冒険の後はかくれんぼ!?
翼達がかくれんぼするようです。
前回のあらすじ
以前の冒険(という名のちょっとした遠出)で出会った蒼と夏月に街を案内してもらったお礼に自分達の街案内しようぜ!ってことで色んな場所案内したり、途中で2人が未来人であることが発覚したり…?そんなこんなでやって来ました廃校の音楽室こと秘密基地。そしてその隣の教室は別のグループが秘密基地として使っていたことが発覚!その後なんやかんやありまして、隣の秘密基地皆さんも含め全員でかくれんぼをすることになったのだった!
〜アイ&実穂の場合〜
「あっ!ここいいんじゃない?」
アイ達が目をつけたのは図書室の中の古い本や人気がなくなった本を仕舞っている書庫である。
「いいね〜絶対見つからないよ。」
実穂もアイに同意し、書庫へと駆け込んだ。書庫は扉を閉めると周囲が見えなくなるほどに暗く、ほこりっぽい。
「なんか何処かに電気とか無いかなー?」
「うーん…」
実穂が壁を伝いながら何かを探していると…
「あ、スイッチがある。」
何かのスイッチを見つけた。
「えー?もしかしたら電気かも。押してみよ!」
「…大丈夫かな?」
「大丈夫大丈夫!きっと電気だよ。」
「じゃあ…押すね。」
パチッと音がした後、電気が一瞬数回点滅した末に点いた。
「点いた!」
「やっぱ電気だったんだ!」
しかし電気をつけたとしてもそこはなお薄暗くどんよりしていた。
「…せっかくだしさ、まだ鬼来なさそうだし図書室からなんか本持ち込んで読まない?」
実穂が提案すると
「いいね!」
アイが頷いた。
「じゃあ私取ってくる!」
実穂が取りに行って…しばらくしていくつかの本を抱えて戻ってきた後、扉を閉めた。
「じゃーん!どれから読む?」
実穂が取ってきた本を掲げて見せた。
「まずは、この心理テスト気になるなぁ…」
アイが指さしたのは少女漫画の様な絵柄の女の子が描いてある心理テストの本である。
「あ、じゃあこれ読もう!」
そう言って2人で心理テストの本を開いて、
「えー?よく友達から人気者だねって言われる?うーんどっちだろう…はい、にしとこうかな!」
「難しい話はよくわからないって思う?あ、これはいだわ。はい!」
「答えがない問題は好き?うーん…答えがない問題って何?」
「ほら、音楽の授業でやった『卵が先だ〜鶏が先だ〜♪』ってやつ」
「あ~!アレかぁ〜!私どっちでもいいあれ。今卵食べられてるし。」
「私はあれちょっと興味あるかも。」
「あ、結果出た。私は…いつも周りをハッピーにするアイドルタイプ!」
「私は…ピュアで繊細な夢見るお姫様タイプかぁ…」
「お姫様かぁ!いいなぁ…」
「アイドルも羨ましいよ…」
「…これ、他の人でもやってみない?」
「あ~やってみよやってみよ。まずは龍司、『友達は多い?』うーん…少なそうだね。」
龍司くんが可哀想ではあるが、無常にも彼女達による勝手な心理テストは続いていた。
「『緊張するタイプ?』あいつめっちゃ緊張するよね。」
「わかるわかる。」
「『計画を立ててたんだけど失敗しちゃった!貴方ならどうする?』頑張ってやり直す…一旦お休みする…多分あいつ一旦お休みするタイプだね。」
「なんなら永遠にお休みするタイプだわ」
「それはないんじゃない?」
「でも傷ついてお休みしちゃいそう。」
最終的に…
「…ピュアで繊細なお姫様タイプだってよ…。」
「うわ~…私龍司と同じタイプなのかぁ…」
「次海斗君やっちゃおう」
「そうしよそうしよ」
「えっとまず…よく友達から『人気者だね』って言われる?うーんあの子人気者って感じではないよね。」
「うんうん、気が向いたら話したい人に話すって感じ。」
「えっと…難しい話って好き?うーん好きそうではあるよね。」
「わかる。難しい話意外と好きそう。なんならあの調子で難しい質問してきそう。」
彼女達は心理テストに夢中になっていた。
「図書室はまだ探してないよね〜」
「ですね。」
鬼たちが近づいていることにも気づかずに。
「とはいえ図書室にはいないかなぁ〜…」
「あ。」
夏月が何かに気づいたようだ。
「夏月君どうしたの〜?」
「ここ…。」
夏月が指差したのは本棚である。
「ん〜…あ。」
「一カ所不自然に隙間ができてるんですよ。おかしいですね。」
「ってことはまだ近くにいるってことか〜。」
「他にも調べてみますか。」
するとほかの場所でも同じような隙間が見つかった。
「…隙間の位置的に、別の教室まで持っていくのはリスキーですね。」
「ってことは…」
「書庫が一番可能性としては高いかと。」
「なるほど〜。それじゃ、書庫行こっかぁ〜」
そんなやりとりがされる一方で、アイと実穂の勝手な他人心理テストは終わりを迎えようとしていた。
「えっと…『何をするにも自信満々!きっと上手くいくと思ってる?』はいだよね。絶対はいだと思う海斗くんは。」
「だね。あの子から『どうしよう〜』とか聞いたことない。」
「さてさて、タイプは…あ!出たことないやつだ!」
「なになに?」
「のらりくらり生きるキュートな猫娘タイプ!?確かにあの子猫みたい」
そこで扉が開いたが、アイと実穂は気づいていない
「言われてみれば、猫っぽいよね海斗くん」
「誰が猫っぽいって?」
「海斗くん…ってええっ!?」
海斗に後ろから話しかけられ、アイがびっくりして振り向いた。
「やっぱり居ましたね。」
「夏月くんまで…」
後ろから夏月も出てくる。
「でかしたぞ〜夏月くん。君のおかげで二人も発見だ〜」
そう言うと海斗は夏月の頭をわしわしとふざけて撫でた。
「どうも。」
夏月も誇らしげにしている。
「…なんでわかったの…?」
実穂が恐る恐る尋ねた。
「本棚に不自然に隙間が…」
夏月が答えた。
「まさかの本持ってきたのが原因!?」
アイがびっくりした。
その後2人は音楽室へ連行されていった…。
◆◆◆
龍司の場合
「うぅ…怖ぇ…なんか薄暗いし埃っぽいし変な薬品とかホルマリン漬けとかガイコツとか置いてあるし…」
龍司が選んだのは理科準備室。隠れ場所も多く、薄暗く見つかりにくい、何より危ない薬や骨格標本、人体模型、壊したら大変な実験用具等先入観により鬼も入りづらいため同じ場所に留まり大人しくしていることさえできれば最高の隠れ場所ともいえるかもしれない場所である。
「なんで俺理科準備室に隠れようと思ったんだ…何処隠れるかなぁ…出来るだけ怖くない…見つかりづらい…うわぁ!何だよ椅子の脚かよ…びっくりしたぁ…うわぁ!なんだ…ただの棚か…早く隠れ場所探して隠れよ…。えーっと…あ、そうだ。」
龍司が隠れたのは理科準備室の奥にある棚と棚の間の人がはいれるほどの隙間である。
「ここなら見つからねえだろ…もしかしたら俺、一番見つからなかったりして…」
龍司は最後まで見つからず『龍司先輩すごーい!』とか『さっすが龍司!』とか言われる妄想をしていた。…しかしそれも現実になることがないのが世の中というものである。お察しのとおり、鬼の魔の手が近づいていた。
「理科準備室ですね。確実に1人はここに隠れる人が居そうではありますが。」
「あ、ここは俺に任せて〜。」
夏月に対して海斗がそう言うと、扉を開けて大きな声でこう言った。
「みーつっけた!」
「えっ!?」
「うわ、ホントにいた。リュウちょれぇ〜。」
「チョロいって…どっちかって言うと卑怯なのはお前だろ!」
「み〜つけたって言ってカマかけるのも鬼の戦略だよ〜。おとなしくついてきてね〜。」
「てか、そう言うならこの中探しに来いよ!」
「やだ~。だって怖いもん。」
「お前も怖いのかよ!」
こうして龍司も捕まり、音楽室へと連れて行かれた。
◆◆◆
美音、太陽、優李の場合
「ここに隠れてれば大丈夫だよね?」
「大方あまりにも鬼が強くなきゃ見つかることもないだろ。」
美音と太陽は和室の押し入れの中、上の段のクッションの後ろに隠れ、狭いスペースの中くっつきながらも鬼の存在に怯えていた。
「うん…ごめん。でも…やっぱり怖くてさ…」
「大丈夫だよ。いざとなったら守るから。」
と、そこでガラガラガラ…と古びた襖が開く音がした。
「鬼!?」
「美音、下がって!」
「…あの…お邪魔しま~す。」
「へ?その声は…」
反対側の襖を開けて遠慮がちに入って来たのは優李だった。
「「優李…?」」
「やっぱみんな同じ事考えてたんだね。」
なんという偶然か。3人とも同じ事を考え、同じ場所に隠れていたのだ。
「そういえば、翼先輩はまだ隠れられてるかな?」
「先輩のことだからきっと最初に捕まってるんじゃない?」
美音が翼の身を案じると、太陽はあきれたように言った。
「確かに。翼先輩が一番最初に捕まってる姿が簡単に思い浮かぶ。」
優李も言った。多分今頃翼はくしゃみをしてるところだろう。
「見つからないといいね…。」
「とりあえずその時を待つしかないだろ。」
「そうだね…。」
「鬼、来ないといいね…。」
不安そうに言いながら待っていると、ガサガサと人が入ってくる気配がした。
「しーっ!多分鬼だ。」
案の定入って来たのは鬼役の夏月と海斗である。
「ここで隠れるとしたらやっぱり押し入れかな〜?」
「その可能性が高そうですね。」
会話を聞いた3人はゴクリと唾を飲み込んだ。もしかしたら、見つかるかもしれない。
「とりあえず開けてみよっか?」
その一言とともにガラガラガラと押し入れが開けられる。
「…居なさそうですね。」
その一言を聞き、3人はほっと胸をなで下ろした。
「いや、よく見て。クッションがこんなに前にあることってある?」
「…どういうことですか?」
「んー…もし俺がクッション押し入れに仕舞うとしたら奥から入れるけどなぁ…。もしクッションの数が多かったとして…この学校、そんなに人いたっけ?居たんなら廃校にはなってないよね〜。」
その言葉を聞いて油断していた3人はぶるりと身震いをした。
(まずいまずいまずい!)
(絶対バレてる…!)
(終わった…。)
数秒考えた後、太陽が鬼に聞こえないように小声で言った。
「美音、優李、2人はここに隠れてて」
「え、でも…」
「俺が囮になる。2人でも残ってればこっちの勝ちだ。」
そう言うと、太陽は二人を自分とは反対方向に押し込み、目の前のクッションを押し退けて押し入れから飛び出した。
「やはりバレましたか。」
「太陽…ここに隠れてたんだね。」
「言っときますが、ここには俺以外隠れてません。残りのクッションはダミーです。残念でしたね。」
「そう。じゃあさっさと行くから着いてきて。」
そう言いながら夏月が太陽を連れて行こうとすると…
「ちょっと待って〜。」
海斗が引き留めた。
「あのさ〜、太陽君だっけ?一つ聞いていい?」
「何でしょうか?」
「太陽君はさ〜あの場でわざわざ自分が隠れてたよ〜って言う必要あった?」
「…!?」
太陽の顔がわかりやすく強張った。
「…どうせバレたと思ったので。出てきたほうが…早いかと。」
「ん〜…でもさぁ、あの場でもし反対側に隠れてたらバレなかったかもしれないよね〜」
「…そこまでは…考えては…」
たじろぐ太陽を海斗がさらに追い詰めた。
「それにさ〜?もしかしたら君の言葉が嘘だって可能性もあるよね〜」
「…嘘じゃない…です…。」
「だから俺、押し入れのクッション全部出そうとしたんだよね〜。そしたらさ…」
「クッション、何かに引っ張られてるみたいで、なかなか出てこないんだよ。」
太陽が頭を抱えた。彼の苦労が仇となった瞬間だった。
実は、太陽の努力を無駄にするまいと美音と優李がクッションを出させないように内側から引っ張っていたのだ。
「居るのはもしかしたら太陽君の友達の2人かな~?友達守ってて偉いね〜。」
海斗がおどけたように言った。
「…大人しく抵抗せずに出てきたほうがいいよ。」
厳しい言い方に聞こえるかもしれないが、一応こういう言い方を選んだのは、「このままだと太陽があまりにも可哀想だ」と思った夏月の優しさでもある。
「…すみません」
「いや鬼に謝らなくていいだろ」
何故か優李が謝りながら出てきた。
「ごめん…太陽…。」
「だから謝らなくていいって」
そして何故か美音も謝りながら出てきた。
「とりあえず押し入れ戻したら行こっかぁ〜。3人共、みーつけた!」
こうして皆で押し入れを片付けた後、3人は音楽室へと連れて行かれた。
◆◆◆
蒼の場合
「さてと、これで最後だね。」
「ですね。」
海斗と夏月がそう言いながら体育倉庫に入っていく。
「うーん…居なさそうだね〜」
「とはいえここ以外もうくまなく探しましたよね。」
「だねぇ…あ。」
「どうしたんですか?」
夏月が尋ねると海斗は上を指差して言った
「あれ。」
「…」
上を向いた夏月は呆れ半分、感心半分で言葉を失った。そこには棚の上段のマットの上で呑気にすやすや眠る蒼の姿があったからだ。
「…あそこのはしごから登ったんだね。」
「じゃあ僕行ってきます。」
「気をつけなよ〜」
夏月はすたすたとはしごを登ると蒼を起こした
「蒼、もうかくれんぼ終わったよ。」
「むにゃむにゃ…」
しかしまだ起きない。
「蒼、起きて。」
「ん…」
少し大きな声を出したがまだ起きない。
「蒼ー!起きろー!!」
「んぅ…もうかくれんぼ終わったの?」
「蒼君見つけたから終わりだよ〜」
下から海斗が言った
「早く降りて。」
「ちぇー。見つからなさそうな上選んだのに。」
夏月にそう言われると残念そうに蒼は体育倉庫の棚から降りた。
こうして全員鬼に見つかりかくれんぼ一回戦はは鬼の勝利で幕を閉じたのだった………が、皆さん、一人重要な人間を忘れてる気はしないだろうか。
◆◆◆
翼の場合
先に言っておくと、翼は一番最初にあっけなく見つかっている。その間隠れる時間を入れて僅か10分。
「まずはここに靴置いて…と。」
翼は音楽室とは違う教室の床に私物のポケットティッシュを置いておいた。あたかも途中で落としたかのように。
「よし、これでバレないはず。…あ、そうだ。」
翼はそう言うと元々給食の配膳用の白衣が入っていたであろうロッカーに靴を隠し、裸足で足音を立てないように来た道を戻った。目的地は音楽室の隣にある楽器庫だ。
楽器庫には大きな棚や楽器があり、隠れられる場所がたくさんある。そして薄暗い。隠れるにはもってこいのだ。
「どうせなら棚の上にでも隠れるか…。」
翼が目をつけたのは恐らく元々入っていた楽器はどこかしらに寄付されたであろう頑丈そうな大きい棚である。その上ならば鬼達も探すことはあるまい。しかしどうやって登る気だろうか。
「よっ…と。」
なんという偶然か。ちょうどその真隣に脚立が置かれていたので翼はそれを使って登った。
そして頑張って腕を伸ばして脚立を少し遠ざけるという捏造もやった。ここまでして彼女は何故よりにもよって一番最初に捕まってしまったのだろうか。
「ふふん…ここまですれば鬼達も来れまい……ん…?」
自信満々な翼とは裏腹にガサガサと音がする。何の音かと翼がそちらを向くと…そこに居たのは…
「…へ?」
アシダカグモ…通称デカい蜘蛛である。そして暗い中でそんなものを見たら女子高生だろうが小学生だろうが中学生だろうが…
「うわあああああ!!こっち来ないで!!」
こういう反応になるのも無理はない。そして、今はかくれんぼの最中である。こんな悲鳴をあげれば…
「!?今の悲鳴…」
「翼ちゃんかな〜?」
「…楽器庫か。」
鬼を呼び寄せてしまう。さらに運の悪いことに鬼達は廊下を歩いていた。…というのも少し前…
「これ、翼ちゃんのポケットティッシュだよね〜。ここに落ちてるってことはここに隠れてるってことかな〜?」
「…いや、そもそもの話こんなに分かりやすい所に落ちてるのは不自然かもしれません。気付かなかったならそれだけの話ですが。」
「確かに〜。でもとりあえず探しとく?」
そう言って海斗は白衣が入っていたであろうロッカーを空けた
「…」
「これはクロですね。」
「だね〜。いったいどこに隠れたのかな〜?」
そして廊下に出たところで…
「うわあああああ!!こっち来ないで!!」
と、音楽室の方から聞こえてきたわけである。そしてついでに言うと音楽準備室は音楽室と繋がっているため鬼のいる音楽室を経由しなければ行けない。
よって隠れ場所は楽器庫となる。
2人が急いで行って扉を開けると…
「うわぁっ!」
そのタイミングで後ずさった翼がバランスを崩して棚から落ちてしまい…
「っ!」
夏月がすんでのところで肩を受け止めようとしたが
「うわっ!」
そのまま二人して後ろに倒れ込んでしまった。幸いにも何故か毛布(恐らく日除けか何かのためだろう。)が置いてあり、それがクッションになってどちらも怪我はしないで済んだ。
「大丈夫〜?」
「いてて…ごめん夏月くん。怪我は無い?」
「…一応尻餅ついただけだよ…少なくとも君が落ちてこなければこんな事にはならなかったけどね」
夏月が恨みがましく言った。
「棚からぼた餅ならぬ棚から翼ちゃんだね〜」
「あはは…」
翼は苦笑いした。それを見た夏月は気まずいこの状況の中、小さく笑ってこう言った。
「…翼、みーつけた。」
「…見つかった。」
翼も流石にこの状況には耐えられなかったのか若干恥ずかしそうに言った。
「一番最初に見つかっちゃったね〜」
「えっ私一番最初ですか!?」
「うん。あっけなかったよ。」
「私結構凝った隠れ方したんだけどなぁ〜!」
「夏月くん全部の仕掛けに気付いてたよ。」
「マジかぁ…。」
こうして、翼は最初に音楽室に連行されていったのである。その後は読んだ通り、アイと実穂、龍司、美音と太陽と優李、蒼の順に見つかり、かくれんぼ一回戦は鬼の勝利で終わった。
◆◆◆
「いやぁ〜それにしてもまさか私が一番に見つかっちゃうとはね!でも学校でかくれんぼ想像以上に面白かった。」
「だよねだよね!もっかいやろ!」
私の反応にアイさんが言った。
かくれんぼを一回しただけなのに私達は驚くほど仲良くなったのだった。
「次はなんかルール追加しない?」
「いいね〜!」
「じゃあさ〜次は『ペア決めて一緒に行動しなきゃいけない』ってことにしない〜?」
「いいね!あ、じゃあ次は私鬼やって良い?」
アイさんは賛同した後鬼役に立候補した。
「僕も鬼やりたいです。」
蒼も立候補した。
「じゃあ鬼役はアイと蒼君の2人ね〜。」
「ペアどうやって決める?」
実穂さんが言うと海斗さんはスマホを取り出した。一応この世界では未来人はある程度精神が成熟しているとみなされスマホ持つことが許されるパターンが多い。なので翼達も持っている。
「このくじ引きで決めよ〜。とりあえず今…えーっと…いち、に、さん…」
「アイさんと蒼を除いて8人です。」
「夏月くんありがとうね〜。じゃあ一人ずつ好きな番号選んで〜。」
「じゃあ俺1で」
太陽は1番
「私は2番で」
優李は2番
「私は3番がいいな」
実穂さんは3番で
「じゃあ私4にしようかな。」
4は死を連想させるー!というこじつけを言って嫌がる人もいそうなので私は4番。
「じゃあ私5番で」
美音は5番
「僕6で」
夏月は6番
「じゃあ俺ラッキーセブンってことで7番」
ラッキーとは限らないが龍司さんは7番
「じゃあ僕が8番だね〜。それじゃ、くじの番号5〜8に設定したから1番から4番の人にスマホ渡してくから引いていって出た番号の人と組んでね〜」
「じゃあまず俺からですね。えーと…7番」
太陽がくじを引くと7番が出た。
「リュウとだね〜。ご愁傷様〜。」
「俺は厄災かよ!?」
「はぁ…よろしくお願いします。」
太陽は(うるさそうな奴と組むことになったな…)とため息をついてから挨拶をした。
「露骨にため息ついた!…まぁ…よろしく…お願いします。」
面白いコンビになりそうである。
「じゃあ次は私ですね…8番」
「じゃあ俺は優李ちゃんと組むんだ〜よろしく〜。」
「お手柔らかにお願いします。」
「大丈夫大丈夫。今回味方だから〜」
こちらも意外な2人がコンビになった。
「次は私だね。えっと…あ、美音ちゃんと組むんだ。よろしく。」
「よろしくお願いします!実穂先輩!」
美音ちゃん、実穂さんにまで先輩を…いや、実質先輩か。
「先輩かぁ…!よし、先輩頑張る!」
それでやる気になる実穂さんも実穂さんである…って私が言うか。
「最後は私だね。…嫌な予感しかしないけど。…うん、6番。」
「夏月君とだね〜」
先程見つかったというのもあり、かなり気まずい。しかも私、棚から落ちてきた側だし。
「…」
「何?僕じゃ不満?」
反応に困り黙っている私をみかねたのか夏月が不満気に言った。
「いや不満じゃないけど…その…さっきのことあったし…逆にそっちが嫌じゃない?」
「別に。」
夏月はふい、と目を逸らした。絶対私と組むの嫌だったやつじゃん。というか、私が足手まといになる可能性考えてるんだろうな。
「…言っとくけど、あれ蜘蛛出なきゃ私勝ててたからね?」
「いや、それはない。」
即答かよ。
「いーやあるし!」
「少なくとも僕は君があの教室に隠れてないって見抜いてたよ。随分杜撰な工作だったね。」
「杜撰って…」
「2人共けんかしない〜。」
「「してません」」
見るとみんな何とも言えない表情でこちらを見ている。何とか言ったらどうだ。
「…先輩方に勝てない気がしてきた…。」
「いやどうなるかわからんよ?」
苦笑いしながら言う美音に私はフォローを入れた。
「それじゃ、かくれんぼ2回戦始めよっか〜。」
こうして、海斗さんの一言とともにかくれんぼ2回戦が開幕した。
◆◆◆
美音と実穂の場合
「隠れ場所、どうします?」
「うーん…あ、あそこ良いんじゃないかな?」
美音が尋ねると実穂が指差したのは図工準備室である。
「いいですね。隠れ場所いっぱいありそう。」
「それに楽しそうだよね!」
図工室、図工準備室は隠れる場所の多さや、そこにしかない道具の数々など音楽室、理科室等と共通点が多い。だがしかし、先ほど挙げた教室の薄暗いイメージとは対照的にその2つは明るい、楽しいと言ったイメージが強い。なので隠れる側も気が楽である。
「あ、どうせならここにしよ!」
「あ、確かに!いざとなったら箱被って逃げればいいですからね!」
2人は工作用の段ボール箱の山の中に隠れることにした。
しかしそんな"隠れる場所がいっぱいある"所を鬼が見逃すはずも無い。なんなら最初に探しに来るだろう。楽しそうだから。
「みーつけた!…やっぱひっかからないか…。」
龍司は引っかかったっていう話だけど。とアイは笑った。
「ですね。まあこれで引っかかったら面白すぎますけど。」
「だよね。見たかったなぁ鬼に捕まる龍司。」
遠くで龍司がくしゃみをした気がする
「それで、先輩はどこに隠れてると思います?」
「やっぱり机の下や棚とか?」
「確かに。あ、あと作品棚の影も怪しいですね…」
「あとは…ロッカーの中とか?」
「ありそうです。」
「胸像とか置いてある所も怪しいよね」
「とりあえず探してみますか。…ん?」
その時蒼は、準備室の隅にまとめて置いてある箱のままの段ボールの山が少し動いたのが目に入った。
(今あれ動いた気がするんだけど…。)
しかし今は動いていない。
気のせいか、と机の下をみようとするとまた「がさ…」と物音がした。
「…?」
近づいてよく見るとやはり少しもそもそも動いている気がする。
「アイ先輩!」
「どうしたの?蒼くん。」
「今この箱動いた気がします。」
「マジで?うわ~ホントだ!動いてる。」
「…あ、そうだ。いいこと思いついた。」
そう言って蒼が持ってきたのは石膏の胸像(多分デッサン用)である。
「これで脅かしません?」
「いいね!やろやろ!」
そう言うと石膏の像を二人して顔の前に持った。
そして段ボールを剥がしたり逆さにしたりしていくと…ついに見つけた。
「「見ぃつけたぁぁぁ…」」
「「ぎゃあああああ!!」」
「大成功だね!」
「アイだったの…?」
「まさかここまで怖がるとはね。」
「蒼先輩!?」
「というわけで、2人共みーつけた!」
アイが元気よく言った。
「見つかった〜!」
実穂も言って、美音と2人して音楽室に連れて行かれたのであった。
◆◆◆
太陽と龍司の場合
「…」
「…」
廃校の廊下に足音だけが響く。太陽も龍司もお互いに何も話そうとしないため気まずい空気が漂っていた。
「あのさ、見つからないといいね。」
気まずさに耐えかねて龍司が口を開いた。
「そう思うなら隠れてる間は黙っててくださいね。」
太陽はそれに対してピシャリと言った。
「うぅ…厳しいなぁ…」
「そりゃ話したら鬼にバレやすくなりますからね。」
「それはそうだけどさぁ…」
なんかこの人俺にだけ容赦無くない?と龍司は思った。まあ実際太陽は誰に対しても容赦なく言う所があるので、完全に龍司の思い違いなのだが。
「…俺、嫌われたかなぁ…」
「別に嫌いじゃないですけど」
「そう?」
こうしてる間に気まず過ぎるデコボココンビが体育館に入った。
「とりあえず体育館まで来ましたけど、龍司先輩どこに隠れた方が良いとか意見ありますか?」
「えっ俺!?…強いて言うなら…体育倉庫とかは…辞めたほうが良い…かと…。」
いきなり意見を振られた龍司は焦りながら答えた。
「…」
「一回戦で蒼が最後まで隠れていたから鬼もその点気にして早く探しに来そう…と…言うか…」
「一理ありますね。」
「えっ!?」
思いの外好感触な反応に龍司は驚いた。
「賛成したらいけないんですか?」
「そうじゃないけど意外だなぁって。」
「そうでしょうか?まあ、何れにせよそれなら体育倉庫ではなく体育館内で隠れた方が良さそうですね。何処か隠れられる場所探しますか。」
そう言って2人で隠れ場所を探した。
「ステージの下は…パイプ椅子が入ってるし危ないからダメだな。」
「見つけてもらえないと下手すると死ぬかもしれませんからね。」
「となると…マットの後ろは…バレやすいし、跳び箱の中とか…」
「狭いしどうやって入る気ですか。」
「いやそりゃ一人が跳び箱の蓋を外して…」
「そしてもう一人はどうします?」
「…それを考えてなかった…。」
「まぁ、案自体は悪くないですけどね。見えにくいし、鬼がそこに隠れていることを想定する可能性が低い。」
「ほんとか!?」
「ええ。隠れる方法がない所以外悪くなかったと思います。」
「そっかぁ…じゃあ、鬼が「ここに隠れてるな〜」って考えづらい、尚且つ表面上からバレにくい場所…あ。」
龍司の目に入ったのは、ステージのカーテンである。
「…あそこ…良くね?」
カーテンは布製なので中に人が隠れていたとしても布のシワだと思われ、バレづらいだろう。よほど余裕がないわけではない限りは、
「…確かに。それじゃあ、2人でカーテンに隠れますか。」
太陽が納得したように言った。
「おう!」
「…意外と狭いですね。」
「仕方ねえよ2人で同じ場所隠れるルールなんだから。」
狭い場所に男二人。特に何も起こらない。そしてしばらくして、鬼が来た。
「体育倉庫、人居なかったね〜。」
「やっぱみんなよく考えてるんですね。」
「てか、蒼くんが最後まで隠れてたから鬼が警戒するって思ったんじゃない?」
「それありますね。」
「一応体育館も探しとこっか。」
「じゃあ僕、マットの後ろとかステージ裏とか見てきますね。」
残念だったな。俺達は今例が上がったどちらにも居ない。
龍司はほくそ笑んだ。…と同時にお腹が「ぐ〜…きゅるる…」とそこそこの音量で「腹が減った」と悲鳴を上げた。
太陽と龍司は一瞬(バレたか!?)と思った。が、幸いにも鬼からは聞こえていないようで2人はほっと胸をなで下ろした。
「龍司先輩ちゃんと昼ごはん食べてきました?」
「いや食ってねえ…昼まで寝てた…」
「それは食べなさい。」
「でもさぁ…あ、」
少し動くだけで布が動いた。カーテンに隠れるのは想像以上に難しいらしい。
「動かないでください鬼に見つかりますよ!」
「とりあえず直さなきゃ…」
「それやったらまた布動くんで鬼に見つかりやすくなりますよ!」
「あ、舞台袖に鬼が!」
見ると蒼が舞台袖に入ってきていた。2人は息を殺し、「ここには誰もいませんよ〜」とでも言うように気配を消した。
「…」「…」
「…ここには居なさそうだな…」
「ほっ…」
2人はほっと息をついた。しかしそこに第二の災厄が来ているとは夢にも思わなかった。
「それにしても、ステージってなんかテンション上がるよね!私ついさっきやった心理テストでアイドルタイプになったんだよね〜」
そう言うとアイはステージでアニメに出てくるアイドルの真似をし始めた。
「転ばないようにしてくださいね。」
「わかってるって!きゃっ!うわああ!!」
そう言いながらターンを決めた拍子に転び、その時とっさにカーテンに掴まってしまい……
「うわぁっ!」
龍司達が隠れており丸まったカーテンが思い切り開かれた
「あ…」
その時、アイはカーテンの中から出てきた龍司を見た。
「え?」
その時、太陽は今の状況を察した
「嘘だろ…」
その時、龍司は天を仰いだ。
「…見つからないと思ったのに…ごめんね太陽くん。」
「大丈夫です謝る事無いです完全に不可抗力なんで。てか悪いのあっち側だし。」
「太陽くんほんとごめんね?」
「俺は!?」
「龍司もごめんね」
「後付け!?」
「…次から気をつけましょう。」
「はーい!」
「これなんの時間!?」
1人テンションに追いつけていない龍司を置いて、状況だけが進んでいく。そして事実を告げるように蒼が言った。
「…龍司先輩、太陽くん、みーつけた。」
こうして2人も音楽室に連れて行かれたのであった…。
◆◆◆
優李と海斗の場合
「俺思ったんだけどさ〜」
隠れ場所を探す途中で不意に足を止めて海斗が言った。
「何でしょうか?」
若干怯えながらも優李は尋ねた。
「ぶっちゃけ鬼のいる教室の近くに隠れたほうが見つかりにくいんじゃないかな〜」
「…そうですか?」
何を言ってるんだろうこの人は。そんな事して見つからないはずがない…というのは平凡過ぎる考え方だろうか。
「灯台下暗しって言うじゃん?それに鬼達、遠くから探すと思うんだよね〜。だからこそこっちの近くの可能性に気づかないっていうか〜」
「あぁ…」
なんとなく納得できた。確かに私が鬼なら、真っ先に遠くにある教室を潰しに行くだろう。やはりこの人は裏の裏をかくつもりだったのか。
そうして着いてきて〜と言われ着いて行った先は音楽室の真隣の教室である。
「あの…ここは…?」
「俺達の秘密基地へようこそ〜。」
「…入って良いんですかね?」
「ん〜…今かくれんぼの最中だし。そもそも俺等もう知り合いじゃん?」
「それもそうですね…えっと…お邪魔します…。」
そう言って優李は海斗達の秘密基地…実際はこの学校の多目的ホールに入った。
「広いでしょ〜?」
「ホントだ。音楽室より結構広いですね。」
「ここね〜秘密の場所があるんだよね〜」
そう言うと海斗は壁に付いている取っ手を引っ張った。するとどうだろう。なんとその壁はクローゼットだったのだ。
「ここ、意外とスペースあって寝そべるのにちょうどいいんだよね〜」
そう言って海斗は椅子を置いて一番上の段に寝そべった。
「優李ちゃんも来なよ〜」
「…では、遠慮なく…」
そう言うと優李は上から2番目の真ん中の段に寝そべった…すると何か布のような質感のものが手に当たった。
「…これって…」
見た所誰かの財布のようだ。後で教えてあげよう。そう思って優李は財布を元の位置に戻した。
「じゃあ扉閉めるね〜」
そう言うと海斗はクローゼットの扉を閉めた。
辺りが一気に暗闇に包まれた。
ひたすら静かな暗闇の中、優李がぼーっと寝そべっていると上から声が響いた。
「やっぱりちょっと怖かったりする〜?」
「いえ、一応私も未来人なので。」
まだ中学2年生ですが。と付け加える。
「そっかぁ〜。俺高校2年だから勝った〜。」
相変わらずマイペースな人だ。と優李は思った。
「ねぇねぇ、どこ中?」
「えっ…あ、ええと…命来…でしたね。はい。タイムリープ前は命来中に通ってました。」
「そっかあ〜じゃあ俺の後輩だね〜。」
恐らく、大方それを察して問いかけてきたのだろう。
「あとさ〜何部だった〜?」
「え?」
海斗は突然何の前触れもなく関係ない話を振った。
「部活、何やってた〜?あ、もしかして帰宅部〜?」
「いえ、吹奏楽部…ですけど。」
「そっかぁ〜。俺も吹奏楽部〜。」
同じだね〜と言い始める海斗に優李は尋ねた。
「…何の楽器を担当されてたんですか?」
「ん〜…バスクラ?」
「バスクラ…?」
バスクラ…バスクラリネットの略である。確かに、ここまでマイペースな人なら安心感はあるけど…意外な人が先輩だったな…。
「そっちは何やってた〜?」
「えっと…1年の頃はバリサク…バリトンサックスですね…2年になってからアルトサックスに変わりましたが。」
「そっかあ〜じゃあ木管低音仲間だ〜。」
「な、仲間だ〜…?」
ひとしきり騒いだ後、海斗は不意にいつもと違う声色で優李に尋ねた。
「ねぇ、優李ちゃん。」
「何でしょうか?」
「翼ちゃんって、いい先輩、できてる〜?」
「へ??」
「優李ちゃんたちの前で翼ちゃんいい先輩できてるかな〜って。」
「で…できてると思います…?」
翼はタイムリープ前から元気いっぱいで私よりも子供っぽくて行動的で目を離すとちょっと危ないような人だが、悪い人では絶対無いと断言できる。
「そっかあ〜それなら良いんだよ。それなら。」
「へ?」
「あの子、タイムリープ前は僕の後輩だったからさ〜。心配だったんだ。」
「そうだったんですか…。」
「うん。そうだよ〜。」
ま、今もそうだけどね〜と海斗は添えた。
「あの子はね〜、ずいぶん前の話なんだけど、ソロを吹くはずだったコンテストを辞退させられちゃった過去があってね〜。ま、あの時俺等インフルじゃないのに辞退させられたけど。」
「…知ってます」
「それから結構荒れちゃってさ〜」
それこそ、部活来なくなったり、遅刻したりしてさ〜と海斗は付け加えた。
「全部よく知ってます。なんなら、それが翼先輩でしたから。」
「…そっかぁ〜…」
「きっと太陽も美音も分かってると思います。翼先輩の立場。」
向き不向きの関係で配属された楽器が、たまたま希望とはかけ離れたソロなんて3年の間にあるか無いか、メロディはかなりレアだなんて言われるような楽器だった。そんな中やっとのことで手に入れられたチャンスが手をすり抜けて行った。きっとそれはこの人も恐らく同じだけれど、心はこの人ほど強くは無かった。その時は可能性なんて何一つ無かったが、少なくとも今はまだ、その時になってはいない。
「…あの人、存外この状況を楽しんでいるのかもしれません。」
「…そうかもね。」
海斗がそう言うと、それ以降お互い何も喋らなかった。…するとそこに
「やばいやばい!秘密基地に財布置いてきた〜!」
鬼…というか忘れ物を取りに来たであろうアイが来た。
「えっと…どこ置いたっけ…えーと…机…床…あーどうしよう!」
財布ってもしかしさっき触った…そう考えていると…
「あー!」
そう声がしたと同時に扉が空けられ、
「あっ!みーつっけた!」
「うわぁ…」
「見つかっちゃったねぇ〜」
「あ、私の財布知らない?」
アイが思い出したように尋ねた。
「これですか?」
優李がさっき見つけた布っぽい手触りの何かを見せた。これコインケースだったんだ。
「あ、それ!マジでありがとう!」
そう言うと大切そうに財布を持って行った
「落とさないようにしてくださいねー!」
「うん、分かったー!」
優李がその場から言うと遠くから返事が返ってきた
「…ま、いっか〜。とりあえず音楽室戻ろ〜。」
「はい。」
こうして優李と海斗も音楽室に行くことになったのだった。
◆◆◆
翼と夏月の場合
1回戦ではみんな捕まってしまったが、2回戦では見事に生き残ったペアがいる。それが翼と夏月である。
「…とりあえずどこ隠れる?」
「そもそも僕は今日ここに初めて来たから構造自体あまりわからないんだけど。」
会話がなくて気まずいので翼が話しかけると夏月からそう返され1秒で会話が終わってしまった。
「恥ずかしながら私も音楽室しか来てないからそこまでしかわかんないんだよね。強いて言うなら音楽室のある建物なら把握してるけど…」
「何があるの?」
「1階に和室と図書室と理科室があって2階にわたり廊下と家庭科室と図工室とかパソコン室があって3階には多目的ホールと音楽室がある。それしか知らないよ。」
「今言ったやつはどれも鬼が目をつけそうだね。」
「だね。…あ。」
「どうしたの?」
翼の目に入ったのは階段だった。
「あそこの階段…上行ったことないんだよ。登ってみない?」
しばらく考えて夏月は言った。
「…見てみる価値はありそうだね。」
「じゃあ行ってみよ。」
階段の上は扉があった。
「どうやら、屋上しかないみたいだね。」
「この扉開くかなぁ…?」
翼が試そうとした。
「やめときなよ。大概自殺防止のために屋上の扉は開かないようになっているからこの扉も開かないんじゃ…」
そう言っているうちに翼は扉を開けてしまった。
「開いた。」
「聞いてた?」
呆れた夏月をよそに翼は屋上へと飛び出し、はしゃぎ始めた。
「うわ~!こんな風に屋上に来れるなんて学園モノのゲームやアニメでもない限り早々無いよ?」
「…確かに、それもそうだね。」
廃校とはいえこの学校は屋上のセキュリティがガバガバ過ぎるんじゃないかと夏月は思った。普通小学校の屋上がこんな風に解放されれてたら絶対事故増加するだろ。本当に。
そんな夏月の心情なんか気にせず、翼はいたずらっぽく笑って言った。
「ねぇねぇ、隠れ場所ここにしない?」
「は?」
「だってさ、ここ、外にでも出て、上でも見ない限り見えないよ?それに、わざわざここまで来る鬼、居ないと思う。」
確かに一理ある、と夏月は思った。それに屋上は通常、解放されていない。つまり、屋上に隠れている可能性は鬼の中に存在しないのだ。それを逆手に取れば、最後まで隠れきることも可能かもしれない。尤も、翼がそう思っているかどうかは分からないけれど。
「…それがいいね。そうしよう。」
「あ、あっちに丁度いい日陰あるよ。」
物陰になっている丁度いい段差に2人で腰掛け、景色を眺める。今は丁度夕暮れ時のようで、だんだんオレンジ色に染まっていく空と、西日が反射してキラキラと輝くビル群が見えた。
「うわーめっちゃ綺麗!」
翼は景色を見ながら言った。
「まぁね。」
夏月はそっけなく答えた。
「練習中休憩時間に教室の窓から景色見たの思い出すなぁ…。」
練習中、というのはタイムリープする前の中学時代の吹奏楽部だった頃の事である。
「…確かに。君はよくサボって景色見てた。」
「だよね。私が言うことじゃないけどさ。」
そう言って笑ったあと、不意に翼は真剣な声色で話題を振ってきた。
「…ねぇ、もし仮にだよ。タイムリープした今、未来を変えられるとしたら私、今よりもっと素敵な人になれてるかな?」
翼は恐らく本気で、切実にそう思っているのだろう。けれども未来はどうなるか分からない。というか変えたとしてその場合翼がどうなるのかも今の時点では分からないのだ。
「…そんなの、今の時点ではまだわからないよ。」
「…それもそうだね。でも、もしもそんな事ができたら…って私考えちゃうんだ。」
そう言うと翼は正面を向いて語り出した。
「きっとその時は冬のコンテストにも出られてるかもしれない。それにテストの点数も前よりずっと良いかも。ついでに男子からもモテちゃって…女子からもチヤホヤされて…ソレが心からっていうか…全部ウソじゃなくて……きっと今よりずっと幸せで……………」
翼はどこまで能天気なんだろう、と夏月は思った。
「…そうとは限らない。第一、その馬にいる全員から本気で好かれるなんてことあるわけないから。」
「…まぁそうだよね。でも本気で思うんだ。もし1日でもそんな時間を過ごせたら…私…そのために死んだって消えたっていいよ。だって幸せなんだから。」
その言葉を聞いた夏月の中にドロドロとした感情が渦巻いた。勝手に居なくなるなんて、巫山戯るな。
「…嫌だ。」
「へ?」
翼はきょとんとしている。
「君が幸せなんだとしても、そのかわりに君が死んだり、消えたりするのは嫌だって言ってるんだよ。」
夏月は翼に少し近づきながら、顔を見て真剣に言った。
「そ…そんなに嫌?私夏月くんにも結構迷惑かけたし嫌われてると思ってるんだけど」
夏月の気迫に翼は驚いている。
「…別に嫌いじゃない。」
「そうなの?」
「けど、もしも本当に君が未来を変えようとして、その代償として君が消えるんだとしたら。」
夏月は少し声を低くして言った。
「その時は絶対に君を止める。なんなら君が嫌われるように仕向けたっていい。」
翼はびっくりしていた。まさか夏月があの発言でここまで怒るとは思わなかった。やばい、完全にブチギレてるこれ。
「…あの、怒ってる…よね?」
「別に怒ってない。」
「…そっか。」
そう言うと翼は黙ってしまった。
2人の間に長い沈黙が訪れる。
そしてしばらくして、夏月は肩に重い感触を感じたので見てみると、翼が寄りかかっていた。恐らく無意識のうちに。
「…すぅ…」
「…翼…?」
「すぅ…すぅ…」
「…寝てるの?」
どうやら寝てしまったらしい。今回のかくれんぼは寝るやつが多すぎると夏月は思った。
「…何の犠牲もなく未来を変えられたとしても、男子にモテるのだけは辞めてほしいな…。」
夏月は誰に聞かれることもなく、そう零した。
そしてもうかくれんぼの制限時間はとっくに終わっており、廃校の中では、みんなが2人を探していた。
そして、鬼だったアイと蒼が屋上の扉の鍵が空いていることに気付いて屋上に入ってきた。
「夏月ー!翼ー!どこ行ったのー?…あ、いた!」
見つけたのは蒼だった。
「夏月、もうかくれんぼ終わったよ。」
「しー」
夏月は自分の唇に人差し指を当てた。
「どうしたの夏月くん」
アイも2人を見つけて話しかけた。すると夏月は翼を指差して言った。
「…寝てます。」
「あ、ほんとだ。」
「でもとりあえず起こして連れてかないと。」
「翼。もうかくれんぼ終わったよ。」
そう言いながら夏月は翼の肩を揺すった。
「んぅ…おはよう…あれ、もう終わったの?」
「うん、最後まで残ってたの二人だけだよ!」
おめでとー!とアイが言った。
「それにしてもまさか屋上が開いてるなんて…」
その可能性は考えてなかったよ。と蒼も言った。
「それじゃあ皆で音楽室に戻ろっか!」
アイの声とともに2人は立ち上がり、そのまま4人で音楽室へ戻ったのだった。
◆◆◆
「あ、翼先輩達戻ってきた!おかえりなさい!」
そう言って出迎えてくれたのは美音だった。
「ただいま!いやー美音ちゃん心配かけてごめんね!」
「ホントですよ。ずっとウロウロしてて、「もしかしたら危ない所に隠れて大怪我してるのかも…」とか言ってましたから。」
「太陽くんもごめんね〜!」
「まあ、何事もなくてよかったです。」
「優李ちゃんもごめん!」
秘密基地のメンバーに片っ端から謝っていると龍司さんが口を挟んできた。
「そういや結局どこに隠れてたの?」
「屋上」
「屋上!?!?」
「なんか鍵空いてて入れました」
「何事もなくてよかったけどさぁ…そんな鍵空いてたら絶対ここに通ってた小学生一人が二人くらい遊んで事故ってるだろ…」
龍司さんは片手で頭を抑えて言った。
「それは僕も思います。」
「まあその辺は廃校だから仕方ないんじゃない〜?」
「海斗は気楽だなぁ…」
龍司さんが項垂れていると実穂さんが言った
「…そろそろ外暗くなるし、皆帰ったほうが良くない?」
「あ、実穂この後のテレビ見たいんでしょ?今日好きなアニメやるもんね?」
アイさんが即座に言った。
「…それもある。」
「じゃあ、皆帰ろうか。」
「あ、蒼と夏月は分かる所まで私が送ってくから。美音達は早く帰りな。」
「先輩ありがとうございます!」
美音が言った。
「じゃ、またね〜!」
「じゃあね〜!」
「また遊ぼうね〜!」
「また明日〜!」
口々に挨拶を交わし、帰路に着いた。
その後、他愛もない会話をしながら自転車で前来た公園まで2人を送り、翼は家に帰る。
「…もし私が消える事になったらその時は私が嫌われるように仕向けたっていい…か。」
夏月がどういう意図であの言葉を言ったのかはわからない。しかし、「それでも私は、未来を変えてみたいな。」
確かなのは、自分の後悔、悲しみ、挫折、その全てを変えたいという事だ。
こうして夏の長い1日は幕を閉じた。




