事実。
それでも、迷宮核にとっては恨んでしまうほど裏切られた、と思ったのは事実。
そして、憧れていたアムシャス皇帝について自分の知らなかった事実を突き付けられたことでユスティオス皇帝が激しく動揺する。普段なら、説明されたところでそこまで動揺することはないのだろうが、今は追い詰められたことで精神的な余裕がなく言葉を素直に受け止めてしまった。
「そんな……あの、人に限ってそんな事……」
暗く落ち込んだ顔をするユスティオス皇帝。
「いいねぇ」
それを見てゼオンが昏く笑った。
「俺が迷宮主になるにあたっていくつかの条件が突き付けられた。その一つが、あんたが絶望する顔を目の前で見ること。俺を通して迷宮核もあんたの顔を見ているはずだ。アムシャス皇帝の血を濃く受け継いでいて、瓜二つなあんたが絶望する顔は最高らしい。今も笑いが止まっていないよ」
国そのものを恨んだ迷宮核と迷宮主による復讐劇。
それは、今ここに成された。
「そんなのは逆恨みだぞ」
ギュッと拳を握り、顔を上げて睨み付ける。
「逆恨み。そんな事は俺たち自身も理解している。けど、逆恨みだったとしても恨みであることには変わりない。少しは俺たちの憎しみを理解するんだな」
本当に憎しみの籠った目で睨み付けてくるユスティオス皇帝を睨み返す。
生まれた時から皇帝になることが決められていたユスティオスは本気の殺意なんて受けたことがなかった。だが、初めて「制限されていなければ殺してしまいたい」という強い想いに触れて胸を締め付けられていた。
「私が不幸になるのはいい」
「お……!」
「だが、民まで不幸にする必要はなかっただろ」
最終的には数百万人が住む場所と、これまでの生活を失って彷徨うことになる。
それだけの犠牲者を出してしまったことを皇帝として嘆いてしまった。
「一体、彼らにどんな恨みがある?」
「分かっていないな。俺はガルディス帝国の国民には興味がない。俺たちは帝国そのものを恨んでいるんだ。国が亡くなっただけで、その後にどうするかは自由だ。
そして、彼らの面倒を見るのは皇帝であるあんたの責任だ」
「なっ……!」
「これで俺たちの当初の目的は達成された。これから、どうするのかはお前たちの選択に任せようと思う」
現れた時と同じようにシュッと姿が消えてしまう。
まるで、最初からいなかったような感覚だ。
☆書籍情報☆
発売までいよいよあと半月。
キャラデザが活動報告で見られます。




