その3:名前をつけない関係
帰宅してから、私は相談者に追加の質問を送った。
『彼と会えない日、あなたは自分の生活を楽しめていますか。彼から連絡が来るかどうかで、一日の気分が決まっていませんか』
しばらくして返事が届いた。
『彼から連絡が来るまで、何も手につきません。予定を入れても、会えると言われたら全部断ってしまいます』
私は目を閉じた。
恋愛が生活の一部ではなく、生活そのものになっている。
それは愛情の深さというより、自分の時間を相手に明け渡してしまった状態に近い。
『彼の予定に合わせること自体が悪いわけではありません。
でも、あなたの予定がいつも彼の都合で消えていくなら、一度、自分の生活を取り戻してください。
今度の日曜日、彼から連絡が来ても来なくても、あなた自身のための予定を入れてみましょう。
最初は落ち着かないと思います。でも、彼がいない時間にも自分の人生が続いていることを、思い出してほしいのです』
送信すると、私はスマートフォンを裏返した。
日曜日。
自分のための予定。
そんなものが、私にはあっただろうか。
スーパーへ行く。洗濯をする。部屋を片づける。相談に返信する。酒を飲む。
それで一日が終わる。
誰かと過ごすことを避けながら、誰かに選ばれることを心のどこかで待っている。
私はその事実を、相談者よりも認めたくなかった。
そのとき、佐伯からメッセージが届いた。
『今日はありがとうございました。もしよければ、また食事に行きましょう』
私はしばらく画面を見つめた。
返事は簡単だった。
『こちらこそ。ぜひ』
たった十文字ほどの文章を送るのに、私は五分もかかった。
その夜、私はいつものバーに行かなかった。
誰かに会いたくないわけではない。
ただ、名前も知らない誰かに、自分の寂しさを預けることが、いつもより少しだけ嫌になったのだ。




