その3:冷徹な処方箋、いつもの日常
冷めかけたコーヒーを一口飲み、私は小さく息を吐いた。
――二十五歳。
かつての私と同じだ。自分に自信が持てず、おとなしく言うことを聞いていれば、いつか彼にとって「かけがえのない存在」になれると信じていた、あの痛々しい日々。
キーボードに指を置き、無心で文字を打ち込む。
『相談ありがとうございます。
痛いことを言いますが、スマホを置いて深呼吸してから読んでください。
結論から言います。本命になれる可能性はゼロ%です。
男にとって、ベッドの中の優しさは「無料のオプション」であって、愛情の証明ではありません。定食についてくるお新香と同じです。
男があなたを都合よく呼ぶのは、あなたが特別だからではなく、「従順で、わがままを言わず、安上がりに処理できるから」です。
おとなしくて自己主張しない女性を都合よく消費する男の手口を、私は身をもって知っています。自分から安売りした女に、後から正規料金を払う男なんてこの世にいません。
彼が欲しいのは「あなた」ではなく、「文句を言わない便利な体」です。今すぐ連絡先を消しなさい』
投稿ボタンを押すと、静かなクリック音とともに言葉が夜のネットの海へ放たれた。
自分もまた、男にとって「都合のいい地味な女」の皮を被って一晩をやり過ごしたばかりだというのに。
自己嫌悪と奇妙な納得感を抱えたまま、私は冷えたコーヒーを飲み干した。明後日の月曜になれば、私はまたオフィスで、誰の記憶にも残らない「おとなしい篠原さん」に戻る。




