その2:朝の退室、届いた質問箱
翌朝、午前七時半。
遮光カーテンの隙間から、冷たい朝の光が差し込んでいた。
隣では男がまだ静かに寝息を立てている。名前は知らない。昨夜も仕事の愚痴を一方的に聞いて、相槌を打っていただけだった。
私は音を立てずにベッドを抜け出し、昨日の服を淡々と着る。鏡の前の自分は、相変わらず地味でおとなしい顔をしていた。テーブルの隅に「お先に失礼します」とだけメモを残し、静かに部屋を出る。
朝の新宿駅は、通勤ラッシュ前の乾いた空気が漂っていた。
コンビニで買った無糖のアイスコーヒーを飲みながら、築十五年のワンルームへ帰る。服をすぐに洗濯機へ放り込み、熱いシャワーを浴びて誰かの匂いを洗い流す。
だらしないスウェットに着替え、ようやく私の本当の休日が始まる。
MacBookを開き、SNSを立ち上げた。
フォロワー三万人を抱える私のアカウント『サキ|恋愛と人間関係ノート』には、今朝も重たい悩みが何通も届いていた。その中から、一通のメッセージに目が止まる。
《相談文》
『サキさん助けてください。半年間、体だけの関係が続いている職場の先輩がいます。昨夜も彼の家に泊まりましたが、朝起きたら「予定があるから」とすぐ追い出されました。でも、ベッドの中ではすごく優しくて……。私、いつか本命になれるでしょうか?(25歳・会社員)』




