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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第36章 防衛構築
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第19話 刻むゴーレム

 冒険者ギルドには、冒険者たちが採って来た様々な素材が納品される。

 そして、掲示板には人々が求めている物が分かりやすいよう依頼票が掲示され、儲かると思った依頼から引き受けていく。


 だが、今はたくさんの依頼票で掲示板は溢れていた。

 氷を求める依頼票ばかりだ。


 それを片っ端から手にして行く。本来なら他の冒険者の仕事を奪うような真似はマナー違反なのだが、この依頼は誰も引き受けていないのだから一気に引き受けても文句を言われても正当性はない。なにせ朝に見た時よりも増えている。

 依頼票をルーティさんのいるカウンターの上に置く。


「あの、マルス君……まさか、全ての依頼を引き受けるつもりですか?」


 数十枚の依頼票を前にしたルーティさんが戸惑う。


「全て採取系の依頼です。余っていて、素材を持っているなら問題ありませんよね」


 指に填まった収納リングを見せながら言う。

 依頼達成に必要な氷を既に用意していると理解したルーティさんが全ての依頼票を処理する。


「たしかに受け付けました。それでは氷を納品してもらいます」


 ルーティさんに連れられてギルドの奥へ移動する。


 いつもなら奥にある倉庫へと連れられるのだが、今日は手前にある階段で地下へと下りる。

 魔法道具によって冷やされた地下室。

 上の倉庫で解体された素材が保管される場所なのだが、これから納品するのが氷であるため倉庫での処理などしていられないため地下室へ真っ直ぐ案内された。


 案内されたのは広く何もない部屋。

 氷が手に入った時に備えて保管されている素材が氷へ影響を与えないよう空間を確保されていた。


「先ほどの依頼を全て達成するとなると、この部屋の半分以上を満たす必要がありますよ」

「それで、いいんですか?」

「もう呆れるしかありませんね」


 ルーティさんの予想では部屋の半分を埋め尽くすほどの氷はなかった。

 だが、それぐらいの量でいいのなら十分にある。


「じゃあ、並べていきますね」


 清潔なシートを床の上に敷いて道具箱(アイテムボックス)から氷を次々と出していく。

 出現場所も指定できるため、綺麗にカットされた氷が並べられる。


「相変わらず凄いスキルですね」

「詳しくは聞かないでくださいね」

「……ギルドとしては適した依頼を斡旋する為にも冒険者のスキルは把握しておきたいところなのですが、マルス君たち相手では斡旋する必要もありませんから詳しくは聞かないことにします」


 ここで無理に聞き出して俺たちの機嫌を損ねて拠点を移動される方が冒険者ギルドにとっては痛手だ。


「ところで、これだけの氷をどこで手に入れました?」


 アリスター近辺で新鮮な氷を手に入れるなら冬の間に凍った川や湖から仕入れるしかない。しかし、暖かくなったことで天然の氷は既に溶けてしまっている。冬の間に確保しておいた物を出したにしても量がおかしい。

 また、商人から仕入れたにしても量が多いため大商人との伝が必要になるが、氷を手に入れられる商人相手には持っていない。


「これだけの氷を手に入れられる場所なんて限られているじゃないですか」

「迷宮、ですか」

「はい」

「でも、迷宮に氷が手に入れられる場所が存在しているなんて聞いたことがないですよ」

「それは彼らが到達したことがないからですよ」


 そこで、地下71階から手に入れたことを教える。


「え、地下71階……? 本気で言っているんですか!? 最高到達階層を越えてしまっていますよ!」


 いつの間にか記録を塗り替えられていることに驚き、この情報を公開することの意味を考える。


「もしも、冒険者たちに採って来てもらえるなら氷が今までよりも安価で手に入れられるかもしれませんね……」


 それは、どうだろうか?

 目的地まで到達することの困難さを考えれば氷の値段は跳ね上がる。もっとも、遠く離れた場所から輸送よりも安上がりになるのは間違いない。


「今日は、もう終わりですか?」

「いえ、まだ昼になったばかりですし、新しく手に入れた物があるのでちょっと商売に精を出すことにします」



 ☆ ☆ ☆



 屋敷へ戻ってからアイラとシルビアも連れて街の広場へと移動する。

 都市の東西南北から中心へ向かって走る大通りにはいくつもの露店と屋台が並んでいる。街へ簡単な届け出をすることで誰でも店を出すことができるのだが、店を出せる場所は限られている。そこで定期的に店は入れ替えられており、その度に届け出が必要とされている。


 思い立ってすぐに店を出せる訳ではない。

 しかし、冒険者ギルドでも場所をいくつか確保していた。怪我で戦えなくなり商売を始めてみたいと思った冒険者、不用品や手に入れた道具の数々を冒険者ギルドを介することなく売り出してみたい人たち向けの場所。

 そこをAランク冒険者の特権を活かして割り込ませてもらった。

 幸いにして空いていた場所があって助かった。


「で、何をするつもりなの?」


 外に出てきたアイラ。

 さすがの彼女も暑さが堪えているのか上着を着崩していた。

 一方のシルビアは完全装備のメイド服で涼しい顔をしている。厚手のメイド服で暑くないはずがないので何か細工をしているのだろう。


「思い付きでできる商売なんて限られているからな。これを売り出してみてみようと思う」


 取り出したのは迷宮で採取した新鮮な果物。

 それから大きめの筒みたいな形をした道具。


「何、この魔法道具?」

「見ていれば分かる」


 筒の中へ新鮮な林檎を入れる。


「起動」

「わっ」


 魔力を流し込むと筒の中にあった短い刃が凄まじい速度で回転して、中に入れられた林檎を細かく刻んでいく。

 回転が止まると林檎の欠片が浮かぶドロドロになった林檎だった液体が入れられていた。


「今の何だったの?」

「遺跡で手に入れたのは、何も戦闘ができるゴーレムばかりじゃないぞ」


 これも手に入れたゴーレム研究の成果だった。


「思い出せ。遺跡で高速振動する剣を振り回すゴーレムがいただろ」

「ああ!」

「あいつが使っていた剣だ」

「え……! 全然、違くない?」

「同じだよ」


 大きさが全く違うだけで使われている刃の原理は同じだ。

 ただ、刻んだ果物を攪拌させる為に回転する機能を刃が取り付けられた部分に持たせていた。

 刻まれた果実のジュースをグラスへ移し、迷宮で手に入れた氷で冷やす。


「味の方は問題ないから飲んでみて」

「え……!」


 この魔法道具はデータを探し当てたメリッサと飲み物なので率先して手にしたシルビア以外は知らない。

 自分で作り、既に飲んだシルビアがジュースを勧める。

 今までに飲んだことのないドロッとした液体に気後れするアイラだったが、後ろからシルビアに拘束されて無理矢理口へ流し込まれる。


「……うん、このドロッとした感覚が慣れないけど、ちゃんと林檎の味がしっかりしていて美味しい」


 何よりも果実のサッパリした感覚がいい。

 慣れていない暑さのせいでバテている人たちからは食欲も失せていた。刻まれた果物のジュースには栄養もしっかりと含まれている。


「今日ならガッツリ売ることができるだろ。イリスとシルビアはジュースの用意、メリッサとアイラは接客の手伝いだ」

『はい!』

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[一言] カシナートっぽいなと思ってたら、ホントにカシナートだった\(^o^)/。
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