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第四話 土の人


 俺の名は野見宿禰のみのすくね

 土をねる男だ。——それ以外に取り柄はない。力が強い。相撲で一人殺したことがある。蹴り殺した。——それは取り柄とは言いたくない。

 十一代目の王の代だ。活目入日子五十狭茅命いくめいりひこいさちのみこと。——名前が長い。この家系は名前が長くなる一方だ。

 王の妃が死んだ。

 妃が死ぬと——人が一緒に埋められる。近習きんじゅうの者たちが。生きたまま。

 殉死。

 見た。——一度だけ見た。先代の王のときに。

 穴を掘って、ひつぎを入れて、棺の周りに人を立たせた。生きた人間を。手を縛って。足を縛って。——立たせたまま、土をかけた。

 泣いていた。叫んでいた。——しかし土は叫びを吸い込む。土は何でも吸い込む。声も。涙も。命も。

 何日も——声が聞こえた。土の中から。日が経つにつれて弱くなった。三日目に聞こえなくなった。

 土をねる男として——あの土を掘り返したかった。しかし掘り返すことは許されなかった。王の墓だから。

 十一代目の王の妃が死んだ。——また殉死の準備が始まった。

 穴を掘る者がいた。縄を用意する者がいた。——近習きんじゅうの者たちが震えていた。自分がこれから埋められると知っている顔だった。

 俺は——土をねていた。別の仕事で。壁を直す仕事で。壁に塗る土をねていた。

 手の中の土が——人の形をしていた。

 たまたまだ。ねているうちに、なんとなく指が動いて、人の形になった。頭があって。腕があって。足があって。——小さいが、人の形をした土。

 見つめた。——長く。

 王に会いに行った。

「何の用だ」

「……土を持ってきました」

「土?」

「人の形をした土です」

 王が見た。俺の手の中の——小さな土の人形を。

「何だこれは」

「人の代わりです」

「…………」

「人を埋める代わりに——これを埋めてはどうですか」

「土を。——人の代わりに」

「土は叫びません。土は泣きません。——しかし形は残ります。人の形をした土は——人がいたことを残します。生きた人間を殺さなくても」

 王が——黙った。長く。

「……人の代わりに、なるのか。土が」

「なりません」

「ならないのか」

「なりません。——人の代わりになるものは、ない。人は人だけです。土は土です。代わりにはならない」

「では——なぜ提案する」

「代わりにならなくても——残るからです。土は残る。人は死ぬ。死んだ人は残らない。土で作った人の形は——残る。残るものを埋めた方がいい。消えるものを埋めるより」

 王が——考えた。何日も。

 七日後。王が言った。

「やれ。——土の人を作れ。人の代わりに埋める」

「何体」

「殉死するはずだった者の数だけ。——全員分」

「…………」

「全員分だ。——一人も殺さない。一人も埋めない。全員分の土の人を作れ」

 作った。

 土をねた。何日も。何十体も。

 一体ずつ、違う顔にした。——同じ形にはしなかった。殉死するはずだった者の顔を見て、一人ずつ似せた。完璧には似ない。土だから。俺の指は太いから。細かいところは潰れる。

 しかし——何となく似ている。目の大きさ。鼻の高さ。口の形。——土で出来る限り似せた。

「……俺に似ているのか、これ」

 殉死するはずだった男が、自分の土の人形を見て言った。

「似せたつもりだ」

「鼻が低い」

「お前の鼻は低い」

「……そうか。——低いか」

「低い。——しかし生きている。鼻が低くても生きている方が、鼻が高くて死んでいるよりましだ」

「…………それは——そうだな」

 埋めた。土の人を。妃のひつぎの周りに。

 人の形をした土が、ひつぎの周りに並んでいた。立っていた。——生きてはいない。叫ばない。泣かない。しかし——立っている。人の形をして。

 土をかけた。埋めた。——今度は、土の中から声は聞こえなかった。当たり前だ。土は叫ばない。

 静かだった。——前に見た殉死の墓とは違う静けさ。あのときの静けさは「声が消えた」静けさだった。今度の静けさは——最初から声がない静けさ。

 どちらが良いか。——声がない方がいい。声があって消えるのは怖い。最初からないのは——ただ静かだ。

 殉死するはずだった者たちが——生きて帰った。

 家に帰った。畑に帰った。——妻のところに帰った。子供のところに帰った。

 一人が振り返った。墓を。土の人が埋められた墓を。

「……あの土。俺の代わりに入っているのか」

「ああ」

「……ありがたいような。気味が悪いような」

「気味が悪くていい。——生きていれば気味の悪さも感じられる。埋まっていたら感じられない」

「…………」

「帰れ。——生きて帰れ」

 王が俺を呼んだ。

「今後——殉死を禁ずる。人を埋めない。代わりに土の人を埋める。——お前が作れ。これから先、王の墓には全て土の人を」

「俺一人では——数が足りない日が来ます」

「弟子を取れ。土をねる者を育てろ。——お前が始めた仕事だ」

 弟子を取った。土をねる弟子を。

 教えた。土の選び方を。水の混ぜ方を。指の動かし方を。——そして、一体ずつ違う顔にすることを。

「なぜ同じ形にしないのですか。——同じ方が速い」

「同じにしたら——人の代わりにならない。人は全員違う顔をしている。土の人も全員違う顔にする。同じ顔の土は人ではない。ただの土だ」

「…………」

「違う顔にするのは——その人が生きていたことを残すためだ。土の人形が残っている限り、生きていた人の顔が残る。——同じ形にしたら、残らない」

 土をねる。——それが俺の仕事だ。

 力が強い。相撲で人を殺したことがある。——しかし殺すより、作る方が向いていた。殺した手でねる土は——少しだけ力が入りすぎる。力を抜くことを覚えた。弱くねる。壊さないように。——人の形を壊さないように。

 土は何でも吸い込む。声も涙も命も。——しかし、形は返してくれる。入れた分だけ。人の形を入れれば、人の形を返してくれる。

 人は死ぬ。——しかし土は残る。残るものを、死ぬ者の代わりに埋める。

 代わりにはならない。——しかし、残る。残ることに意味がないなら、根にも意味がない。根は見えない。土の中にある。——土の人も、土の中にある。見えないが——ある。

〈第四話・了〉


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