第6話 魔物に支配された国
「ですが、戦争に勝利したからと言って貴族から爵位を奪うのはやりすぎではありませんか?」
通常の勝利方法で相手国を占領できた場合には、貴族の爵位はそのままにするか降格させた後に自分たちへの従属を誓わせることが多い。
戦争は、相手の領地を奪う事そのものが目的の場合もあるが、それ以上に領地から得られる利益が目的の場合が多い。領地だけを手に入れたとしても、何も知らない者ではすぐさま利益をあげることができない。
まあ、戦争に貢献した事への報酬として領地を与える目的で没収することもあるが、利益を得ることが目的なら従属させた方が効率的だ。
「そうだな。俺も彼らをそのまま使うことで利益が得られる場合なら爵位をそのままにすることも考えていた」
「あ……」
事務官も今の状況を思い出した。
今のガルディス帝国を支配しているのは魔物たちだ。
「まずは魔物を駆逐する必要がある。それも国を支配できるほど大量の魔物の全てを駆逐する必要がある」
最も近くにある都市を奪還したとしよう。そこを復興させる為には魔物に再び襲われない状況を作り出す必要がある。
外壁を修復させることができたとしても別の都市を支配する魔物が押し寄せれば再び魔物に支配されてしまう可能性が高い。なにせ魔物であるにもかかわらず道具を使って外壁を破壊して侵入を果たしている。
籠城は無意味になる可能性が高い。
最も可能性が高い方法は、ガルディス帝国を支配する全ての魔物を駆逐した後に復興する。
「全てと言っても人間の生活圏を支配している魔物だけで十分だ。魔物の生息域から出てこない連中まで討伐する必要はない」
本来、多くの魔物は自分のテリトリーから出ることは滅多にない。けれども、たまにテリトリーから出て人を襲う魔物が出てしまう。だから間引くよう冒険者ギルドから討伐依頼が定期的に出される。
あくまでも普通の状態に戻すことが目的。
問題は、普通とは言えないほど増えてしまっている現状だ。
「魔物は迷宮から次々に出てきている」
迷宮都市イルカイト。
都市の中心に迷宮を抱えており、迷宮から得られる資源を輸出することで利益をあげている。
そこから魔物が溢れ出していた。
監視を続けてから1時間程度だが、既に都市を埋め尽くしてもおかしくない数の魔物が出てきている。
「その状況を考えれば魔物が迷宮から出てきているのは間違いない」
敵の迷宮主から聞いているため答は知っていた。それでも、実際に目にすることで確信が持てた。
「ええ、魔物の暴走にしても規模が大きすぎます」
家臣たちからも賛同が得られた。
「現状すべき事は、迷宮から魔物が溢れてくる状況をどうにかした後に都市を占領している魔物を討伐する必要がある」
数千万以上になろうとしている魔物を駆逐する。
その途方もない作戦に眩暈を覚える者もいた。現にリオも困った問題に直面していた。
「この状況を正常化させるのに一体どれだけの時間が必要になる?」
答えられる者はいなかった。
もしかしたら、成功しないかもしれない。
それでも、やるとしたら……
「少なくとも数十年単位で時間が必要になる。ここにいるのは若い連中が多いが、俺たちが生きている内に解決できるといいな」
現役のうちに終わらないのは間違いない。
それは、問題の解決を次代に託さなければならない事を意味していた。
「こんな面倒な問題をガーディルに託さないといけない俺の事を考えろ。問題は、今の内に少しでも少なくしておきたい」
故郷を失ったガルディス帝国の人々。
どうにか受け入れたとしても避難民の不満は燻ることになる。
「貴族連中がそのまま爵位を持っていたとしても土地を持たない領地貴族、仕事なんてない法衣貴族。そんな連中はいない方がいい」
下手に爵位だけ持っていて権威を振りかざされても困る。
「皇族の処刑も同じだ。彼らには生け贄になってもらう必要がある」
問題の大部分を背負ってもらうのが目的。
一応、成人前の皇族については生かす方針でいるようだけど、生かされたとしても悪意に晒されることになって辛い日々がまっているのは間違いない。
「何よりも後々に不穏分子となられては困る」
生かされた子供の皇族も監視下での生活を余儀なくされることになる。
それが、問題を子供に押し付けなくてはならない父親なりの責任の取り方だった。
「子供を生かしたことで最低限の義理は果たせるだろ。厳しい監視下に置いて生殺しにすることで多少の悪評は出てくるはず。だが、その程度の悪評は俺が甘んじて受け入れる」
クゥエンティ将軍と話をしている間にそれだけの覚悟を決めた。
「これから忙しくなるのは間違いない。足手纏いを背負っている余裕は俺たちにはないっていうことを理解しろ」
「……」
全員が黙って考えさせられてしまう。
困っている人を見過ごすことはできないが、規模が大きすぎて具体的な事まで見通すことが出来ていなかった。
「ところで、先ほどの支援は可能なのでしょうか?」
手を挙げながら兵站担当者が確認する。
彼の感覚からすれば国一つを支援するほどの余裕があるようには思えなかったからだ。
具体的な事は分からなくても他の者も同様の疑問を抱いていた。
しかし、出来る事を前提に話を進める皇帝を前に意見など言えなかった。
「できる」
そこをキッパリと断言するリオ。
リオも自国の備蓄状況まで把握している訳ではない。それは皇帝の仕事ではないのだから当然だ。
だから、ここでは迷宮主として回答した。
「迷宮には迷宮の力で対抗する。隠したまま話を進めることはできないから、この会議に参加している者を信用して教えることにする。俺は帝都にある迷宮を攻略して力を手に入れた。その力を使えば対価は必要なものの支援物資を揃えることができる」
「なるほど。その為の対価なのですね」
一時的にグレンヴァルガ帝国から金貨や財宝が失われることになる。
それは、後に都市を奪還することで補填することを目的にしていた。
「必要な物資については俺が用意する。さっきの条件をガルディス帝国の連中は受け入れられないだろうが、受け入れられるようになった時にすぐさま動けるよう準備をしておく必要がある。水面下で準備だけは進めておいてくれ」
『了解』
リオの事を信頼している家臣たちは支援物資が得られる前提で動き出す。
残されたのは俺とリオ、帝都から付き従ってきた財務官のみ。本来なら財務官は、戦場で無駄な経費が使われていたり、横領が行われていたりしないかの監査の為に同行していた。
だが、今は優先させるべき仕事が別にある。
「支援にどれだけの対価が必要になるのか現地を見て算出してほしい。護衛は必要なだけつけさせてもらう」
「かしこまりました」
「それと、もう一つ」
「何か?」
「魔物を輩出している迷宮の攻略は早急に行った方がいい」
時間が経てば経つほど魔物は輩出される。
後の奪還作戦を思えば迷宮の攻略は早い方がいい。
「私には軍務に関することは分かりません」
「分かっている。そもそも迷宮の攻略は軍で行うつもりはない」
迷宮には数人が通れるぐらいの広さしかない狭い場所もある。
そんな場所へ軍を派遣するなど自殺行為にも等しい。
「いや、消耗を抑える為にも途中までは手伝わすつもりでいる」
その助力に軍を使う。
だが、メインとなって動くのは少数精鋭。
「迷宮の攻略は冒険者マルスたちに依頼するつもりでいる」
迷宮主のいる迷宮の攻略。
当然ながら迷宮主から邪魔が入る。Sランク冒険者を投入したとしても返り討ちにされるのは目に見えていた。
迷宮主には迷宮主。
リオも迷宮主だが、皇帝という立場を思えば軽々しく出て行く訳にはいかない。
事態を解決する為には俺たちが出て行くしかなかった。
「彼らに迷宮攻略の依頼を出したとして、どれだけの報酬を提示すればいいのか考えておいてほしい」
☆書籍情報☆
第4章部分のラストは変更。
正反対なので、どう変わったのか買ってチェックしてみよう。




